第三十二話:あなたの中に、入り込んでました
入れる?何を??
その問いに、誠司は答えるだろう。
「――それは、“気持ち”だよ」
ふざけたセリフに聞こえるかもしれない。
でも、誠司にとって今、
物語を書くってことは、誰かの“中”に自分の気持ちを入れることなんだ。
三ツ谷の心。
読者の心。
過去の自分さえも。
“入れる”ってのは、
文字じゃない。
ネタじゃない。
想いそのものだ。
そして、彼はこう続ける。
「……だから今、一番入れたいのは――
“あなたに読んでほしい、この物語”なんだよ。」
その“物語”こそが、
三ツ谷に届けたい、もう一つの告白。
――今回は、三ツ谷視点。
最初に誠司を見たとき、
「やれやれ、また一発屋の残り火か」と思っていた。
でも今――彼の言葉が、彼の文章が、
気づいたら、自分の中に入り込んでいた。
『その名前、まだ入れてないだけ。』
初めてタイトルを見たときは笑った。
でも、読み終わったとき――涙が出た。
誠司は、自分の書いたものに不安そうだった。
「読まれないかもしれない」って、ずっと怯えてた。
でも、三ツ谷は気づいていた。
「……もう、私の中にいるんですよ。先生」
打ち合わせ中、ふと気づく。
彼の視線は、キーボードじゃなくて自分の手を見ている。
自分の話を、真っ直ぐに受け止めてくれている。
そして今、彼の物語には――
“三ツ谷という人間”が、ちゃんと刻まれている。
ふと、誠司が聞いてきた。
「ねえ……俺、入ってるよね?」
「……ええ。
もうとっくに、“中”に入り込んでますよ、あなた」
だけど言えなかった。
「先生が書いたその物語、
私が昔書こうとして、書けなかった“ラストシーン”なんです」
つづく
次回予告:
第三十三話『まだ中、出してないよね?(再)』
三ツ谷の未完の物語。誠司が踏み込むラスト1ページに、何が挿れられるのか――!?




