第十三話:まだ中、出してないよね?
タイトルだけが先にバズった。
『その名前、まだ入れてないだけ。』
SNSでは勝手な妄想が飛び交い、
「これはエロ系」「これは自伝系」
「これはタイトル芸の新境地」とまで言われていた。
でも、俺は――
もう“中”、出してるからな!!
原稿はもうとっくに提出済み。
しかも三ツ谷からは、ちゃんと高評価の返事ももらっていた。
【このまま編集会議に出します】
【タイトルはともかく、中身は文句なしです】
それを聞いたときは、確かに嬉しかった。
けれど今――
内容は誰にも届いていないまま、タイトルだけでイかされている。
編集部の共有サーバーにアップされた原稿ファイル。
社内の数人がその存在に気づき、
読まずにタイトルだけ見て、先にSNSで騒いだ。
そこから地獄の“誤解バズ”が始まった。
「この人、前にも“もっこり”出してたよね?」
「つまりこの人は“出す系”作家ってこと?」
「“まだ入れてないだけ”っていうのが逆に出ちゃってる感じでいいわ〜」
誠司は、自分のスマホをゆっくり裏返した。
「俺の“中身”、誰も読んでねぇじゃねーか……!」
そんな中、三ツ谷からのLINEが届いた。
【一応報告】
【今日の編集会議、タイトルが議題になりました】
【『出す前にバズった作品』として、社内で話題です】
【……で、“中身も意外と良い”って声が上がってます】
誠司の指が止まる。
“意外と良い”ってなんだ。
中身がちゃんと読まれて、それで“意外”ってどういうことだ。
三ツ谷からさらに追撃。
【ただのネタじゃない、っていう評価です】
【“もう一発じゃない”って、言ってた人もいました】
【ちなみに編集長は「これ、読ませ方次第では“文学賞の枠”で出せる」とか言い出しました】
誠司、カウンターで崩れ落ちる。
永田さんが、湯飲みを片手に声をかけた。
「誠司くん、顔赤いけど、また“出ちゃった”んか?」
「違いますよ!むしろ今、正しく“中”が出てくれるか不安なだけです!!」
「ほほう。“正しく出る”ってのは、ええことじゃ」
誤解はまだ続いている。
でも、わずかに届き始めている。
“本当の自分の中身”が。
つづく




