第5話『アレルギー反応』
「ヘッブシ—。熱は…38度 3分…か…」
「よぉ大丈夫か多田野?」
そう言って、熊野が顔を近づけてきた。熊野は知らない。優しさからくる心配は、時に人を殺しかねないことを…。
「ヴィエエエックシュン!!ゲホッゲホッ」
「大丈夫じゃないだろ多田野ぉ!病院まで連れてってやるから!」
熊野がその巨躯を広げて、俺を抱えようとする。
くっ
ハァー
ハァー
くう……
ハァ—
ああ、駄目だ。気を遣っていては駄目だ。これはっ、もうっ…。俺は!俺はッ!
「俺のそばに近寄るなああ———ッ」
「うおわぁぁぁっ!なんだよ、どうしちまったんだよ!」
「アレルギーなんらよ!!」
そう言った瞬間、熊野は顎が外れたのかというほど口をあんぐりと開けて、もはやゴマとなった目で必死にこちらへ焦点を合わせた。哀愁ダダ漏れである。
「多田野?」
「てがう。クアアレルギーでばない。かほん」
「違ったか良かったぁ。熊アレルギーじゃなくて花粉症なんだね。でもなんで俺を避けるのさ?」
おいおい、熊野にあって俺に無いものなんて一つしかないだろ。まぁいいや。
ヘッビシ—
ズビビビィ—
「熊野、君のそのフッサフサな毛の一本一本に花粉が、びっ!しり!!キャッチされてるのだよ」
「なるほど…。つまり今の俺は生物兵器ってことだな?」
「ああそうだ。花粉の核爆弾だ。ホーミング機能付きの高性能な弾道ミサイルってわけだ」
自分で言っておいてなんだが、これは早くも一旦別居が必要だ。アナフィラキシーで死にかねない。すでに、部屋中に花粉が撒き散らされている。
「すまん。許せ、熊野」
—それだけ言って、俺はホテルを予約した。