表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

第2話『エアーコンディショナー』

(寒い―)


 まるで過冷却された様に、少しでも動けばそのまま凍ってしまうと思えるほど…。


「さぶい…」


 毛布の中でガタガタ震え、歯をガチガチと鳴らして悶える。


(もう泣きたいっ。なんなら涙も凍るっ…)


 こうなったのには理由がある。遡ること数時間。ルームメイトである熊野のカバンに、誤ってエアコンのコントローラーがダイブイン。そしてカバンの揺れで、リモコンが押されて冷房が発動。俺が声をかける間もなく、彼は気づかずにそのまま外出した。あまりに急いでいたのだろう。癖で鍵を閉めて颯爽と走り去って行った。

 その結果、ただいま俺はクリぼっちなだけでなく…命すら危うい。


「そうだっ、で、でん、わ…」


 意を決して2段ベッドから降り、極寒の部屋で身悶えしながら第一歩を踏み出した、その瞬間。


「ィっっでェェェッ―」


(アッノヤロォォォ~。な・ん・で・こ・こ・にレゴブロックばら撒いてんだよっ―)


 生まれたての子鹿然とした足取りで、再び歩き出す。


「ハァーハァー」


(家ん中だよな、ココ…。息が…白い—)


 スマホまで、あと、少し。冷たいフローリングをつま先立ちで進む。


「やっと…やっと辿り着い―」

―ゴッ

「ピギャァァァァ—」


 タンスの角に小指をぶつけた。それも極寒で冷えた小指。レゴを踏みつけた足。これは確実に靭帯切った。


「ゔぅ…」


 這いつくばって、やっとのことでスマホを手に取り電話をかける。すると、タンスの下から着メロが流れた。


「なっ—」


 『運命』—ヴェートーベン作


(マジでアイツのスマホかち割ってやりたいっ…)


 彼のスマホを確認すると、ロック画面の通知には、なかなかに蜜月なメッセージが数件。


—とまぁ…俺の記憶はここで途切れている。起きたら、ぽつん、と真っ白い空間にいた。


(え、これ死んだん?まじ?)


「なぁ熊野。ヒトって同居してるだけで死ぬんだな…」

「目ぇ覚めたか!大丈夫そうで良かったぁ」


 どうやら俺は死んでなかったみたいだ。どこをどう見たら大丈夫なのか甚だ疑問だが。だって記憶が途切れて、ギリ死んでなくて、真っ白といえば病院だろ?


「重症じゃねぇか。あれだろ?彼女との待ち合わせに遅れそうで、急いだ結果が殺人未遂だろ?ヒト族に毛皮がないのに、エアコンは獣人族用が一般的とか致命的だよな」

「まぁ…。俺らだってそれなりに苦労してるぜ?夏は毛皮剥ぎたいレベルで地獄だぜ?」

「そっか…。大変だなお互い」


—初日から二人の忘れられない思い出になった。

余談ですが、三途の川すら凍って見えたとの事です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ