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次の人は。

 その日、侯爵家には新しいメイドが雇われた。

 この家のメイド養成は少し変わっていて、まずは厨房の手伝いに入れられる。どこにいても下ごしらえできるようだったら困りはしないだろうと教えられた。

 だから、新人を見たければ厨房に行けばいい。


「これが新しい子ね」


 シャノンは屋敷に新しく誰かが雇われると必ず見に来た。それは幼少期からの癖のように思われているが、少し違う。

 やっかいなものを追い払うために良い紹介状を書くこともあるのだ。自分の家からは厄介者を解雇でき、自分より得をしている家に嫌がらせもできる。両得と思っているらしい。

 シャノンにすればバカらしい話ではあるが、厄介者であるが親族の紹介などで安易に解雇できない場合の最終手段でもあるらしい。どちらなのかは定かでないので、侯爵家としては使えなければ紹介状を用意して解雇している。


 うちになら文句をつけても笑って流せばよかろう。そういう父は少しお人よしが過ぎるのではないかとシャノンは思っている。

 母が、あら、文句を言われますの? と微笑んでいたのにシャノンはぞくっとしたのだが、当の父はのんびりしたもので前のことだよと言っていた。

 口元だけで笑みが深くなった母を見てシャノンは黙った。

 不幸な事故が起こっても、何も言わないでおこうと。


 それはさておきと新しいメイドはじゃがいもの皮をむいていた。むっとしたような顔つきだが、眉間にしわを寄せているところ見ると集中しすぎてその表情のようだ。


「薄切りに命かけてるの?」


「負けたような気になって」


 何にと思えば、先週に入ったメイドが無表情で皮をむいていた。手慣れたというより、何か別の者を切り刻んできたのでは? と疑いたくなるような手腕である。


「ジェーンさんでしたっけ」


「覚えていただき光栄です」


「ほどほどにね」


「承知しております」


 そういいながらもジェーンは片眉だけをあげて、なんか文句あんの? とでもいいそうではあった。

 ここにいるだけ、ありがたいと思いなさいよねとさえ言いだしそうだ。

 シャノンは撤退することにした。分が悪いのはシャノンのほうだ。


「あとでお茶を用意してくれる?」


 料理長にそうお願いしてシャノンは厨房を出た。


 シャノンは先週のことを思い出す。


 どこから入手したのかわからないが、正規の紹介状を持って辺境から彼女はやってきた。

 正規の雇用の面談を楽々と突破し、最終面接としてシャノンの前に立った時には大変不満顔だった。いつもは両親のどちらかがしていたが、シャノンがどうしてもとお願いしたのだ。


「死体を掘り起こしてはいけません、って常識なのでは?」


 彼女は呆れたと言いたげだった。


「ジェーン、そう名乗ったと聞いたけど」


「ええ、死体には似合いかなと思いまして」


「どういう意味?」


「俗語での氏名不詳ジェーン・ドゥ


「ちょっと中二病の気配がするわ」


「いいじゃないですか。せっかくの異世界転生なのに病んだ世界とかおかしくないですか!?」


 ふてくされたように言う彼女にシャノンは苦笑した。病んだというよりも、価値観が違いすぎるのだ。ここにはまだ人権など存在しない。あるいは支配者階級だけに存在する。

 宗教ですら、皆が平等なのですと言いはしない。


「まあ、ここではそんな意味ないからいいけど。

 あなたには最終的に私付のメイドか侍女になってもらうわ」


「なにをするつもりなんです?」


「婚約破棄」


 婚約している令嬢から、言いだすのは異例だ。

 だからこそ、同じ異界からやってきた、最低限の倫理が合いそうな相手が欲しい。一人で折れてしまわないように。


「私はなにを?」


「応援係」


「へ?」


「さあ、女性の自立に向けての第一歩よ」


「すごく主語がでかいんですけど!?」


「いいのいいの。私、これでも令嬢のトップ、私のあとに皆がついてくる、はず」


「はず……。わかりました。敵も爆増しそうなお嬢様に付き従う万能冥途メイドやります」


「なにか違うものになりそうな?」


「気のせいですよ。私だって鬱憤がたまってんですよ。この世界というかあの王子に。やり返していいならやる気にだってなりますよ」


「それはよかった」


「わたしの、セオドアの仇はとってやりますよ」


「じゃあ、まず、じゃがいもの皮むきね」


「……へ?」


「ごめんねぇ、うちのメイド養成、厨房からなの」


「なんでーっ!」


 愕然とした表情のジェーンにシャノンは採用の判を押す。


「うふふふ。契約したわ。逃げられなくってよ」


「……じんせいまちがえました?」


「いまさらねぇ。大丈夫、骨は拾ってあげるわ」


「同じ言葉返してあげますね。お嬢様」


「ええ。そのときはよろしく」


「……はぁ。もう、ほんと……」


「なぁに?」


「いいです。わかんないと思うんで」


 そういって勝手に出ていったジェーンはそのあと家政長にしこたま怒られたらしい。

というところから始まる女の子バディものが書きたかった……。

最凶冥途になったジェーンと孤高のお嬢様シャノンの婚約を破棄するための戦い。

いつも通り、ヒーローどこよ? 空気なの? になりそうです。

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