表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/52

座学のお時間です

 まさか初デートはイリスのお家となるなんて……さすがに予想していませんでした。


「何か変なこと考えてる?」


「イエ!!ソンナコトナイデスヨ」


「すごいカタコトじゃん」


 街から出て森へと入りしばらく歩くと、大きな洋館が建っていた。

 1人で暮らすにはさすがに大きく、大家族が住んでそうな感じがする。


「ここが私の家」


「でっか……」


「入るよ」


 イリスは鍵を取りだし解錠して、扉を開け中へと入った。

 中に入りまず目に入ったのは入口から奥の階段まで続く赤い絨毯。天井には大きなシャンデリアがぶら下がっており、まるで絵本に描いてあるような王宮がイメージさせられる。

 ただその王宮のような華やかさはこの洋館にはなかった。

 暗く、薄汚い。それが次に抱いた私の感想だ。

 本来、部屋を明るく照らすはずのシャンデリアは機能しておらず、赤い絨毯は薄汚れており、部屋全体は埃被っている。おまけに部屋には蜘蛛の巣がある始末だ。

 私は中に入るのに戸惑ってしまったが、イリスは物怖じせず中を突き進んでいく。


「ちょっと待って!」


 本当は入りたくないが、ここまで来たからには引き返せない。

 掃除とか苦手そうだもんなイリス。

 イリスに張り付くようにして、部屋を突き進む。

 埃とか吸い込みたくないのでできる限り呼吸をしないようにした。


 イリスは階段下の部屋を開けそこへ一緒に入った。

 扉を閉め、入った部屋を見渡すと、そこは先程の玄関とは違い綺麗な部屋が広がっていた。

 その部屋には壁には一面の本棚が広がっており、正面には机と椅子が置いてあった。

 埃被ってる箇所がひとつも見当たらない辺り、この部屋だけは掃除しているのだろう。

 机の後ろ窓からは陽の光が差し込み、部屋を明るく照らしていた。


「ここは……」


「ここは書室。ここでよく研究や作業をあの人が行っていたんだ」


「あの人?」


 ふと疑問に思いながら、辺りを見渡しているとある一つのものに目が止まった。

 それは机の上に置かれた写真立てだった。

 そこに写っていたのは白銀の髪色をした青い目の幼い女の子と茶色いボブの髪の幼い女の子、赤色の短髪の幼い女の子。

 そしてその3人の後ろに写っているのは、身長が高く3人の保護者のような女性だった。

 しかしその女性は笑っている口元より上の写真が切り取られており、顔全体は分からないようになっていた。

 彼女の頭は写っていないが、おそらく本人のであろう長い白銀色の髪が腰あたりまで伸びているのが分かった。


「レイラはさ。魔女についてどれくらい知ってるんだっけ」


「えーと、魔女というのは国の象徴であり、恩恵として魔法を与えてくれるっていうのと、魔女は神に見出され、絶大な力を授かった者のこととで、元は少女だったというところかな」


「なるほど。というか魔女ってそんなふうに思われたのか……」


 あれ?もしかして私の認識が間違ってる?


「国の象徴ってのは知らなかったな。魔女ってのは文字通り魔なる者のことを指すから、どちらかというと国に仇なす存在なんじゃないかな」


「え、そんなものなの?私にはイリスがそこまで酷い存在には見えないけど」


「私自身のことはどうでも良くて……でもあんまりいいものではないと思うけどな。確かに恩恵として魔法を齎したって部分は合ってるけど」


「私は逆にその部分に着いてはよく知らないんだよね」


「レイラは魔法については知ってるでしょ」


「うん、知ってるよ。この国の1部の人間だけが使える力だよね。さっきの戦いで、あの子が使ったような」


「うん。それじゃその魔法は何で使うことが出来ると思う?」


「それは魔女が恩恵として民衆に扱えるようにしたんじゃないの」


「ちょっと違うかな。民衆に扱えるようにしたんじゃない、民衆が扱えるようになったんだ」


「……どういうこと」


「魔女の力は莫大だからね。魔女が存在するってだけで、勝手に影響を受けて魔法が扱えるようになったんだ」


「それじゃあなんでみんなが魔法を扱うことが出来ないの?」


「適正だよ。魔法なんてものは才能が全てだから、魔法を扱う適正が無い人はそもそも扱えないよ」


「なるほど……そういうこと。あれ?魔女の影響で魔法が扱えるってことはこの国しか魔法が扱えることにならない?っていうか他に魔女っているの?」


「魔女は他にもいるよ。それに他の国でも魔法を扱うことが出来る」


 イリスは窓側の方まで歩き外の方を見ながら話の続きを始めた。


「まず第一にこの世界には5人の魔女がいるんだ」


「5人も?」


「うん。そしてその魔女はそれぞれ異なる国に所属している。だから魔法を扱う国は5カ国ってことになるかな」


「それじゃあ魔女のいない国は魔法を扱えないってことになるよね?それってものすごくまずいんじゃない」


「うん。当然ながら魔法を扱えない国が魔法を扱える国に敵うはずはない。結果、そういった国たちは魔女の存在する国に支配されているか、操り人形になるか。ギリギリのところで独立をたもっているか。まぁいずれにせよ良い状況ではないよね」


「それはものすごく……ご臨終申し上げます」


「なんか適当だな。一応魔女がいる国同士では国境線をお互いに決めあって、それを不可侵するようにしている」


「それはどうして?」


「大国同士が争ったらとんでもない被害と死者がでるからね。それに魔女同士で争うこと自体禁忌とされているから」


 確かにそれぞれでそういったルールを定めているからこそ、今の平和な状況があるのだろう。

 というかそういったことを取り決めている少女が目の前にいるなんて、もしかして凄いことなのでは


「じゃあ凄いね、イリスは」


「?」


 彼女は不思議そうな顔をした。


「なんでそうなるの?」


「だって魔法や魔女同士のやり取りを全部してるってことでしょ」


「いや、私は何もしてないよ。私は魔女になって何も行動を起こしていない」


「……へ?」


 一体どういうこと。

 何も行動を起こしてない?

 え、じゃあ今まで話した魔法とか魔女同士のことは誰が取り決めたってことになるの?


「私は何もしてない。そういったことを全部取り決めたのは、先代の魔女なんだから」


「先代の魔女?」


 思わずオウム返ししてしまった。

 というか先代の魔女ってなんだ?

 そんなこと何も聞いてないぞ。


「きっと君たち一般人には伝わって無かったんだろうね」


「なんの事?」


「先代の魔女……かつていたここフランシィ王国の魔女はもう死亡している」


「……」


 唖然として何も声が出なかった。

 え、死んだ?

 聞いたことの無い情報に頭が混乱する。


「そして私は先代の魔女の力をほんの僅かに受け継いだだけの偽物に過ぎない」


 イリスは肩を少し縮め、気まずそうに私へ目を向けた。

 一方の私は情報を処理しきれず、しばらく黙り込んでしまう。


「ねぇ、レイラ。あなた、魔法が扱えないでしょ」


「……!?」


 驚きで心臓の鼓動が高鳴り、その音が耳まで聞こえてくる。


「なんでそれを……」


 確かに私は魔法を扱えない。

 それを人に知られないよう黙っていた。

 だけどイリスにあっさりと見破られてしまった。


「魔女は全ての魔法の源。ある程度のことなら理解出来るからね。それにあなたが魔法を扱えないのは、きっと私のせいだから」


「どうしてそう思うの?」


「私に力がないから……あの人ならきっと……」


 この部屋に入った時、イリスが言ったことを思い出す。


『ここでよく研究や作業をあの人が行っていたんだ』


 あの人ってのはきっと先代の魔女のことだ。

 でもどうしてイリスに魔女の力が引き継がれたんだ?

 それにイリスはその魔女と面識があったのだろうか。

 そういえば……

 私は机の上に置いてある写真立てを見る。

 そこに写っている白銀の髪色をした青い目の幼い女の子。

 これはきっと昔のイリスだ。

 ということはその後ろに立っている大人の女性は……


「もしかしてこの写真の……」


「そう。その写真の後ろに立っている女性。それがかつていた先代の魔女エルゼ。」


 私は息を呑んだ。

 そしてイリスは続ける。


「そして彼女に育てられたのが、私イリス=ユア=ツゥヴァリネとあなたが住んでいる喫茶店のオーナーのカモミール=ブラウン。最後に私を狙っている騎士団の団長、エーデルワイス=ノアだよ」


「なっ……」


 唖然とする私と気まずそうな顔をするイリス。

 二人の間に気まずい沈黙が流れ始めた。


 場所は変わり、ババロン村入口。シンギン橋にて。

 赤いショートヘアをした女性が歩いていた。

 その女性は白いカッターシャツに赤いネクタイ。そしてその上から赤いブレザーを羽織り、黒い長ズボンを履き腰には剣をさしていた。

 彼女の左胸には、馬に乗った騎士が盾を持った騎士団の紋章があった。

 彼女は誰もいない橋の上で呟いた。


「ここに来るのも久しぶりだな。元気にしてるといいけど、あの二人」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ