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開戦

「ねぇ、イリス」


「何?」


遠い記憶。

レイラと出会う前。

まだ先代の魔女が生きていた時の頃。


「もしイリスに手を差し伸べてくれる人が現れたらどうする?」


「拒否する」


イリスは先代の魔女と、魔女の庭で話をしていた。


「…………相変わらずだね、イリスは」


「いや、だってそんなもんでは?」


「今はそれでもいいかもしれない。だけどきっといつか1人では困る日も来ると思うの」


「…………」


「だからね」


先代の魔女はイリスの肩に手を置き、優しく語りかける。


「もし信頼してもいいって人が現れたら、その手を取ってあげて。大丈夫。きっとイリスにも良い人が現れるよ」








「ああああああああああ!!!!」


イリスは先代の魔女を殺した目の敵を見るやいなや、駆け上がっていた。


「イビード・トンペート!」


シュヴァルツ・ヘルシャフトに近づき、その体を足で蹴り上げる。

直撃した瞬間、暴風が吹き荒れる。


「ぐっ!」


あまりの風圧に飛びそうになる体を必死に留め、イリスの方を見つめる。


「なっ」


あれだけの攻撃、ヘルシャフトにも通っていてもおかしくない……はずだった。


イリスとヘルシャフトの間にあるバリアさえなければ


「何あれ」


イリスは歯を食いしばり、攻撃を通そうと必死に脚を動かす。

しかしバリアがそれを邪魔し、攻撃を受けさせることを許さない。


ヘルシャフトはニィと笑うやいなや、大きな漆黒の翼を振り上げ、イリスを跳ね除けた。


「!イリス!」


振り飛ばされたイリスはとんでもないスピードで地面に激突した。

まるで落石でもしたかのような衝撃音が鳴り、辺りに土煙が舞った。


イリスは痛みで顔を顰めつつも、ヘルシャフトを睨みつけていた。

私はすぐさまイリスに駆け寄る。


「大丈夫?」


「……なんとか」


私はイリスの体を支え、何とかイリスを立たせる。


強さの格が違う。


セリエともエーデルワイズとも別種の強さ。

魔女を殺し、国を滅ぼさんとするだけある。

まさに『 化け物 』という言葉が似合うだろう。




一方、王都パリシィでは、シュヴァルツ・ヘルシャフトと出現につき王宮内は大騒ぎになっていた。


「今すぐにかき集められる兵士の数は?」


「300といったところかと」


「それだけしか……手段は選んでられないということですか」


その中、女王ユグドシアは冷や汗を垂らし続ける近衛兵や騎士団、魔法研究省、貴族院の人らと共に会議を行っていた。

国が滅びかねない危機に、何としてでも防衛線を張り、守備をしなくてはならない。

しかし、会議は進まない。

普段は口数の多い上層部の面々もこういう時に限って、冷や汗を垂らすだけでろくなことを言わない。


「分かりました。王宮内にいる面々を集めなさい。騎士団だろうと魔法研究省だろうと誰でもいい。魔法を扱える者らで王都を防衛します」


「ちょ!ちょっと待って下さい!」


ユグドシアの発言に待ったをかけたのは無精髭を生やしたおじさん。


「そ、それでは王宮内の守備が手薄になってしまいます!王宮内の者は王都の防衛に務めるべきです!」


「貴様!女王様の決定に反対するつもりか!」


それに対して怒りを包み隠そうともせず声を上げたのは、強面の近衛兵。堅物と話題の女王周辺警備をする存在であり、その恐ろしさから魔法研究省だけでなく騎士団や貴族院からも嫌われている。


「違う!もしそうしたら政治の中枢メンバーが軒並み消え去り、国家の安寧が脅かされるといいたいのだ!」


「女王様は最低限王都だけでも守るという意味合いだ!どちらにせよ王都を落とされれば我々の負けだ!この国とその命どちらが大事なんだ!」


2人の言い合いに呆れた様子で声を上げたのは、金髪でいかにもイケイケな貴族院の青年。


「どうこう言ったところでしょうがない。とりあえず王宮内で参加する意思のあるもので防衛戦を張り、王都の市民らは武器を持たせ、強制的に防衛線を貼らせるべきなんじゃないか」


今の発言に対し、それぞれが反対や賛同の意見を示す。そして、それを機に次々と口を開く上層部の面々。

それらは自分たちだけでも安全圏に逃れるための発言もあれば、犠牲を顧みない無茶な作戦を立てる発言と様々だ。

ユグドシアは上層部のまとまりのなさにため息をこぼす。


(まずいな……このままでは防衛線を貼る前に王都まで侵入されてしまう)


ユグドシアが苦悩していると、会議室の扉を開け大慌てで1人の兵士が入ってくる。


「報告です!シュヴァルツ・ヘルシャフトが現れた渓谷に魔女がいるとの目撃情報あり!」


兵士から告げられた情報は魔女に関するもの。上層部の面々は顔を顰め、兵士を怒鳴りつける。


「そんな奴などどうでもいい!今は会議を!」


しかし、女王ユグドシアだけは別の反応を示した。


「魔女が?」


ユグドシアからのサイドの確認に、兵士は戸惑いつつも答える。


「はい。そうです」


「……なるほど」


情報を聞くやいなや、ユグドシアは落ち着きを取り戻し、ゆっくりを歩を進め窓際から王都を見つめる。

まるで今の情報で安心でもしたかのように。


「今すぐ防衛線を貼るのは中止、兵士並びに市民に呼びかけ、守備の人数が整い次第防衛線を貼ることにします」


「なっ!それでは!間に合いません!」


ユグドシアはそれでも余裕のありげな態度を崩さず、優しくいつも通りに答える。


「大丈夫ですよ。だってあそこには魔女がいるんでしょ?」


「は、はい!」


「ならみなさんが心配するようなことにはならないでしょう」


「まさか?あの魔女を信頼すると?」


近衛兵からの問いに女王ユグドシアは反応を示さず、ただ窓から王都を見渡すだけ。

そして誰にも聞こえぬよう、独りでに呟いた。


「見せてもらいますよイリス。我々を恨んでいるというのなら、まずはその力を示してみせなさい」


場所は戻り、渓谷にて。


怪我をし、立つのすら辛そうなイリスに私は問いかける。


「ねぇ、イリス」


「……」


「あれ、倒したい?」


そう言い見つめるのは翼を広げ、空中を浮遊する二頭の黒鳥。


その問いにイリスは歯噛みをし、答える。


「そんなの……当たり前」


「そっか」


イリスからの返事は予想通りのものだった。

いずれにせよ、こいつをこのまま放っておいたらろくなことにはならない。

セリエは、王宮内はどうなった?

気になることはあるけれど、今はこいつをどうにかしないと。


「だったら、私も協力する」


「レイラには関係の無いことないのに?」


「関係ないだなんて悲しいこと言わないで」


私がイリスについていってる理由は1つ。

イリスという魔女をこの国に認めさせてやる、ただそれだけ。


「こいつを倒すことは私にも関係するんだから」


先代の魔女を殺した元凶であるシュヴァルツ・ヘルシャフトさえ殺せば、この国もイリスを認めるはず。


「だから行くよ。何がなんでもこいつを倒してみせよう」

誤字報告をして下さった方、ありがとうございます。

言われないと気づかないもので……大変助かります。

さて一応、第2章もクライマックスです。

本当はもう少しイリスとレイラの過去や2人のことを書くつもりが、話が魔法研究省寄りになってしまいなかなか思うように書けませんでした。

小説を書くってのはとっても難しいですね……。


いいねや感想等頂ければより嬉しい限りです。

よろしくお願いします。

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