ないものとあるもの、あなたはどっちがいい?
(それにしても……)
イリス=ユア=ツゥヴァリネはレイラに背中を現れながらあることを感じていた。
(背中に物凄い圧を感じる……)
私がイリスの背中を洗い終えると、彼女がこちらへ顔を向けてきているのがみてとれた。
しかも、やたらジト目でこちらを見続けている。
「え。な、何かな?」
「……ジー」
「あのーイリスさん?」
しかもやたらイリスの目がこちらの顔を見ているのではなく、なにやらその下を見ているのだ。
下……顔の下……首の下……。
「……っん!?!?」
思わず私は自分の胸を両手で隠し飛び上がる。
「な、何じっと見てるの!?」
いや、別に見られても減るもんじゃないけどさ……。
その限度があるというか……。そんなにじっと見つめ続けられるとさすがの私でも恥ずかしいのですよ。
「いや、その、なんていうか……」
イリスはなんだか寂しそうにして自分の胸元に手をやると言った。
「一体何を食べればそんな大きさになるもんなんだ?」
「お、大きさ?普通に食べて普通に寝るだけの生活だけど」
「……。」
もしかして胸の大きさを気にしてるってこと?
っていうか私の胸がそこまで大きいとは思わない……。
いや、もしかしたら普通の人よりは大きい方かもしれない。私にもそれくらいの自覚はある。
「……食べて寝ればそんなに?……なるものなの?」
イリスはそう言うと手で自分の胸元をさすった。
確かに……イリスの胸は寂しすぎる気はする。
成長途中っていえるほどないし……。
かなり平坦……。これ以上はやめておこう。
「ちなみに何カップあるの?」
するとイリスがこちらを見やりそう聞いてくる。
「F」
「……えふ?」
「うん」
「……」
するとイリスはなんだか顔を下にやるとわなわな震え出した。
「私、Aしかない……いや、正確に言うならAAくらいしか」
「いや、でもその大きさで悪いことはないというか」
「……ちょっと触ってもいい?」
「へ?」
「触ってもいい?って聞いたの」
イリスはかなり真面目な表情をしてこちら見つめてくる。
そんなに真剣な顔で見られるとこちらも弱いというかなんというか……。
「……ジー」
「あぁ、分かった分かった!好きに触れば!?」
私はイリスの熱烈な視線に負けて、つい認めてしまった。
「……いや、その」
するとイリスが何かぶつぶつ呟き始めた。
「どうしたの?」
「両手で隠されると揉めないというか、手どけてくれない?」
「……」
そういえばそうだったー!?
っていうかいざどけるとなるとめちゃくちゃ恥ずかしいし!
そもそもだけられた至近距離でまじまじと見られちゃうよね?
さすがにそれは私も恥ずかしくて!?
「む」
そんなことを考えているとイリスがこちらへ詰め寄ってくる。
思わず後ずさってしまい、私は壁際に追いやられた。
そしてその壁にイリスは手をビタっと押し付け、私はその間に挟まれる形となってしまう。
そしてイリスは除けば飲み込まれたしまいそうな綺麗すぎる瞳でこちらを見つめてくる。
「手、どけてくれる?」
「……はい」
さすがにそんな顔で詰め寄られてはこちらも認めざるを得ない……。
しぶしぶと手をどける。
やばい。思ったより恥ずかしいしめちゃくちゃ顔が熱くなってきた……。
「こ、これが……おぉ……」
イリスはまるで古代の宝物を発見した学者のように手をわなわなと震わせながらこちらへ手を伸ばしてきた。
そして……むにゅ。
「……」
「……」
触られた……。
正直、触られてるなーっていう感覚しかないのでそれらしい反応をすることは出来ないのだが。
「……ふむ」
イリスは両手で私の胸を掴むと、学者らしくうねると何やらうねりはじめた。
そして何を思ったのか急に手を沈めてきたり、つついたり、こねくり回したりし始め……。
「ちょ、ちょっと揉みすぎでは……」
「これが生の感触ってやつか……。なるほど、確かに私のと比べるとかなり違う。確かにこれはいざ触ってみないと 分からない柔らかさだな。今まで私は安物の果物とやたら高価な果物を見て、正直が違うんだという感想抱いていたが……いや、確かにこれは安物の果物と比べて比較にならないほど違う!これが高価な果物というやつなのか」
「いい加減にしろーーー!」
急に喋りだし長時間揉むものだから、つい両手でイリスを押すのけ揉ませるのを中断させた。
するとイリスは空いた手を何やらワキワキさせると、再度自分の胸を見やった。
「……ない」
「え?」
「……ない。わ、私には何も……」
イリスは自分の胸元に手をやると目に見えて落ち込んでいた。
なんならズーンという効果音や黒色のオーラすら出ている気がする。
「そんなに落ち込まなくても……」
「……決めた」
「決めたって……何を?」
イリスは何かを決意した目をしてキッと前を見つめてきた。
そしてスポンジを片手で持つと……。
「レイラが背中を洗ってくれたお礼に私がレイラの体を洗ってあげる」
「いや、自分で洗えるので大丈夫で……」
「遠慮しないで。すぐ洗ってあげるから」
「……いや本当に大丈夫なんで。……なんで近づいて来るですか?ちょ!どひゃあ!?」
イリスはスポンジを持って私に飛びかかってくるとあちこちくまなく洗ってきはじめた。
その後、私はイリスと二人で湯船に浸かっていた。
ちなみに私は完全にし折れている状態だ。
「あ、洗われた……ていうかなんなら全部見られた……何もかも……」
「ふむ。でも、手っ取り早く洗った。肌は傷んでないはず」
「いや、そうなんだけどさ……」
確かにイリスの手つきは物凄かった。
効率がいいけどその割に丁寧というか、しかも暴れ回る私を押さえつけながら。
「にしても久しぶりに人とお風呂入った。なんていうか、物凄くいいものなんだな」
イリスはそう言うと口元を湯船に沈めブクブクと泡を作り始めた。
「確かにそうだね。私も久しぶりに他の人とお風呂に入って、確かに楽しいなって思ったよ」
少しばかり予想だにしないハプニングもありましたが……。
「ふふっ。確かに楽しい」
イリスはそう言うと湯船に顔を沈めながら微笑んだ。
顔の半分は湯船に沈んでいて表情は分かりづらかったが、目元だけで彼女の笑顔を浮かべているのが分かった。
まぁ、イリスが楽しかったならなんでもいいや。
ちょっと損した気分だけどね!
ちなみにその夜はお風呂を嫌がるネコの叫び声らしきものが隣の家まで聞こえていたらしく、カモミールさんは猫を飼っているのではと聞かれることになったらしい。
一体なんのことなんだろうなー。