一緒に洗いっこしよう!
私とイリスは倒れ伏しているララとルルを見やっていた。
「とりあえず起こそっか?」
私はイリスにそう言うと倒れているルルの方へと駆け寄った。
「おーい。起きてくださーい」
私はそう言いながらルルの体を揺すった。
そうしてしばらくすると、徐々に意識が戻ってきたのか、ルルがゆっくりと目を開けた。
「はっ!!」
声を出して驚いた彼女はこちらの顔をまじまじと見つめてきた。
「っ!ね、寝込みを襲おうと言う魂胆ですか!ルルはそう簡単にやられてくれませんよ!」
「いやそう言うんじゃなくて……」
ララはこちらを警戒してるのか飛び上がると両手をチョップの形にしこちらに向けてきていた。
すると後ろからガラガラと音が鳴り響いた。
後ろを振り返るとイリスが吹き飛ばされたララを片手でつまみ上げ連れてきたのだ。
ララは木にでも激突したのか頭にたくさんの葉っぱがついていた。
またイリスが吹き飛ばした衝撃からか、服はビリビリに破れており、拳をもろに食らったお腹の部分の布は盛大に破けており、彼女のスリムなお腹が丸見えになっていた。
「ひぃ!」
イリスを見て何されたかを思い出したのかルルは顔を青ざめ軽く悲鳴をあげた。
トラウマ植え付けてるじゃん……後でイリスに注意しとこ。
「さてと」
イリスはララを見やると自分と目が合うように向き合わせた。
そして……。
バシッと何かを叩いた音が鳴り響いた。
イリスがララの頬に平手打ちをしたのだ。
しかしそれだけで目を覚ますことはなかった。
するとイリスはパシッパシッと音を鳴り響かせながら彼女に往復ビンタをし始めた。
「「……。」」
魔法を使っていないとはいえ痛みを伴う乱暴な起こし方に私とルルは唖然としていた。
しばらくすると徐々に意識が戻ってきたのかララはゆっくりと目を開けた。
「……い、いたい」
なんかさすがに可哀想になってきたな。
ララは自分の真正面に立つイリスを見ると顔を青ざめていった。
「ど、どひゃああああ!?な、何よあんた!?何をする気!?」
「いや……ただ起こしただけなんだけど」
イリスは何故そんなことを言われているのか分からないといったふうに首を傾げた。
ララは何とか立ち上がりイリスと距離を取ろうとした。
「わ、悪いけど私はここまで捕まる訳には……おごっ!?お、お腹が痛い……あと顔も痛いし……」
ララは唐突に襲ってきた痛みが理解できないというふうにお腹と頬をさすっていた。
「お姉ちゃん」
その様子を見ていたルルはララに近づき、肩を貸してあげていた。
「はぁはぁ……くっ、凶悪だなこの二人は」
ララはこちらを睨みながらそう言ってきた。
え、私も?私も凶悪な部類に入る?
ただの正当防衛……いや過剰ではあったけどそうだったんだけどな。
「えーっと、見ての通り私たちは普通の一般人です。もうこちらに危害を加えるのはやめてくれませんか?」
私は苦笑いをしながらララにそう言った。
ララは訝しげな表情を浮かべるとそれに返答する。
「普通の一般人がそんな力を有してるかよ……まぁここは撤退しておいてあげる。でも勘違いしないで、ここで私たちは負けた訳ではない。リーシア様に伝えて手段を変えて……」
すると、静かに話を聞いていたイリスがやや不機嫌な表情を浮かべると瞬時、右手を動かした。
するとその右手の動きに沿って放たれた斬撃がララの真横を通り過ぎた。
その斬撃はブンッと空気を切り裂くような音を発し、後ろの石壁へと激突しその石壁を木っ端微塵に破壊してしまった。
イリスは怒りを隠すことなく言う。
「ここで私たちは……なんだって?」
「ひっ!ご、ごめんなさぁーーーいっ!」
ララとルルは恐怖で顔を青ざめると即座にこちらへ背中を向け、全速力で夜の街へと逃げ伏せた。
全くイリスは呆れ顔を浮かべると腰に手を当て逃げる二人を見つめていた。
「はぁ……別に反撃するのはいいけどやりすぎたらダメだよ?」
「?あれはやりすぎてる方なのか?」
「普通にやりすぎ。正直、鬼怖いレベルだと思う」
「そうか。レイラがそう言うなら気をつけるよ」
イリスはあっさりとこちらな言うことを飲み込んでくれた。
まぁ分別が効くようになってくれれば社会に適応しやすくなるだろう。
「でもスッキリした、ありがとねイリス。もう暗いし帰ろうか」
「そうだね」
私がそう言うとイリスは少し顔を赤らめ、一緒に帰宅の路地を辿った。
そして私たちは無事、カフェ店に辿り着き……。
「おかえり。ん?レイラもイリスもすごい汚れてるね。部屋を汚されるのも忍びないし一緒にお風呂入ってきなよ」
そうカモミールさんに言われたのだった。
カポーンと桶をお風呂場に置く音が鳴り響く。
「まじか」
私は脱衣所で立ちつくしながらそう呟いた。
ちなみに目先には先に服を脱ぎお風呂に入ったイリス……が中にいるお風呂場のドアがあった。
正直、イリスと仲良くなりたいしそのために色んなことをしたいとは思っていたけど……まさかいきなり一緒にお風呂に入るだなんて思わないじゃん!?
「……はぁ。ま、気にしても仕方ないか」
私は降参するかのように服を脱ぎ、お風呂場のドアを開けた。
「ん?あぁ、やっと来たかレイラ」
イリスは髪を洗っていたようで、頭がものすごく泡立っている。
そしてその泡が目に入らないようにしていたためか、目を閉じながらこちらに顔を向けてきた。
……なんか小さい子どもみたいで可愛いな。
私はそんなことを一人で心の中で呟くと、イリスの後ろに座った。
イリスは頭の泡を洗い流すと、後ろに座っている私を不思議に思ったのか尋ねてくる。
「……どうしたの?」
「お背中でもお洗いしましょうか?」
私はそうイリスに言った。
一緒にお風呂と言ったら背中を洗うと相場は決まってるのよ!(※私調べ)
イリスはなんだか疑い深い視線を向けてきたが、視線を前に戻すと言った。
「……じゃあお願い」
「はいよー。任せとけー」
私はそんなおじさん臭いことを言うと、タオルを泡立てイリスの背中を洗い始めた。
「……。」
しかしこうして間近に見るとイリスの肌は本当に白く綺麗だと思う。
初めて会った時、イリスにまるで人形みたいだなというイメージを持った。
小さい身体を持ち、一つ一つパーツが全て整っているイリスは人形として飾られていても正直、違和感はない。
普通の人は魔女と聞くと嫌なイメージを浮かべるかもしれないし、そのイメージ像を浮かべると大半は大人のお姉さんを思い浮かべるだろう。
そのため一目見ただけでは彼女が魔女だって気づく人は少ないのではないだろうか。
しかし、彼女は……イリスは何故魔女に選ばれたんだ?
元は無垢な少女だった彼女が。
魔女に選ばれる条件には、同じ魔女に育てられたという条件でもあるのか?
じゃあ何故、エーデルワイスやカモミールさんじゃなかったんだ?彼女達の方がよっぽど大人のように見える。正直に言ってイリスはまだ子どもにしか見えないのに。
私は彼女の背中を洗っているとある所に目がいった。
彼女の肋骨。
その辺には毒蛇が卵を守るような構図が描かれた赤い紋章が描かれていた。
「これは……?」
私は不思議に思いその紋章に手で触れる。
するとそれに反応したイリスがゆっくりと口を開いた。
「魔女の紋章って言ってね。魔女の力を得た者はその紋章が必ず体のどこかに刻まれるんだ」
「魔女の紋章……これが」
私はイリスの背中に描かれた紋章を見つめ一つ思ったことがある。
「ねぇ。少しだけ傷つけてしまうかもしれないけど、聞いてもいいかな。先代の魔女にもこの紋章はあったの?」
「……うん。描かれた場所は違ったけど、この紋章と見たまんまのものが刻まれていた」
先代の魔女に描かれていた紋章。
そしてその紋章がイリスに刻まれているということは、彼女がかつての魔女の後継者であるということを示している。
先代の魔女。
私は姿形も見た事ないけれど。かつてこの世界に、この国に存在した魔女。
彼女は一体何が原因でこの世を去ったのだろう?
そんな疑問が頭によぎった。
読んで頂きありがとうございます。
気がつけば2024年も4分の1が過ぎ、正直信じられない心境です。
これを連載しだして2ヶ月ですか……あまり纏まってないまま書き出した本作。
未熟ではありますがここまで読んでいただきありがとうございます。
評価やレビュー、いいね等を貰えると作者がとても嬉しいので是非ともお願いします。
さて明日から4月1日……ものすごく気が重いです笑。
新学期が始まりますが私も少しずつとはいえ頑張って連載するので読んで頂けると幸いです。
では次話にまたお会い出来れば!