デートの下準備をしようじゃないか!
イリスとデートの約束を取り付けた私はワクワクしながらその夜を過ごし、次の日の朝を迎えた。
きちんとおめかしをした私はイリスを迎えに村はずれの洋館へと出向く。
そこに着くと案の定イリスは……いなかった!
「まぁ、予想通りなんだけど」
イリスの朝は遅い。
彼女が魔女であるからか、それともただ怠けてるかは分からないが、起きるのはいつも昼頃だったりする。
「まぁこういう時、やることは決まってるよね」
私は不用心にも空いてる扉を開け、中へと入りある部屋に入る。
この部屋には乱雑に食器や鍋など鉄製品が置かれていた。
私が入ったのは台所。とりあえずここで朝食を作ってあげることにしたのだ。
「さてと……」
私は今日遊ぶようの荷物以外にももう1つ食材やらが入った袋を持っていた。
その袋から卵、ベーコン、野菜、パンを取り出す。
「イリスの好みがよく分からないけど、朝食の相場と言えばこれくらいだよね」
石窯に火を起こし、その上にフライパンを乗せてベーコンと割った卵を乗せる。
ついでにその石窯の火でパンも焼き上げる。
野菜を手頃な大きさに切ると、白い大きな皿の上に乗せる。
当然、今使った白い皿とフライパンは1度洗っている。
少しするとパンはいい感じの焼けてきたし、フライパンの上には焼けたベーコンと卵焼きが出来上がっていた。
それらを皿の上に乗せて、盛り付けていく。
そして持ってきたバターと飲み物をテーブルに置いたら。
「そろそろだな」
2階から扉が開く音がし、階段から誰かが降りてくる。
「レイラ。もう来てたんだ」
声のした方へ振り向くと、薄い白のワンピースにデニムのショートパンツを履いたイリスが立っていた。
「誰かさんが集合時間に遅れてきそうな気がしてきてね」
「……」
今は約束の時間より10分ほど早いが、イリスが起きるまで待っていたら確実に集合時間に遅れてやってくるだろう。
それをイリス本人も分かってたのか、黙り込んでしまう。
「それに朝食とか食べずに来る気だったでしょ?せっかく作ったんだし、ほら食べてよ」
「分かった。食べる」
イリスは言いつけを守る子どものような感じでテーブルにつき、朝食を食べ始める。
そういえばイリスに好き嫌いがあったらどうしよう。
多分、大丈夫と思いたいけど野菜とか嫌いな人いるしもしかしたら……。
もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ
あ、大丈夫そうだこれ。
私ひと安心すると、キッチンの方へ向かい作ったフライパンを洗い、石窯を片付けていく。
しばらくすると、綺麗に食べられて空になった食器をイリスが持ってきた。
「美味しかったよ。ありがとう」
「……!」
私はお礼を言われるなんて思わず固まってしまう。
「……?」
その様子を不思議そうな顔で見つめ、イリスは首を傾げた。
「お、美味しかったなら何より!」
いざお礼を言われるとなるとやっぱり照れるな。
いやそれだけでは無い。
いざ間近でみるとやっぱりイリスって可愛いんだなと実感したからだ。
白銀の綺麗な髪と美しい青の双眸。
それに整った顔立ちに私より低い背。
魔女ならでは大人の美しさとかではなく、ぬいぐるみなような可愛らしさが彼女にはあった。
「なんか様子が変。どうかした?」
「いやいや!そんな事ないよ!後片付けは私がしとくからイリスは準備してて!」
「そう……分かった。よろしくね」
そう言うとイリスは自室の方へと戻って行った。
なんか変に意識しちゃうとイリスに気圧されてしまうな。気をつけよう。
そう肝に銘じると、後片付けを再開した。
するとイリスが自室に向かってものの数秒で、階段を降りることが聞こえてくる。
「……え?」
「お待たせ。準備が出来たよ、レイラ」
イリスは先程のデニムのショートパンツに白い無地のTシャツを来ていた。
思わず私は人差し指を震えながらイリスの方に向け問いかける。
「そ、その格好で行く気デスカ?」
「え?そうだけど」
「……ふ」
「ふ?」
「ふっざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!ファッションをなんじゃと思ってんじゃごらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「うわぁ!?」
イリスは私が叫び出すとは思わなかったよで、驚きで後ろに後ずさるがそんなの気にしていられない。
「せっかくこんなのにもイリスは可愛いのに!服を適当にしちゃってどうするの!?」
「え?か、かわ?」
イリスは可愛いという単語に反応して顔を赤く染める。
そういう初心な反応も可愛いかよちくしょう!
「よし!まずは服を見繕うところから始めよう!」
「ちょ!レイラ!?」
私はイリスの手を引っ張り服屋へと向かった。
「これ。本当に着なきゃいけない?」
「もちろん!」
そして今イリスは試着室の中へ、私は試着室の外で待機していた。
「……」
観念したのか試着室のカーテンが開き、イリスの様子が見えるようになる。
イリスが今着ているのは赤のリボンが中央についたピンクのボウタイニットのセーター、下はピンクのフリルがついたスカートだった。
「あの、こういうの似合わないと思……」
「ドヒャー!カワイイー!」
「えっ?」
「そういう服やっぱり似合うじゃん!イリスだってかわいい女の子なんだからもっとこういう服をじゃんじゃん着ていこうよ!うん!やっぱりかわいい!」
「ぇう!?ちょ!それでもこの服はなし!べ、別のにして!」
イリスは顔を真っ赤にすると、カーテンの影に隠れて、少しだけ顔を出し目線をこちらに向けてくる。
い、言いすぎたか。
仕方ないのでイリスの服を着せることにした。
私の渡した服に試着室で着替えたイリスはカーテンを開ける。
青いリボンの着いた肌色の布地をしたメルヘンテイストな上の服に、青と白のストライプな柄のしたスカートを履いており、頭には青紫色のしたベレー帽を着けていた。
「やっぱカワイイじゃんか!」
「や、やめてよそんなに可愛い可愛い言うの」
イリスはほんのり頬をピンク色に染めながら、そう言い放った。
「ごめんて。でもすごく似合ってるよその服とかどう?」
イリスは着ている服を見やる。
「まぁさっきのよりはいいと思う。けど……」
「けど?」
「なんていうか、動き辛い。私、出来れば動きやすい服を着たいんだよね」
「あー、そういう。でもお洒落したら動きにくい服になるのは仕方ないんじゃ?」
「確かにそうかもしれないけど、私の場合は魔法で身を守ることが多いからさ」
「あー、確かにそれもそうか」
イリスは魔女であることを理由に村や国の人間から差別的な扱いを受けているため、突然の攻撃に身を守るために魔法を使うことが多いのだろう。
「そうだな……じゃあこんなのはどう?」
そう言うと私は選んだ服をイリスに手渡し、試着室で着替えてもらう。
しばらくすると試着室のカーテンが開けられていた。
イリスは黒のTシャツの上から白のカーディガンを羽織っていた。ただ、そのカーディガンにはボタンといったものはなく、本来なら第1ボタンが付いているであろう場所に赤いリボンが通されており、それを蝶々結びで留めていた。ちなみにそのカーディガンにはフードもついているため、もしもの時はそれで顔を隠すことが出来るだろう。
ちなみに黒のTシャツは半袖で、上から来ている白のカーディガンは長袖だ。ほんのり暖かい今の季節にはちょうどいいだろう。
そして、下は黒のTシャツに合わせて黒のスカートで、長さは膝より上で太ももの真ん中程の丈にしてある。
これならちょうど動きやすいし、今までよりオシャレな服だと思う。
それにイリスは魔女なのだしあまり目立たない、幻想的な可愛さに留めておくことにしたのだ。
「うん。これなら悪くなさそう」
イリスは満足そうにして言った。
「よし!じゃあ決まりかな!イリスも今までより可愛いし!」
「また可愛いって!馬鹿にしてるでしょ!」
イリスは恥ずかしそうにしながら怒ってくるが、それを笑って受け流すことにした。
だってイリスが可愛いらしいのは事実なんだから。だから自分にもっと自信を持って欲しいと思ってる。
だからこれくらいは言わせてよね!