自己紹介をしよう!
助け出した少女はまさかの魔女でした。
こ、こんなことってあるんだ……
「えーと、イリス=ユア=ツゥヴァリネちゃん?」
「ちゃん付けしないで」
「す、すみません」
気まづくなりしばらくの間、沈黙が流れる。
非常に居心地が悪い。
こ、こうしてはいられない!
「とりあえず自己紹介しようか!」
「必要ない」
ガクッ
とつい肩を落としてしまった。
なかなか辛辣な……
「そう言わずに。私はレイラ=ユリウス。今日からこの村、ババロン村に住むことになったんだ!」
「これまた物好きね。こんな辺鄙なとこのどこがいいんだか」
「確かに辺鄙ではあるけど!私はいい所だと思うな」
「いい所ね、静かに暮らす分にはいいと思うけど。少なくとも私にはここがいい所だなんて思えない」
イリスはものすごく嫌そうな顔をした。
何かこの村ならでは闇だとかあるのだろうか。
「レイラって言ったよね。さっきも言ったけど私に助けなんて必要ないから」
「いやいや!!何言ってるの。どう見たってあれは大人数に囲まれて困ってたじゃん!!」
「私からしたらあんなの良くあることだよ。あの程度、私には匙たる問題では無いもの」
彼女はそう言ってるけれども、こうしている間にも……
「魔女である以上、他人から変な目で見られることはもう慣れたから」
無理をしているように見えたんだ。
「だから私のことは放っておいてくれていい」
「だめだよ」
「……?」
「仮にそうだとしても今のままじゃ絶対にだめだよ」
「何を言って」
「私にはイリスが無理をしているように見える」
彼女は戸惑いと驚きを混ぜたような表情を見せる。
これは彼女にとって踏み込まれたくない領域なのかもしれない。
それでも言う。
「自分の感情を押し殺してまで、今こうなっているのは仕方ないことなんだ。受け入れざるを得ないんだ、だなんて思って欲しくない」
言ってやる。
「きっと訳があるんでしょ。魔女になったのも、他人にあんな扱いを受けているのも」
彼女がそんなこと求めていないとしても。
「今は話せなくてもいい。それでも」
彼女が本当に1人で無理をして、それを誰にも言えずにいるというなら。
「私が助け出してあげる。こんな現状、今すぐにでも変えてみせる」
昔読んだ、あのドラゴンを倒し姫を救った勇者のような。
そんな主人公に私はなってみせる。
彼女は私の言葉を聞き、口をぽかんと開け驚いた顔をしている。
私はそんな彼女から目をそらさずに、手を差し伸べる。
「だから……」
パシッ
と何かを弾いたような音がした。
彼女が私の手を振り払った音だ。
「言ったでしょ。必要ないって」
彼女はさっきまでの驚いた表情とは一変、怒りに満ちた表情になっていた。
「私は魔女なんだ。誰の助けも必要ない。1人だろうと生きていける、そういうものなんだ!!」
「そんなこと……」
そんなことの無い。
私はそう言おうとした。
けれど彼女の剣幕にたじろいでしまい。
何も言い返せなかった。
「だから、もう私にそんなこともう言わないで。私にもう近づかないで」
彼女は後ろを向き、歩き出す。
そんな彼女がそっと呟いた一言を私は聞き逃さなかった。
「あなたみたいな人、本当に嫌い」
彼女が去っていく様子を、ただ見つめることしか出来ずにいた。
そして完全に姿が見えなくなった後、腰に手を当て、誰にも聞こえないように呟いた。
「いやー、元気そうでなにより」