魔女捕獲作戦⑥
「今助けてあげるからね、イリス」
さて、一体何がどうなったらこんな状況になるのか。
エーデルワイスって言ったっけ、あの人に聞いてみるか。
「何をしたらこんなふうになったの?」
エーデルワイスであろう赤髪に騎士団の服を纏った人物は、見ず知らずの私にもまるで元々会ったことがあるかのようにいう。
「はは、イリスは元々力を隠してたって訳さ。私がちょっとそれを引き出すようなことをしたら、暴走状態になってな」
「暴走状態って……えぇ……」
思わず呆れてしまったがまぁいずれにせよやることは変わらない。
私はカードを1枚取りだし言う。
「シールド展開」
すると私を守るかのように、円状のシールドが展開される。
イリスの元へ向かう私に、セリエは驚いた様子で言う。
「ちょっと待って!相手は暴走状態になった魔女よ!止める方法なんて分かるの!?」
「分かんないけど」
「分かんないのかい!」
「とりあえず当たって砕けろってことで、とりあえずやるだけやってみるよ」
「この場合の砕ける対象ってあんたよね!?死ぬって事じゃん!」
「死なないよ。それに今なら主人公補正も働いてくれる気がするし」
「主人公補正?え、何の話」
主人公補正か……ふふ。
今の私はまるで昔読んだ本の主人公みたいだ。
確かに本の内容は、囚われの姫を助け出すために勇者がドラゴンと戦うといったもの。
今この状況に当て嵌めるとするならば、囚われの姫がイリス。ドラゴンはイリスを暴走させてる魔力。そして勇者が私といったところだろう。
昔憧れてた本の主人公に自分がなったと考えるだけで胸がワクワクする。
だから絶対に。
「私は絶対に諦めない!あなたをこんな地獄みたいな状況から引っ張り出して!下らないと吐き捨てたこんな世界は、ずっとずっと良いものなんだって信じられるよう、私があなたに信頼と愛を教えてあげる!だから帰ってきてイリス!」
私はイリスの元へ向け走り出す。
するとイリスは無機質な目をこちらへぎょろりと向けると、右手を差し出す。
右手を差し出した場所から現れたのは2つの魔法陣。
その2つの魔法陣は同時に紫の光を帯び始める。
「……紫交差砲発動」
そういうと2つの魔法陣から紫の光線がそれぞれ2本放たれる。
それは一度交わり私に直撃した。
さすがに2本同時では私のシールドは剥がれ切り生身の状態になってしまう。
「まずっ……」
イリスの背後にある後ろの魔法陣が時計回りに回転する。
そしてⅡはα、ⅡⅠはβ、IVはγ、Ⅴはδ、VIはθ、Ⅰはωの文字が重なる。
そしてイリスが無機質に呟く。
「属性変換」
するとイリスの背後にある前の魔法陣は赤色に、後ろの魔法陣は白く輝き始めた。
「……?何が起こって……」
「救済乃天使……発動3秒前」
「……!」
カウントダウンが終わると何かやばい攻撃が来る!
それまでに何とかイリスの元まで間に合わせる!
「……2……1」
するとイリスの前に真っ白の魔法陣が現れ、白い光の粒子が集まっていく。
(間に合わない!何かやばい攻撃が来る!)
「火山!」
エーデルワイスの声が後方から突如聞こえてくる。
すると白い魔法陣の後方の地面に小さな火山が現れ、中から火のレーダーが勢いよく噴き出す。
それは魔法陣下部にあたり、魔法陣の向きが変わる。
私の方ではなく斜め上方向へ向きを変えたまま魔法陣から白い光線が噴射される。
それは門の一部にぶち当たり、建物の屋上の一部、時計塔の羅針盤に直撃した。
「なっ……」
私はそちらへ振り向くと思わず愕然してしまった。
先程までの紫の光線とは違い、当たったところが綺麗さっぱり無くなっていたのだ。
焼け跡がある訳でもなく、瓦礫となった訳でもなく、ただそこだけ存在そのものが消えてしまったかのように。
するとエーデルワイスが後ろから叫ぶ。
「白い魔法陣から放たれる攻撃は存在そのものをこの世から抹消してしまう攻撃だ!当たったら痕跡すら残さず消えてしまうぞ!」
「ご忠告どうも!」
存在そのものが消えるか。
そんなもの当たったら即死なんてレベルじゃないぞ!
是非とも使用禁止兵器に加えるべきではないだろうか。
と、そんなこと考えたら……。
「あ……」
気がつけば足元に魔法陣が書かれており、そこから影でできたような黒い手が私の足を掴み取っていたのだった。
結果、走り出そうとしていた私は盛大にずっこけた。
顔面を強打して鼻がツンと痛む。
かっこつけようとしたら早々これかよ!
そんな身動きの取れない私に対し、イリスは容赦なく再度魔法陣を展開させた。
「ピラニャ!」
すると今度はセリエの声が後方から聞こえたかと思うと、足を掴んでいた手の感触が消える。
足元を見ると、水でできたピラニアが影の手を食い破っていたのだった。
「ここは私たち騎士団が助けるから!あんたはイリスの元まで向かって!」
「……!ありがとう!」
セリエとエーデルワイスの2人が並んび、こちらを真剣な眼差しで見ている。
本来なら敵対していたはずだが状況が状況なのでこちらへ味方してくれるようだ。
だったら今は頼もしい味方として信頼させてもらおうか!
セリエとエーデルワイスのサポートを受け、何とか私は攻撃を避け、イリスの目の前まで走っていく。
後ちょっとで辿り着く。
私はカードを1枚取りだし詠唱を開始する。
「上昇気流よ舞い上がれ!」
すると私が踏みこんでいる足から風を発生され、それを利用して勢いよくジャンプする。
イリスの目の前へ辿り着いた私はカードの1枚をイリスの心臓へ押し当て言う。
「起きてイリス」
そう言うとイリスの心臓の鼓動か、ドクンという音が辺りに響く。
すると私とイリス、そして周囲の空気ごと時間が止まる。
すると突如、巨大な紫色のした結界が現れ時の止まった空間のみを覆いつくしてしまう。
「なっ!」
セリエが驚きで声を上げる。
それも当然だ、目の前にいたイリスとレイラが結界に取り込まれてしまったのだから。
これではレイラにサポートのしようがない。
「団長これは一体!?」
セリエはエーデルワイスに問いかける。
問いかけられたエーデルワイスはと言うと、訝しげな表情でその光景を見つめていた。
「これは……まさか。魔女の結界なのか」