魔女捕獲作戦③
ババロン村入口門近くの平原に2人の人物が立っていた。
騎士団長エーデルワイスと魔女イリス。
お互いを睨みつけ今にもぶつかり合いそうな一触即発の空気が流れていた。
いや、正しくはその2人を恐れつつも見守っている騎士団所属である1人の少女がいた訳だが。
しかし一時的な静寂もすぐに破られることとなった。
「偉大なる火炎よ。全てを焼き付くし灰塵に帰せ」
(……詠唱!)
真っ先に唱えられたのはエーデルワイスの詠唱。
その攻撃を阻止するべくイリスは走り出していた。
だが、エーデルワイスの方が早かった。
「火炎道」
エーデルワイスが右手をイリスへと掲げる。
するとそこら一帯の空気が歪み、炎が放たれる。
放たれた炎の量はとんでもなく多く、解き放たれた方向にかけて炎の道が作られていた。
これを食らったイリスは無事じゃ済まない。
しかし……
キンッと何かが切られ多様な音が鳴り響いた。
すると放たれた炎が真っ二つに切られ、その間から見えるのは真っ白な髪に病的なまでに白い肌。
イリスがかすり傷ひとつ無く突っ立っていた。
そして炎が真っ二つに切られた部分から凄まじい速度で斬撃がエーデルワイスへと放たれた。
エーデルワイスはまるでそうなることを予想していたような余裕の表情を見せると、体を翻し斬撃を避ける。
その間にイリスはエーデルワイスの目の前まで移動していた。
イリスは片手に持っていた剣をエーデルワイスへと振り上げる、それに対しエーデルワイスはすぐさま腰から剣を抜き取り応対した。
剣と剣がぶつかる音が鳴り響く。
イリスの剣先は風を纏い、エーデルワイスの剣先は炎を纏っていた。
「覚えているか?」
エーデルワイスはそうポツリと呟いた。
「昔、こうして2人でお互いの剣の腕を高めあったことを」
「覚えているさ。結局、どの勝負もどっちつかずのまま終わったっけ」
「あぁ、そうだな。だが今回ばかりはそれで終わらす訳にはいかないのよ!」
そういうとエーデルワイスの持つ剣身が赤く光出した。
「炎剣斬月」
するとイリスの剣がエーデルワイスの剣身から弾き飛ばされた。
「……っ!?」
イリスが驚愕の表情を浮かべ、エーデルワイスはそれを見て、ただ不敵に笑っていた。
エーデルワイスは体の向きを変え、イリスのお腹に向けて蹴りを叩き込んだ。
「おごっ……!」
イリスは少し吹き飛ばされるも、立ったままでいた。
そして少し苦しそうな顔をしながら、空いた手でお腹をさすっていた。
「うぅ……い、今のは?」
「別に驚くようなことでもないと思うが」
エーデルワイスは余裕そうな顔で言葉を続ける。
「あの館にいた時より扱える魔法の種類は増えているよ。今のは館から出た後、新しく習得した魔法でね」
「……」
イリスはエーデルワイスを睨みつける。
攻撃を食らったとはいえイリスの目から闘志は消えていない。
「あんまり油断しなほうがいいよ。こっちは本気でイリスを捉えようとしてるんだからね!」
エーデルワイスは地を蹴り、勢いよくイリスの元へ向かう。
イリスは慌てて構えを取り、エーデルワイスの剣を受け止める。
しかし今度はあの剣を弾いた攻撃をしてこない。
エーデルワイスは2人をびくびく震えながらも見守っている騎士団の1人に声をかける。
「シズ!」
そういうとびくびく震えていた少女は慌てて両手を前に突き出し、詠唱を口ずさんでいた。
「ちっ!」
イリスは舌打ちをし、1人を見逃したことを後悔する。
すると震えていた少女の詠唱が終わったのか、両手から白い光が瞬き始める。
その瞬間、エーデルワイスが後ずさりイリスから距離を取る。
イリスは不思議に思うがすぐさま理由が分かる。
大量にものが入ってるであろう紙袋が、イリスの頭上へ向けて落下していたのだ。
「こんなもん!」
イリスはそういうと剣を天へ掲げ、剣を振りかざす。
するとその軌跡から再び斬撃が放たれ、紙袋は真っ二つへ切り裂かれる。
しかし、イリスは驚きで目を丸くした。
真っ二つになった紙袋からは大量の粉が降ってきたのだ。
イリスの周りに粉塵が舞い上がる。
(クソ!目くらましが目的か!)
イリスはそう思ったが、本当は違う。
エーデルワイスは炎の矢を作り出し、イリスへと向けていた。
(しまっ……)
「火炎の矢!」
そう言うとエーデルワイスから炎の矢がイリスへと放たれた。
可燃性の粉塵が大気などの気体中に浮遊した状態で、火花などにより引火して爆発を起こす現象がある。その名も……
「粉 塵 爆 発」
エーデルワイスがそう言うと、イリスの周りに大規模な爆発が起こり、辺りに轟音を響かせた。
イリスもさすがにこれでは無事では済まない。
そうエーデルワイスは思ったが。
爆発が起こった場所から風が吹き荒れ、炎を煙を掻き消して行く。
「けほっ……けほっ……」
灰で汚れたのか、すす汚れたイリスが咳き込みながら姿を見せる。
「やっぱり遠方からの攻撃だと、お前の風魔法で掻き消されちまうな」
エーデルワイスは頭を掻きながら呟いた。
「死ぬかと思った……」
イリスが爆発を凌いだ方法はそう難しい話ではない。
イリスの周りに風を発生させ、それを全包囲から圧縮。
そして圧縮した風からバリアを作るといったもの。
そしてそのバリアの周りからは風を解き放ち、炎が逸れるようにする。
そうすることでイリスへ直接、攻撃が当たることが無くなる。
ただ魔力消費があまりに多いため、何回も扱うことが難しい。
「やっぱり直接攻撃するに限るな」
エーデルワイスは再び構えを取る。
イリスは右手を横へと振るう。
するとイリスが右手を振るった場所から再び斬撃が放たれる。
エーデルワイスは再び体をよじり、それを避けるとイリスの元へ向かう。
イリスと再び件を交わらせ、エーデルワイスは呟く。
「イリス!確かにお前の魔法は強大だ!ただでさて威力も強いのに応用も効く!常人なら厄介この上ないだろうな!」
「そういうエーデルワイスも威力だけは相変わらずだね」
「煽りか?だがその程度じゃ私の経験値には通じやしないな!」
「……何が言いたいの」
「私はあの館を出てから、ただひたすらに戦った!魔獣やら!私を小汚いと馬鹿にしてきた人達やら!」
「……」
「それにずっとずっと勝ち続けた訳じゃない!手痛い敗北をしたこともあったさ!」
エーデルワイスとイリスの剣先が離れ、お互いに距離を取り合う。
「だが私は何度も立ち上がったぞ!いつまでも目を背け、引き篭もり続けたお前とは違うんだ!」
イリスは舌打ちをし、エーデルワイスを睨みつけ言う。
「それを繰り返しいつしか騎士団長まで登り詰めていたと?」
「まぁそういうことになるな。騎士団入門試験を合格した私はとにかく強い騎士達に挑み続けた!何度も挑戦して!何度も負けて!何度も勝って!それでようやくここまで辿り着いたんだ!」
エーデルワイスはそういう人。
イリスは魔女の死と自身の運命を受けきれられず館に篭もり。
カモミールは3人に戻りたいと思いつつも何も出来ず。
エーデルワイスは変わるためにただ戦い続けた。
「魔女イリス!後はあんただけだ!昔から何回もしてきた決闘を!今ここで決着をつけてやる!」
「あんたに勝てると?」
「今の戦いで確信した!お前は魔女になったにしては弱すぎる!何故そこまで弱い?先代の魔女なら反抗すらできずすぐに私は倒されていただろうに。イリス、もう決着を付けさせてもらうぞ」
エーデルワイスは剣を投げ捨て、両手を合わせ詠唱を開始する。
イリスはすぐさま斬撃を放つがあっさりと躱される。
「地の底で眠りし炎龍よ!その力を持って邪魔者を塵へと返せ!」
エーデルワイスの詠唱後、辺りから炎が舞い上がりそれは龍の形へ変化する。
それを見たイリスは顔を青ざめる。
「これは……」
その炎龍は空中へと高く浮かび上がる。
そして空中で向きを変えイリスへ勢いよく襲いかかる。
「くっ!」
イリスは慌てて風のバリアを形成するが、炎龍にあっさりと打ち破られ構えていた剣もあっさり折られる。
そのまま炎龍はイリスごと勢いよく地面へとぶつかり、辺りに炎を撒き散らした。
エーデルワイスは炎が撒き散らされた場所へと歩きながら向かう。
するとその場所にはまだ息の根はあるものの、かなりの怪我をいたイリスがいた。
手を地面に着け、イリスは最後の力を振り絞って起き上がろうとしていたが、恐らくそれも叶わない。
「やはり弱すぎる。何故ここまで……」
イリスはそれでもまだエーデルワイスを睨みつける。
しかしエーデルワイスは表情一つ変えない。
「ごめんね。どうしても魔女と戦うとなると、上からの命令で捕らえるよう言い渡されてな。だから……」
そうするとイリスを囲うように右上、右下、左上、左下から4つの紫の光が瞬き始める。
そこにはまるでランタンのようなものが地面につきささっていた。
「今の龍はお前を指定の場所を連れていくためのもの。今の攻撃で、本来ならイリスは耐え抜くと思ったんだが……まぁいい。王都へ連れていく前に暴れられても困る。その力、一時的に奪わせて貰うぞ」
そういうと4つの紫の光は、光の光線を作り出しイリスへ向け発射される。
右上の光は左下の光と繋がり、右下の光は左上の光と繋がり、バッテンの形を作る。
「あ……あああああああああああ!!」
光線を食らったイリスは痛みでのた回るような叫び声を上げた。
エーデルワイスはつまらないと言うようにため息をついた。
「はぁ。作戦終了と」
誤字は1章完結後纏めて修正します!
投稿時間が毎度遅くて申し訳ございません!