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助け出した少女はまさかの魔女!?

 暗い荒野の真ん中で勇者は目の前の敵を睨みつける。

 勇者に相対するのは漆黒の巨体をもつドラゴン。

 勇者は剣を持って駆け出す。それに対してドラゴンは口から炎を吐き出す。勇者はその攻撃を見るやいなや、地を蹴り空中へと大きく跳ね上がる。ドラゴンはそれに対応することが出来ず、次の攻撃に移るまでに大きな間が空いてしまう。


 その隙を勇者は見逃さなかった。


 勇者は空中で身を捩り、剣先をドラゴンの頭部へと突き刺した。

 ドラゴンは大きな叫び声を上げ倒れる。

 すると、ドラゴンの命が尽きたのと呼応するように真っ暗な空が晴れ渡った。

 勇者の目の前には囚われていた姫。

 勇者は駆け寄る。

 目を覚ました姫は顔を上げ、勇者を見つめはにかんだ。

 こうして姫と勇者は国へと帰り、2人は結婚して、末永く幸せに暮らしましたとさ。

 めでたしめでたし。



 そんなよくある話。

 勇者に助けられた姫はきっとさぞ嬉しく、この人こそが私だけの王子様だ、と思い恋に落ちたのだろう。

 いつか私の元にも私だけの王子様が現れ、結婚して子どもを産み、平凡に暮らしていく。

 人はそれを幸せと呼ぶのだろう。

 でも本当にそれは、私にとっての幸せなのだろうか。

 そんな疑問を抱かずにはいられなかった。


 でも今はそんなこと考えてる場合じゃない。

 なぜなら。


「お嬢ちゃーん。着いたよー」


「はーい」


 なぜなら今日は新しい村へと引っ越す日なのだから!


 フランシイ共和国 ナルマンデェー地方 ババロン村。それが私の新しく住む村だ。


 あぁ。そういえば自己紹介がまだだったね。

 私の名前はレイラ・ユリウス。

 現在、16歳の可愛らしい少女ってとこだ。

 やや長髪のピンク髪が特徴で、それをポニーテールでまとめている。

 今の服装は白ブラウスに黒のオーバーオール。

 趣味は散歩で、好きな食べ物はお魚。嫌いな食べ物は……っていやいや!自己紹介はこれくらいにして次は街の景観を紹介しよう!

 

 ここババロン村は絵本で描かれてるものをそのまま現実へと写し出したような綺麗な街並みだ。

 地面は石畳でカラフルなカントリー調の家々が並んでいる。

 私はこの村で楽しみにしていることが1つある。それはこの村には魔女がいるということだ。

 魔女と言われると、それって人をたぶらかす悪女のことなんでしょって思うだろうが、私はそうは思わない。

 魔女というのは国の象徴であり力そのものだ。彼女が齎してくれる恩恵は数しれない。

 それに魔女というのは神に見出され絶大な力を授かった者であり、元は無垢な少女だった者だ。

 神を信仰する人々からは敬愛や畏怖といった感情を向けられているが私は前者だ。

 魔女が授かった絶大な力というのは、魔法のことだ。この国の1部の人々も魔法というものは使えるが、彼女には歯が立たないらしい。

 私はそんな彼女に会ってみたい。

 どんな人なのだろうか、きっと優しくて綺麗なお姉さんに違いない。

 まさに私の好みにド直球な!!


 ここまで運んでくれた馬車の人にお礼を言った後、バックパックを背負った私は村を歩いていく。

 ここから私が住み込むこととなる家まで歩かなければならない。

 そんなに距離は無いとはいえ正直歩くのはめんどくさい。


「まっ、別にいいか。綺麗な村だしついでに見て回ろ」


 道を歩いてくと、何やら騒がしい声が聞こえてきた。

 そちらへ意識を傾けると…


「だーかーらー!言ったろ!ここにはあんたなんかに売るものは無いって!」


「そうだそうだ!そもそも大した働きも見せずによく顔を見せれたもんだね!!」


「見窄らしいくせして!おまけに図々しいとは!!」


「……うわぁ」


 女の人たちが3人がかりで1人の少女をいじめて(?)いるのがみてとれた。

 きっと今、私は引いた顔をしているだろう。

 しかし、責められている子は一体どんな子なんだ。そう思い私は彼女を観察してみると。


「…………」


 思わず私は目を奪われてしまった。

 服こそショートパンツに薄汚れたシャツと見窄らしい格好かもしれないが、髪はまるで天使が舞い降りたかのような美しい白銀色。それが肩にかかるかかからないかくらいで切りそろえられたショートヘア。そしてその髪色と同様レベルの美しい白い肌。背は私より少し小さいくらいだ。


「………?」


 そんな私の視線に気づいたのか小柄な少女はこちらへと顔を向ける。

 白銀の髪をさらりと揺らした彼女は、可愛らしい顔立ちをしていた。白い肌にまるでサファイアのような美しい青い目をしており、まるで人形のような印象を受ける。だけど、どこかうつろな目をしており…。


「……きれい」


 思わずそんな言葉が口から漏れてしまう。

 

「聞いてんの?!」


 彼女を責めたてていた1人が、手で少女の頭を鷲掴みにし強引に自分らの方へ振り向かせる。


「………!」


 助けよう。

 そう思った直後には駆け出していた。

 少女とそれを取り巻いている人らの間へと割り込み、鷲掴みにしていた手を払い除ける。


「な…」


 なにこいつ。

 そう相手が言う前に、私は背のバックパックへと手をのばし何かを取り出す。

 そう、それは………………………オレンジだった。

 オレンジを相手の顔めがけ投げつける。


「うっ」


 と相手がひるみ、跳ね返ってきたオレンジをキャッチする。そしてもう1人の顔目掛けてオレンジを思いっきり握りつぶすと、果汁がまるで水鉄砲かのように噴射され、それが相手の目へ入り悶絶する。


「テメェ!!!」


 残った1人が私に掴みかかろうとしてくる。私は1歩下がり、相手の足を引っ掛けると。


「うあぁ?!」


 と声を上げあっさりと躓き、他の2人も巻き込んでずっこけた。


「い、いたた〜」


「早くどいてよ」


「目が痛い…」


 3人がもみくちゃになってる間に、私は白髪の少女の手を取る。


「いくよ!」


「え、ちょっと!」


 私は走り出し、少女もそれについてくる。

 ちょっとの間だけの逃避行。しかし、何だか非日常的な感じがして私は少し楽しく思った。


「ふぅ…ここまで来れば大丈夫だよね!」


 さて村を出て、森の中へとかけ込んだ私は、連れ出した少女へと振り返る。


「大丈夫?怪我はない?」


 すると少女は戸惑った様子で答える。


「いや、大丈夫だけど…」


 少女は複雑な表情を浮かべ、何か言い淀んでいるように見えた。


「……?」


 その様子に私は首を傾げてしまった。

 何か言いたいことでもあるのだろうか。

 少しの沈黙が流れたのち、少女は口を開く。


「なんで……助けたの?」


「……?そんなの決まってるでしょ」


 少しの間を空け、不思議そうにしてる少女に当たり前のことを言い放つ。


「困ってたから。1人寂しそうな顔をして、だけど誰にも助けを求められないでいるように見えたから」


 少女は驚いた表情をし、私はそんな彼女ににっこりと笑いかける。


「困ってる人がいたら、助けるのは当たり前でしょ!!」


 少女は私が言った言葉を飲み込めないでいる様子だった。

 少女は言う。


「……私に、助けなんていらないよ」


「え?」


「だって、私は魔女だもの」


「…………………………ん?」


 えっと…どういうこと?

 そんな私の疑問に答えるように魔女と名乗った少女は言った。

 

「私はイリス=ユア=ツゥヴァリネ。亡くなった先代の魔女の力を受け継いだ、このフランシィ王国の魔女だよ」


「…………え?」


 この子が……魔女?

 こ、この国の?あの神から力を授かったといわれ、国に恩恵を齎す……?

 確かに私は魔女に会いにこの村に来た訳だが、こんなにあっさりと会えてしまうの?

 いやいや!論点はそこではなく!

 な、なんたってこの子は!


「子どもじゃないか……」


「え?」


 私の想像していた優しいお姉さんで、理想的な魔女のイメージが音を立てて崩れていく。


 こうして私、レイラ=ユリウスは無事、目的である魔女に会うことは達成した訳だが……。


「魔女が……こ、こんなに小っちゃい子だったなんて!!!!」


 どうやらこれは波乱の日々になる予感がする。

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