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第1話 面接

「ん〜うまうまだね」


「筑前煮って言うのよ」


 古い祖父母宅で三人食卓に付き昼食を摂る。

 火星のジャパニーズレストランには何度か行ったことがあるが筑前煮と言う煮物は初めて食べた。


「あ、唐揚げ!これは火星でも食べたよ。ジャパニーズフライドチキン!」


「奮発して本物の鶏肉なの。合成じゃあ無いわよ」


 嬉々として箸を向かわせる。ついついフォークの要領で刺しそうになるが既で掴む。


「米はもちろん食べたことあるわよね。でも今日はアキタ産の美味しいやつなのよ」


「通りで!」


 出迎えで金をかけた食材たち。昔は合成食材なんて無かったと聞くがやはり"ホンモノ"は味が違っていて、何より祖母の料理は味がいい。


「それで、ミリアは明日面接だよな?」


「うん、10時からだって」


 祖父母宅に居るのは他でもない。仕事の為だ。

 明日の最終面接に受かれば晴れて職に就ける。


「除隊してから一ヶ月よ?もうひと月ウチでゴロゴロしてもいいのに」


「へへ、迷惑はかけられないよ。祖父母孝行したいしね」

「あ!この前の誕生日プレゼントは本当に最高だったよ!毎年プレゼントは最高だけどね」


「あのジャケットはおじいちゃんのアイディアなの。古いアメリカ映画に影響されて選んだの。ワッペンは私の自作なの」


 バックにしまってあるフライトジャケットの黒猫のワッペンに私は喜び、除隊間近にもかかわらずTACネームを変えそうになったのを思い出す。


「もし仕事に受かったらTACネームはクロネコにしたいと思ってるの。ワッペン最高にイカしてるよ!」

「二人とも本当にありがとう!!」


 初対面の孫の喜びと礼に二人とも照れを隠すのが見て取れる。



 ▲▲▲



「んぁ、二人ともおはよう」


「あら、おはようミリア」


「ミリアおは―――ゴホッ―――おはよう」


 二人の挨拶を聞きながら台所へ向かう。

 わざわざ待っていてくれていた様で二人とも朝食を前に座っていた。


「あ!ごめん、冷めてない?」


「大丈夫。できたとこなのよ」


 少しばかり安心しながら早速「いただきます」と共に目玉焼きとハムを頬張る。

 半熟の卵にかかった黒い液体―――醤油―――の相性は私にとってとても舌に合う。


「今朝はスペシャルなトーストなの」


 傍らに置かれた食パンの上にはトマトソース、サラミ、溶けたチーズが乗っている。

「ピザトーストだ!」喜びながら齧るとチーズがたれそうになる。


「面接が終わったら迎えに行くから、帰りに中華料理食べに行きましょ」


「行きつけの店なんだが、チャーシュー麺が最高なんだよ」


 日本式中華を食べられる事に胸躍らせながら、朝食を済ませて早速身支度に移る――――――



 ▲▲▲



「ミリア・ノーゼスさん」


 面接室の扉が開かれ、名前を呼ばれた。

 緊張―――または恐怖にも似た感情―――が心をざわつかせる。


「失礼します・・・・・・」


 部屋に入るとイカつい男、細身の男とナイスバディな女が向かいの席にいた。

 一言入れて着席すると早速イカつい男が口を開く。


「軍歴・・・・・・は4年。17で入隊?」


「はい。マーズでは17歳でハイスクールを卒業します。何より火星では労働者は多いですが兵士が少ないので短期間の飛行訓練の後戦闘機パイロットになりました」


「ふーん」と何とも耳障りの悪い返事の後、履歴書を眺めている。

 すると次は細身の男が口を開く。


「所で、敵を撃墜した事は?」


「ヌバールアンのファイターを一機。有人機はありません」


「"初めて"は終わらせたようだ」


 小声で話しているのが少しばかり聞こえた。その直後ナイスバディに頭をはたかれる様を見て、内心笑ってしまう。


「失礼。貴女、ノーゼスと言ったわね。勝手ながら調べたところ勲章授与の経歴があるようだけれど、それは何故?」


 ナイスバディの質問に少しばかり動揺する。


「その、友軍を庇って撃墜されました。それから、三日間宇宙を漂流したので・・・・・・」


「少し同様しているわね」


 ズキっと来た。あの三日間の恐怖は忘れられない。

 たった三日でも暗い宇宙空間で生命維持装置に生かされ続けるのは辛かった。何よりもこのまま死んで宇宙を漂流する屍になる事は耐え難い気持ちになる。


「で、ですが!勲章を貰えたので恐怖心は相殺されました!」


 トラウマを見せまいと変な事を口走ってしまった。

 だが、案外受けたのか強面なイカつい彼は少し吹き出した。


「くくっおもしろい。短いが最後の質問だが。君は人を撃ち殺せるか?ヌバールアンでは無く」


 一瞬の沈黙。

 だけれど私は胸を張って答える。


「やれます。世界は弱肉強食ですから」


「その言葉気に入った」


 イカつい男は話を続ける。


「待合席でみた通り君含め今期の志願者は二人だけだ。君ももう一人も採用は確定だろう」

「三日で合否を伝える。個人的な意見では身支度と、二週間の基礎訓練に備えておけ」


「以上だ。今日はありがとう」そう言われて、面接は終わった。

 帰りの私は合格発言に喜びながら町中華でチャーシューメンについつい唐揚げと餃子を頼んでしまったのだった。

ヌバールアン

約80年前のロシア地域で初めて現れた地球外生命体。

高度な文明を有しており、彼等の特異な戦闘機はヌバールアンファイターと称され人間からは憎み嫌われている。

度々人類の艦船を襲撃する厄介な存在。



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