第0話
『本日はトンペテスペシアルエクスプレスをご利用いただきありがとうございます。本船は15分ほどでアジア同盟国、フクオウに到着します』
なんてことは無い定期運航。
火星で生まれて火星で過ごしていた私の目には、ネットでしか見た事のない、青い惑星が船外カメラから投影されている。
実際に会ったことの無い母方の祖父母が住むフクオウまで―――先祖の生まれ故郷である地球まで、もう目前と言う事実に胸が踊る。
「でも少し、心配かな」
つい一人言が漏れる。
火星軍に居た頃に地球の友好国と軍事演習を行った事があるが、それは宇宙空間だった。
交換留学でハイスクールの同級生が何人か地球に行っていたが彼等の話を盗み聞きして、地球を想像する度にワクワクとしていたが、目前となると恐怖心が少しばかり湧いてくる。
「お姉さん、地球は初めてって言ってたよな」
航路の最中隣の席に座っていた初老の男が、独り言を聞いて反応した。
「ええ、やっぱり少し緊張しちゃって」
少しばかり微笑みながら返事をすると、彼は「初めて火星に来た時も緊張したよ」と微笑む。
へへっと笑って返すと、彼は身支度をしだす。それを見て私も残ったコークを飲み干して手鏡で髪型をチェック。
この貨物室ばかりで狭苦しい客室ともおさらばだ。
▲▲▲
来て、しまった・・・・・・
人類の故郷、春のフクオウは、とても心地よい気温で、空が青い。所々に白い雲も見える。
「国連の温暖化政策のおかげで、五十年前から過ごしやすい四季なのよ」
発着場のラウンジで、後ろから声がかけられる。
聞きなれた声。
「おばあちゃん!」
振り向くとカバンを下げた、白髪染めで濃い茶髪の、ビデオ通話で何度も見た祖母と白髪頭の祖父が立っている。
「お、おお・・・・・・おお!!」
嬉しさと感動で年甲斐も無く二人に飛びつきハグする。
「おっとと、老体には響いてまうぞミリア」
「ご、ごめんね」そう言ってすぐさま離れる。
何度も通話したとは言えさすがに現実では初対面なだけあって、感激してしまう。
「ふふ、私らが火星に行く程のお金が無かったからね」
「でもこうして実際に会えるだなんて、私らも感動しちゃうわよ」
こうして、私達は再開でもあり初対面で話に花を咲かせながら祖父母宅へと向かった。