赤い星座をまかないに
彼の作ったオムライスが私の前に置かれる。トロトロ卵にケチャップで赤い点が7つ。
「何これ」
四角?と真ん中に点が3つ。マニュアルでは山の中心から少したらすようにかける決まりだ。
「んーこうすればわかる?」
同じ時期にバイトを始めた彼が、店自慢の自家製ケチャップを追加して点と点を繋げる。
あぁ、見たことある、知ってる。ナントカ座。
「ごめん、こーゆーの苦手?オリオン座は冬の星座でね…って興味ないかな」
「とっさに名前が出てこなかっただけで、知ってます」
そっか、と彼は爽やかな笑顔で厨房へ消えていった。フロア担当の私はあまり会話をしたことがないけれど、ロッカールームの噂話では理系の大学で星見のサークルに入っていて活動資金の為にバイトをしているらしい。
いつも穏やかで控えめな彼を、頼りなさそうと評するバイト仲間もいるけれど、私としてはちょっと、いやかなり好印象だ。なのに今日のケチャップは少しからかわれたみたい。…気のせいかな。
数日後、彼とシフトが同じ日に出されたオムライスには赤い点が5つ。
「え?私今日はハンバーグお願いしたのに?」
「あーうん、昼にハンバーグ全部でちゃって、夜の分、今仕込んでるとこなんだ」
そうなんだ、残念。確かハンバーグはタネを成形してから冷蔵庫で寝かせているはず。考え込んでいる私を見て、5つの点が何かわからないと思ったのだろう、彼はWの形にケチャップで線を引いた。
「見たことはあるよ、なんだっけ?ほら、北の…星?」
「カシオペア座。先週先輩の車で星がよく見える山まで行ったんだ。って誰も話聞いてくれないんだよなぁ」
私がムスッとした顔をしたら、そそくさと彼は厨房へ引っ込んでいった。
星の話が嫌なのではない。先輩って女の人?二人きり?そんなことが頭をよぎる。
星座の本を買った。
また出題されそうな星座クイズに正解するために。断じて彼の好きなものが知りたいとかそうゆうことじゃない。今のところ見たことのある簡単な星座だったから、次は北斗七星や南十字星あたりだろうか。
彼と同じシフトの日がきた。希望のメニューを言わずともオムライスが私の目の前に置かれる。
「何…これ」
今日は点ではなかった。曲線で描かれたのはハートだ。こんな星座あるの?
びっくりしている私に彼は告げる。
「バイト以外でも俺と会ってくれませんか?」
彼の顔は耳まで赤く、私も頬を赤く染めた。
ハート座は存在しませんが、かんむり座とうしかい座の一部を使えばハートに見えなくもないそうです。また、りょうけん座のアルファ星はチャールズ王の心臓と言われているそうです。