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ジェミニ/トリップ  作者: 弓寺ルマ
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プロローグ

初投稿です。よろしくお願いします。

 剣戟の音がする。


 ぎいんと刃が交差する音は、一瞬の後には肉を断つ生々しい音に取って代わる。

 ぎいん、ばすん。ぎぃん、ばすん。

 その繰り返し。

 鈍色の長剣が翻るたびに鮮血が飛び散る。

 血と脂に塗れた武骨な剣は、けれど持ち主が一振りするだけでもとの輝きを取り戻した。刀身が柔らかな光を湛え、敵対者の厚い胸板を、丸太のような腕をバターのように両断してゆく。

「っ、やぁッ!」

 空気を切り裂くような鋭い声は剣の持ち主から発せられている。

 僅かに幼さの残る声だ。鬼気迫るその表情も、青年というよりは少年のかんばせに浮かんでいる。

 そして彼を取り囲む敵対者は、二メートルを超そうかという筋骨隆々の異形たちだった。

 深緑色の皮膚に、大きな口からのぞく乱杭歯と意味不明な怒号。ぎらぎらと光る黄色い瞳は瞳孔が縦に裂けていて、二足で歩いているとはいえ、まさか人間ではあるまい。

 彼らは憤怒を厳つい顔に刻み込んで、不揃いの武器を手に取り少年へと襲いかかる。

 肉厚の鉈、穂先の錆びた槍、大木さえ真っ二つにしてしまいそうな巨大な斧。どれもこれも不気味に赤黒く錆びていて、何度も人の命を奪ってきたに違いない。一度でも命中したが最後、名も知らぬ犠牲者たちのように少年が肉塊になってしまうことは明白だった。

「よっ、ほっ、……うらぁ!」

 少年は受け流す、弾く、かわして懐に潜り込んでは斬りつける。

 彼の技量は異形たちとは比べ物にならないほど卓越していたが、如何せん数が多過ぎる。少年自身も、斬り捨てた数が十を越えたところからは数えるのをやめてしまった。

 少年の技量がいくら優れていても、振るう剣がどれだけの業物であっても、圧倒的な数に勝る武器はそうそうない。

(……まずい。息が上がってきた)

 ぶおん、と眉間を狙ってきた大剣の一撃を紙一重で避けながら、少年はひやりとした汗が流れるのを感じていた。身体はすでに汗みずくなのに、背中を伝う一筋の汗がわかるのがなんとも気持ち悪かった。

(早く、早く。早く早く早く早く……)

「…………()()()()()⁉︎」

 虚空を仰いで叫び出した少年を見てとって、異形たちは嗤い出した。恐怖のあまり気でも違ってしまったのかと思ったのだろう。げらげらと笑い、少年を囲む輪を少しずつ縮めていく。次の一撃で仕留めるつもりなのだろう。

 異形たちが、その息づかいさえ感じられる距離にまで迫ってきた、その時だった。

 

「————お待たせっ! いいよ、燕兄(えんにい)、離れて‼︎」

 

 どこからともなく聞こえてきたのは、澄んだ少女の声だった。

 

 異形たちはにわかに活気づき、辺りを見回す。

 これは彼らの習性とでも言うべきもので、とかく若い女性というものに目がないのだ。どれぐらい目がないかと言うと。

 

「よっしゃ、いいぞ! やったれ、()()っ‼︎」

 

 つい先ほどまで命の奪い合いをしていた少年を、ひととき見失うくらいには。

 

 異形たちが最期に見たのは、異常な魔力の高まりを示す真っ白な風景と、遥か向こうで笑う少年の姿、そしてその傍らに立つ小さな人影。

 

 少年と同じ顔かたちをした少女の叫ぶ姿だった。

   

「どっかーーーん‼︎」

 

 次の瞬間、轟音と共に火柱が上がった。

 

 天を焦がさんばかりの火柱は、夥しい数の異形たちを丸ごと飲み込んだ。

 異形たちは恐慌を来たし、逃げ出そうとするが既に遅い。少年を取り囲んでいたことが仇となって、彼らは満足に身動きがとれず、結局そのまま焼き尽くされてしまった。

  

「おおー、燃えた燃えた。…………あのさあ、マイシスター」

「はーあ、疲れた疲れた。…………なんだい、マイブラザー」

 

「…………もうちょっとかっこいい呪文とか叫べんもんかねえ」

「それは無理な相談だねえ。……に゛ゃっ⁉︎」

 背丈ほどもある杖を肩に担ぎ、からりと笑った少女は少年に鼻を摘まれて奇声を上げた。慌てて振り払い、少年の尻にぽすんと蹴りを入れる。

「もう。馬鹿やってないで帰るよ、燕兄。異常発生したオークの討伐は完了したんだから、さっさとギルドに報告して、」

「報奨金もらって、なんか美味いもんでも食べに行くか」

 

「——うん!」

 

 よく似た笑顔を交わしあって、ぱん、と手を打ち鳴らした彼らは異形の残骸に背を向け去ってゆく。

 鼻歌交じりで、足取りも軽く。

 実のところ、討伐証明まで綺麗さっぱり燃やしてしまった彼らが報奨金を受け取れるようになるまで、もう一悶着あるのだけど、それはここで語ることではないだろう。

 これから語るのは、二人の始まりだ。

 

 掛橋燕也かけはしえんやと掛橋涼芽(すずめ)

『双子の英雄』として、異邦の地『ハテノナ』で長く後世まで語り継がれる二人の物語の始まりは、他ならぬ彼ら自身に語ってもらうこととして、無粋な語り手はいったん筆を置くこととする。

ご覧いただきありがとうございました。

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