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【完結】新・風の勇者伝説  作者: 彼方
五章 オーブを探して
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格闘大会開始


 ノルド町で開かれる格闘大会。

 町の最奥で毎年行われるそれは、噂を聞いた者が他の大陸からやって来たりもする。世界の中で知名度はまだまだだがアスライフ大陸ではそこそこ有名だ。しかし近年は魔信教の出現もあり出場選手数は大幅に減少している。


 旅の途中で立ち寄ったエビルとレミは参加を決めており、町の最奥へと向かっていた。選手の数が減ったといっても町の人間のほとんどが集まっているので熱気と活気が伝わる。

 通路は一応開けてくれているので受付に無事着いたエビル達は、チケットを見せると参加資格である番号札を貰う。胸辺りに付けたそれは単純に参加順のようであった。


「おっ、エビルじゃないか」


 熱気ある広場でエビル達に近付いて来た男が一人、ホーストだ。

 オレンジ色のバンダナを巻いていて、大きい体格で筋肉質な彼は笑顔で歩み寄る。


「ホーストさん、昨日ぶりですね」


「えっ、ちょっとエビル、誰この人? 知り合い?」


「町の灯台の管理人だよ。大会で何回も優勝してるんだって」


「へえー、アタシはレミ。よろしくねホーストさん、手加減はしないわよ」


 手を差し出すレミに彼も手を伸ばして握り合う。


「望むところだ……しかし女性か、中々女性が参加するというのは珍しいな。肝が据わっているというか何というか、ここは生半可な実力で優勝出来るほど甘い大会じゃないぞ?」


「心配ご無用よ。アタシ達、負ける気ないもの」


 レミは軽く笑みを浮かべて広場の中心を見やった。

 赤と青のロープで囲まれた正方形のリングが中心にはある。格闘大会といっても専用の建築物があるわけではなく、単に石畳のリングが設置されているだけだ。理由としては観客が見やすいからというものと、闘技場開設費用が全く足りないというものがある。


「レミは強いですよ、それに僕もやるからには優勝を狙っています。二人一組で出るこの大会では二人のチームワークが大切でしょうし、僕達が組めば優勝も夢じゃない」


「うん? 何を言っているんだ? ペア決めはくじ引きだぞ」


「ええ!? じゃあエビルと一緒に戦えないかもしれないの!?」


 初参加で情報不足のエビル達は二人一組で戦うことしか知らなかった。まさかくじ引きでペアを決めるなど予想外で、必然的に二人は敵対する可能性が高くなる。


「まあチームワークが大事なのは事実だし、俺が三度も優勝出来たのは毎回コルスと組めたおかげかもしれないが……さすがに今回は無理だろう」


 優勝した三回とも同じ人物とペアを組めるなどそうそうない。優勝にはそういった豪運も必要なのかもしれないと思ったエビルは頷く。


「これまで同じ人なら四度目は確かにないでしょうね。むしろ三度目まで全部同じ人っていうのが凄い奇跡ですよ。ああでも絶対にないとも言い切れないんじゃないですか?」


「いや、ないさ。あいつは……昨日殺されたからな」


「ころ……された……?」


 殺されたという言葉にエビル達は衝撃を受けた。

 格闘大会の優勝者、それも連覇するほどの実力者ならば、賞金もあるので狙われることもあるだろう。しかしそれで殺されてしまう程度ならば優勝など出来はしない。襲い掛かってくる者達を全て返り討ちにするくらいでないと生活すらままならない。事実、昨晩までは襲撃があったとしても乗り切っていたことになる。

 物騒な事実にレミも笑みを消して口を開く。


「だとしたら大会出場者が怪しいんじゃない? どうせ襲撃して出場者を減らそうって魂胆でしょ」


「ああ、以前から大会出場者を襲撃して数を減らす者はいたんだ。殺害されたのは今回が初めてだけどな」


 エビルはなぜそんなことが起きるのか不思議で仕方なかった。

 人間にも善人悪人がいることは分かっている。だがどうしてそういった人間は悪に傾くのか、悪には悪なりの理由があるとしても殺人など起こしてはいけない。誰もが常識として、暗黙の了解として人を殺してはいけないと分かっているはずなのに……なぜ人は人に殺されるのか。どんな理由であれエビルは納得出来そうにない。


『人間ってのは嫌だねえ、欲望のままに動いて法を破るんだから』


 自分のことを棚に上げてシャドウがそう言葉を零す。

 果たして人間と悪魔に違いなどあるのだろうか。低級の悪魔は言語を操れないなどの違いがあるが、シャドウのような上級悪魔は人間と変わらない。言葉を喋り、欲を持ち、人を殺す。人間も同じことをしている。……むしろ同種族を殺すという点において人間の方が悪魔と呼ぶに相応しいのではない。

 そこまで考えてエビルは首を横に振って思考を吹き飛ばす。


「集まってくれたみんな! ついにこの日がやってきたぜ、格闘大会開始だあ!」


 唐突に、リング中心へ歩いて来た男が大声で大会開始を告げる。

 口元に髭があるその男の声をきっかけに出場選手がリング付近まで接近し、観客達は多少だが後ろに下がる。暗黙の了解といえるもので、出場者全員が観客よりもリングに近くなければならない。そうでなければ観客が邪魔で選手がリングに上がれない事態に発展しかねないからだ。


「今回は十六人が参加してくれたぜ! 賞金は毎年お馴染み百万カシェだ!」


 二人一組なので合計八組。試合は第一回戦が四試合あり、それに勝ったものが次の試合へと進むトーナメント方式。武器の使用は禁止。簡単なルールを説明する司会の男の話はまだ続く。


「そしてこれも毎度のこと、優勝者と準優勝者には景品が用意されているぞ!」


 司会の男の元へ若い女性二人が歩いて行く。

 露出の多い彼女達二人はそれぞれ違うが景品を両手で持っている。その景品にエビルはまさかと息を呑む。


「優勝者にはこの青く透き通っている宝玉、ブルーオーブが送られるぞ! 用途は不明だが売れば金になること間違いなし、コレクションとして持つもよしだ! 準優勝者には来年の格闘大会シード権が送られるから頑張ってくれ! 本来ならそれに加えて新鮮な魚達も送られるはずだったんだが、すまないが今年は不漁だったからなしだ!」


 どうせ出るなら優勝したいと思っていたエビルだが、ブルーオーブが景品にあると知れば優勝以外の道はなくなる。なんとしても勝ち上がろうと固く決意する。


「続いてくじ引きで今回の選手同士のペアを決めるぜ! くじカモン!」


 三人目の若い女性が穴の空いた箱を持ってリングへ上がる。

 その女性が目前まで来てから司会の男が箱の中へ手を伸ばし、中から数字の書かれた小さなボールを二個同時に取り出す。合計八回それを行ってペア決めはあっさり終了した。


「対戦相手はペア発表順、早速一組目と二組目で試合行こうか!」


 第一試合。エビル&ホーストVSバコウ&ミズキ。


 第二試合。ジャミロ&ワギリVSバング&ミズナ。


 第三試合。レミ&モヤッシュVSヒスイ&キザン。


 第四試合。ナクウル&匿名希望VSヤウイ&ロウロ。


「まさかホーストさんと同じペアになるなんて思ってませんでしたよ」


「俺もさ。これはもうどっちが優勝するとかじゃなくなったな」


「はい、絶対に二人で勝ちましょう」


 エビルとホーストはリングに上がり、同時に上がって来た対戦相手を見据える。

 今、負けられない格闘大会の火蓋が落とされた。


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