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【完結】新・風の勇者伝説  作者: 彼方
五章 オーブを探して
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大昔の壁画とオーブ

 毎週土日に投稿しているのに昨日は出来なくて申し訳ない。代わりに月曜日、有給休暇なので投稿します。








 宿屋で一泊し、早朝の特訓を終えた後。昨日は保留しておいた石造りの建物へとエビル達は向かう。

 行列ができていた昨日とは違い、今日は朝早いこともあってかあまり人は並んでいなかった。待って十分程度といったところだろう。数人しか並んでいないが、そんなサクサク一人の時間が終わるなら行列になっていない。


 列の最後尾へ並び約十分。エビル達の番となり建物へ入れるようになった。

 建物内部は崩れないように支える柱がいくつかある。内部の灯りはないので入口からの光が唯一の光源だ。最初の部屋から扉を開けて進むと、二つ目の部屋は入ってすぐに壁画が飾られていた。その傍に一人の中年男性がランプを持って立っている。


「ようこそ、こちらは初めてですか?」


「はい、あなたはもしかして説明担当の方で?」


「メズールに引っ越してきたばかりの若輩者、ズンダといいます。この壁画についての説明を担当させてもらっています」


 もっさりとした髭が生えている中年男性、ズンダがそう告げる。

 失礼なことに「若輩者って……どう見てもオッサンだよな」とセイムが隣のサトリへ耳打ちし、案の定「失礼でしょう」と軽く注意された。


「この地より北東部にあるフォロレタという村付近にあった遺跡にて、偶然見つけられたこの壁画。この大陸のどこかにある神殿が描かれています」


 壁画はどこか神秘的なものだった。

 木々に囲まれた神殿の絵。その中には四つの台座があり、四つ全てに丸い球体が置かれている。空には大地がくり抜かれたようなものが浮いており、そこには別の神殿のようなものが建っている。何を意味するのか見ただけでは分からない。


「内部にはオーブを設置するための台座が四つ。オーブを置けば空へ浮かぶ神殿……つまり神様の住まう地に行けるということですね。古代では神への謁見も普通に行われていたとか」


 レミは「神殿って……」とサトリへ目を向ける。

 エビル達にとって神殿といえばプリエール神殿しかない。しかしそれは神官であるサトリが首を横に振ったことで否定される。


「いえ、プリエール神殿ではありません。昔と比べて地形の変化はあるでしょうが、あの場所には台座などありませんでしたから」


「そもそも空の上なんてどうやって行くんだろう」


「羽でも生えるのかしら。だったら妖精みたいで結構素敵よね」


「向かう方法については存じません。色々噂はあるようですがどれも現実味がないのですよ。羽が生えるというのもその中の一つですね」


 壁画に描かれている空高くにある大地。人間が空でも飛べない限り到達出来そうにない高さだ。四つのオーブを集めれば行けるというが方法はズンダも分からないらしい。


「その神の神殿とやらには何があるんだ? 神でもいるってのか?」


 神様という単語に興味を持ったセイムが質問を投げかけた。

 彼自身、死神の末裔だ。神話の類は詳しくないが多少の興味がある。


「それだけではないでしょう。もし会えたら皆さんの役に立つ情報を教えてくれるかもしれません。もしかしたら望みを叶えてくれるかもしれません。まあ実際のところ、今でも神様が空にいるのかは証明出来ないのですがね」


 誰かが行ってきたという情報はない。結局のところ現実の話なのか分からないため胡散臭い内容ではある。夢ある話だが御伽噺と言われればそれまで。壁画自体は貴重だと思われるので貴重な体験が出来たのは確かだろうが。


「実はこの台座に乗っているオーブ。一つはつい昨日まであったのですがお見せ出来ないのが悔やまれます」


「え、オーブがあったんですか?」


「うっそ、ちょっと見てみたかったわね」


「なるほど、貴重な代物でしょうしおいそれと見せるわけにはいかないでしょう。賢明な判断だと思います」


 話が本当なら国宝レベルの物品だろう。何せ四つ集めれば神の住む地に移動出来るというのだから。


「……いえ、昨日までは家にあったのです。実は家にあったグリーンオーブがなくなっていたのです。どうやら盗まれてしまったようで」


 しかし見せられない理由は全く違ったようだ。エビル達は驚愕する。


「マジかよ! 犯人とかは見てねえのか?」


「犯人……かは不明ですが、数体のマリンスライムが村で目撃されています。うっすらと光っていたのでおそらく彼らが持ち去ったのかと思われます」


「だとすると湿原にあるかもしれませんね。マリンスライムは群れで動き、各々の収集した物を巣に溜め込む習性があると聞いたことがあります。心当たりはないのですか?」


 光っている物を奪って集める習性があるマリンスライム。湿原にいた彼らが犯人という可能性は十分にある。貴重なものゆえに取り戻したいところだが今から見つけるのは至難の技だ。

 湿原に場所が絞れたとはいえあの場所も広い。闇雲に探してもまず見つからないのは分かりきっている。それを踏まえてサトリが問いかけるとズンダは「ああ!」と声を上げる。


「何か心当たりがあるんですか? 場所が分かるなら僕達もオーブ探しを手伝いますよ」


「ええっと、湿原に入って右奥に細道があるんです。その先に行ってみたら親玉っぽい巨大なスライムがいた……という噂が村で広まっていますね。今回と関係あるかどうかは分かりませんが」


「それしか手がかりがないなら行きましょう。魔物は危険ですから僕達だけで行きますよ。もしオーブがそこにあったら持ち帰ってきます」


 魔信教のこともあるが困っている人間を放ってはおけない。エビルは憧れの勇者のように人助けを積極的に行うつもりであるし、他の者も放っておくほど冷たくない。

 危ないのに探索を引き受けてくれることにズンダは目を丸くする。


「おお、ありがとうございます旅の方。でも無理はしないで結構ですからね」


 話を終えたエビル達はオーブを取り返すため、再び湿原に向かうのだった。



 * * *



 メズール村のズンダが盗まれてしまったグリーンオーブを取り戻すべく、エビル達四人は犯人であろうマリンスライムの巣を目指して湿原に入る。

 ズンダの話の通り湿原の、村からみた入口の側に細道があった。木々に挟まれているそこをエビル達は歩き出す。


「この道の向こうにマリンスライムがいるのか……」


「しかしマリンスライムとは厄介な相手ですね。湿原でかなりの数を倒しましたし分かっていると思いますが、スライム系統の魔物は流動体。斬撃も打撃も効果が薄いので討伐が難しい」


 サトリの言う通り、スライム系統の魔物に対しては斬撃も打撃も威力が半減する。彼ら自身の生命力は決して高くないため数体ならゴリ押しでどうにでもなる。レミの場合は火で攻撃出来るので素早く討伐してこれた。しかしマリンスライムは熱耐性があるため火の攻撃も威力半減。エビル達にとって、というか誰にとっても相性が悪い魔物である。


 出鱈目なスライムだが弱点があった。高い再生能力を所有しているが再生すると同時に体力を消費するのだ。体力が尽きて再生不可能になっている状態で攻撃すれば自然と死に至る。スライムの攻略方法はそれしかない。


 ただひたすら攻撃あるのみ。それしか行動出来ない。

 そんな魔物がもし群れで国に攻め込んできたら圧倒的に不利になる。軍事力がある国ならばそこまで被害は出ないが、弱小の国や村などは立ち向かっても再生力の前にひれ伏すだけ。そうにもかかわらずスライムに滅ぼされたなどという話がないのは、実際にスライムに攻め込まれたことが過去にないからだ。


 スライムは普段、森や湿原の奥でひっそりと暮らしており、主な餌は人間など他の生命ではなく薬草や川の水。多少の損害はあれどひっそり暮らしている以上は手出ししづらいし、多くなりそうならギルドと呼ばれる組織に依頼を出して駆除してしまえばいい。もっともアスライフ大陸にギルドは存在しないので駆除は兵士の仕事になるが。


「うん? なあ、ありゃなんだ?」


 歩いているとセイムが不思議なものを見たかのように目を丸くした。

 実際セイムが目にしたものはおかしなものであり、エビル達も視線を追えば隅に置かれている物体を発見する。


「壺だね」

「壺ね」

「壺ですね」


 人間一人なら余裕を持って通れる程度の小道の隅。そこには不自然なことに奇妙な模様がある青い壺が置いてあった。


「……なんでこんな湿原の小道に壺なんてあるんだ?」


「確かに妙ですね、しかしそれほど気になりますか?」


「気になるって。だって壺だぞ? 金持ちとかが集めてるやつだぞ? それがこんな小汚い道に置いてあるんだぞ? 気になるだろ」


 壺が普通ならば湿原にあるはずがない。それは誰だって分かる常識である。捨てるにしてももっといい捨て場所があるはずである。


「無性に割りたくなってきたなあ」


「ああ、分かる分かる。なんか壺を見ると割りたくなるのよね」


「いやダメだよ二人共、割ったらもったいないじゃないか。作った人も悲しむよ」


「そうです。壺への冒涜ですよ」


 壺を近くで見るべくエビル達は近寄っていく。手が届くくらいの至近距離まで近付いた時、壺から突然瑠璃色のドロドロした液体が飛び出て来た。


「うわっ!? マリンスライム!?」


 いきなり飛び出てきたとはいえ通常より一回り小さい個体。手のひらに乗れるようなそのマリンスライムは、地面に着地して素早く細道の奥へと逃げていく。


「これは一種の罠……いえ、警告でしょうか。これより先に来るなら容赦はしないという意味合いの」


「魔物にそんな知恵があるわけ? もしそんな罠だったら明らかに人の手も加わってるでしょ。きな臭くなってきたわね」


「とにかく、さっきのマリンスライムを追いかけよう。見失ったけどそんなに離れてはいないはずだよ」


 セイムを除いた三人が先を急ごうと壺から目を話した瞬間、何かが割れる音がした。

 また壺の方を見てみれば、壺が見るも無残に割れていた。破片が地面に飛び散っているのは強い衝撃が与えられたからで、原因は大鎌を振り下ろした体勢のセイムだろう。


「何をしてるのさセイム!」


「罠かもしれねえんだろ? だったら壊しとけばいいじゃねえか」


「た、確かに……ならアタシが割りたかった……」


「いやレミも納得しないでよ……」


 割れてしまったものは仕方がないのでエビル達は今度こそ先へ進む。

 狭い小道を歩いて数分。道は段々と広くなっていき、広い円状の土地に出る。

 円状の土地には多くのマリンスライムがいる。およそ目算で百体はいると思えるほどの軍団が結成されていた。


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