決戦直前
最下層、会議室の扉前に辿り着いたエビル達三人は立ち止まる。
右側にある階段を上がればリンシャンとクレイアの援護には向かえる。二人は心配ないと告げたし、エビル達も敵を打ち負かすと信じているが様子は気になってしまう。しかし、早々に決着をつけなければ城外で戦う者達への被害は増える一方だ。
「ねえ、反対側の階段を上がれば二人の援護に行けるよね。部屋に入る前に、二人を助けてもタイムロスは短く済むんじゃない? アタシ一人で二人のところに行っても構わないしさ」
「……いや、行くなら全員で行こう。これ以上別行動を増やすのは危険だ」
リンシャンとクレイアが戦っている相手にエビルは見当が付いている。
風で気配を感じ取った結果、既知のものであったため気付いた時は驚いた。
相手は元七魔将サリフィオン。昔にビュートが戦った敵なので、シャドウと融合時に彼の記憶を引き継いだからこそ察せる。先程は二人なら大丈夫と思ったが、もし魔剣が当時のままなら苦戦は免れない。昔、ビュートとその仲間が四人掛かりで辛うじて勝利を掴めたレベルの猛者。まともに戦えば危険すぎる相手なので加勢には賛成である。
いざ加勢に向かおうとした時、エビルはサリフィオンの死を感じた。
驚きでエビルが硬直していると階段を下りる足音が現在地にまで響く。
「お待たせしました皆様」
リンシャンとクレイアの二人が階段を下りて来て合流した。
驚いたことに二人には全く傷がない。本当にサリフィオンと戦ったのなら無傷なのはありえない。そもそも決着が早すぎる。まさか彼が敵だというのはエビルの勘違いで、実際は予想外に弱い悪魔が待ち伏せしていたのかと疑う。
「なんだ、増援なんて必要なかったわね」
「ええ、敵が不調だったようですし楽に勝てましたよ」
「……とりあえず全員揃ったね。リンシャンとクレイアは休憩いる?」
「少しだけ休憩させてください。ほんの少しだけでいいですから」
休憩中、誰と戦ったのかを詳しく聞けばエビルの予想通りであった。
ロイズの肉体を使用したというのも不調なのも予想外だし、驚きと怒りが混じる。まさかギルド本部に放置された彼女の死体が使われるとは思ってもいなかった。彼女本人でないとはいえ仲間と戦わせたのは非道だ。
不調の原因が何だったのかはエビルにも分からない。
他人の肉体で戦うのは慣れが必要だろう。しかし、元七魔将ともあろう者が手も足も出ずに完敗するのは考えづらい。事実はそうなっているわけだが、エビルとしてはロイズの意思が体に染みついていた説を推す。希望的観測に過ぎないがそうあってくれた方が嬉しい。
話は変わり、戦闘前にリンシャンとクレイアが聞いた情報を話す。
悪魔王の魂操作についてだ。知っていたエビルはともかく、レミと白竜は愕然としていた。驚くのも無理はない。誰かの魂を黄泉から持ち出し、逆に送ることも出来るなどまさに神の御業。本物の神でさえおそらく出来ないことである。
「じゃあ、もし悪魔王と会ったらエビル、死んじゃうんじゃないの?」
「可能性は否定出来ない。でも、僕は戦いに行く。悪魔王の力は未知数だしヴァンとまともに戦えるのは僕しかいない。ヴァンとの戦闘で悪魔王が手を出さないでくれれば助かるんだけど……こればっかりは賭けになっちゃうね」
秘術の紋章に宿る神性エネルギーで対抗出来る確証はない。
最悪の場合、部屋に入った瞬間に魂を抜かれて殺される。
想像するのも嫌だが仮にエビル抜きの四人に戦いを任せたとして、四人がヴァンに勝てるとは思えない。ギルド本部で彼の実力は身に染みて理解した。彼の速度には誰も付いて行けず、あっという間に全滅してしまうだろう。そんな未来を防ぐためエビルは同行を決めている。
「魂の方は厄介だが洗脳なら問題ない。レミ、貴様がいればな」
「リトゥアールの時みたいに聖火で洗脳の効力を焼くのね。……ねえ、今思ったんだけど、ヴァンは洗脳されていないのかしら。人間なんでしょ? どうして人間が悪魔王の部下になってるのか分かんないし、洗脳されていると考えるのが妥当じゃない?」
「もしそれが事実なら、レミさんが洗脳を解けば味方になってくれるかも……!」
「いいや、ヴァンは洗脳されていないよ。彼は彼自身の意思で動いている」
全員の視線がエビルに集まる。
「なぜ分かる? シャドウの記憶か?」
察しの良い白竜の問いに頷いて肯定した。
シャドウはよくヴァンと話をしていたので彼の事情も知っていた。シャドウは彼の言葉を悪魔王のものと思っていたようだが、実際は彼本人の言葉。虚言を吐く性格ではないと分かるので語られた話は決して嘘ではない。
「レミ、白竜。二人には知っておいてほしい。ヴァンは……リトゥアールさんとビュートさんの子孫だ」
聞いた瞬間二人に動揺が生まれる。
「リ、リトゥアールと……」
「ビュートの子孫……だと」
「あの、そのリトゥアール様やビュート様という方はどちら様なのでしょうか」
リンシャンの発言後にクレイアも「興味津々」と頷く。
知らない彼女達のためにエビル達三人が詳細を語る。話を聞いたリンシャンは「つまり、先代風の勇者の子孫!?」と尋常ではない驚きを見せたが、クレイアは風の勇者に馴染みが薄いため驚かない。
シャドウの記憶、ヴァン本人の語りによれば話は単純。
悪魔王城から逃がされたリトゥアールは産んだ赤子を捨て、その赤子を悪魔王が配下に拾わせた。そして配下の悪魔に育てさせた人間に子孫を残させた。今生きている子孫がヴァンというわけだ。悪魔王が人間を拾った理由は不明だがまともな理由ではないだろう。
「エビル、今回の戦いは貴様の運命、先代勇者一行の因縁の全てに決着をつける戦いとなるわけか」
「うん。僕にとってヴァンや悪魔王との戦いは重要なものだ。逃げるわけにはいかない」
話が終わってから少しして、リンシャンが口を開く。
「皆様、もう大丈夫です。疲れは消えました」
「そっか。……これが最後の決戦になるはずだ。気を引き締めて行こう」
エビル達は金の装飾が美しい黒の扉を勢いよく開ける。
会議室にあったはずの机や椅子はなく、広々とした空間になっている。
そこでは灰色の髪の青年が大剣を持って待ち構えていた。
既に闘志を漲らせて戦闘準備は万端といった様子だ。
「……やはり、あの二人では足止めにもならないか」
「ヴァン・アルス。今日、リベンジさせてもらうよ」




