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【完結】新・風の勇者伝説  作者: 彼方
第二部 四章 各々の想い
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邪悪な計画実行


 黒と赤を基調とした禍々しい悪魔王城でシャドウは待っていた。

 細い通路の壁に寄りかかりながら、ひたすらとある男の帰りを待つ。

 そして今、男が、七魔将最強の男が帰って来た。


「ようヴァン、随分お疲れみてえだな」


 目的の男の名前はヴァン・アルス。

 彼の容姿は灰色の髪も顔も、忌々しいが見知った男女に似ている。


「シャドウか。ああ、正直疲れた。勇者一行に加え、敵対したミーニャマとも戦闘を行ったからな。それに、まさかミーニャマがあんな力を隠していたとは思わなかった。少々殺すのに手間取ってしまった」


「ふぅん、ミーニャマがねえ? そっちはともかく勇者一行は殺したのか? 結局のところ、悪魔王様にとって障害なのは秘術使いの方だろ。四人全員揃っていたんだし、殺すなら絶好のチャンスだったはずだ。お前なら殺し損ねるミスはしねえと思うが、一応訊いておきてえな」


「……逃がしたが、全員に致命傷を負わせた。生命力の高い悪魔はともかく人間なら今頃死んでいるだろう」


 若干口角を上げたシャドウは「へぇ」と呟く。

 ヴァンから逃げ切るとはエビル達も運が良い。

 死亡確認していないなら生きている可能性は高いだろう。

 林の秘術使いがいれば致命傷だろうがすぐに治せる。

 後々の楽しみが出来るので、もし生きているならシャドウも少し嬉しい。


「悪いが、疲れたから休ませてくれ」


 ヴァンがシャドウの前を通り過ぎていく。


「ああ、ゆっくり休めよ。……黄泉で永遠にな」


 今この瞬間をシャドウはずっと待ち望んでいた。

 勇者一行と戦い、計画外だがミーニャマとも戦いヴァンは疲れている。そんな時に味方だからと無防備に背を向けて、警戒もせずに傍を通る今この瞬間こそシャドウにとって絶好のチャンス。


 ――ヴァン・アルスを排除するための条件が今、揃った。


 シャドウは剣身の復活した魔剣黒傷剣(ブラックスカー)を自分の影から取り出し、ヴァンへと斬りかかる。突然の襲撃に勘付いた彼は背負っている鞘から魔剣バーキュストを抜くが、もう遅い。どんな手練れだろうとタイミング的に対処が間に合わない。


 計画通りだ。エビルと手を組んだ時から思惑通りに事が運んでいる。

 自分とヴァン以外の七魔将を討ち、ヴァンと戦って疲弊させるのがエビルの役目だ。そして疲弊して動きが鈍いヴァンをシャドウが討つ。普通に戦っては勝ち目のない相手と分かっているからこそ、そんな卑怯な真似に頼らざるを得ない。


 全ては敬愛する悪魔王の右腕となるためだ。


 悪魔王が一番頼りにするのは自分であってほしい。そんな歪んだ愛から来る欲望を満たすためには、ヴァンという邪魔者を排除しなければならない。他の七魔将も含めて、一度七魔将という存在をリセットするのだ。仮に再び作るにしても、その時は七魔将がシャドウの下であってほしい。


「……今か」


 想像を超えた速度でヴァンが振り向き、黒傷剣(ブラックスカー)の一撃を防ぐ。

 あってはならない現実にシャドウは目を見開く。


「貴様が俺を殺そうとしているのには気付いていが、まさか、今とはな」


「何だと……いやまだだ、奇襲は失敗したが最終的に殺せればいいんだ! 俺があの御方の一番となるために、お前には死んでもらうぞヴァン・アルス! あの御方の傍にいるのが人間であっていいはずがねえんだよお!」


 距離を取ったシャドウは自分の影を広範囲に拡大させた。

 魔術〈影操作〉は影を大きくすればするほど戦闘で有利になる。

 影に入り込んで移動するにしても、影に実体を持たせて武器にするにしても、自由で応用の利く〈影操作〉は全て影があってこその力。全力で戦えば、たとえ格上の相手でも互角以上に渡り合えるという自信がある。


「魔剣バーキュスト」


 ――だから、信じられない。

 広範囲に拡大させた影は全て、ヴァンの魔剣に吸収されてしまったのだ。

 魔剣バーキュストの能力をシャドウは知らなかった。基本的に自分の手の内を話したりしないため、同じ組織にいても技術や能力など知らないものは多い。まさか、こんな天敵のような能力を秘めているなど予想外だ。


「なんっ、だと!?」


「悪魔王様以外は俺の魔剣について知らないからな、驚くのも無理はない。この魔剣バーキュストは神性エネルギーや自然のエネルギーを吸収し、自分で扱うことが出来る。秘術も魔術も神性エネルギー。この剣なら容易く無力化出来る」


「何だその剣は……くそっ、お前だけ優遇されやがって!」


 魔剣バーキュストがある以上、秘術も魔術も使い物にならない。

 ヴァンと戦うなら純粋な身体能力と技術だけが頼りというわけだ。


「正直、現状は少しショックだ。俺に恨みでもあるのか?」


「別に恨みはねえよ。お前は他の奴等と違って俺を見下さなかった。先祖は気に入らねえが、お前のことは七魔将の中じゃあ一番好感持てるぜ。それでも、俺が悪魔王様に一番信頼される右腕となるのにお前は邪魔だ。俺の部下になるなら生かすが、どうせならねえだろ」


「俺は悪魔王様の部下だ。他の誰かに従うつもりはない」


「だったら殺すしかねえんだよ! 死んでもらうぜ人間!」


「こちらも貴様を殺すしかなさそうだ。死んでもらおうか、悪魔」


 返答は分かりきっていた。

 人間であるヴァンがなぜ悪魔王の部下であるかは実に単純。

 彼も、彼の親も、悪魔王に育てられたからだ。何代前の先祖か知らないが悪魔王に拾われてから、彼の家系はずっと悪魔王城で生きている。そんな彼が従うのは悪魔王のみ。シャドウが下につけと言っても従うはずがない。


 魔術を迂闊に使えないためシャドウは剣技だけで挑む。

 疲労が溜まっている今しかヴァンを殺すチャンスはないし、長期戦になれば体力が回復してしまう。戦うなら短期決戦と決めてなりふり構わず剣を振るう。一息吐く間もないくらいの猛攻を仕掛ける。


 そして激しい剣戟を繰り広げた結果――シャドウは敗北した。

 体を数カ所大きく斬られる致命傷を負い、負け犬のように倒れた。


「終わりだな。七魔将も減ったが後で増やせばいいか」


「ちくしょう……エビルの野郎、もっと、体力を、消耗させとけよ……!」


 逃走も考えたが絶対に出来ない。

 逃げ切れはするが、ヴァンは確実に今の出来事を悪魔王へと報告するだろう。そうなればシャドウは悪魔王の右腕になるどころか評価が下がってしまう。七魔将という立場から下ろされるか、組織から追い出されるか、どちらかの可能性が高い。


 元々悪魔王にバレないよう殺害する計画だ。

 秘密裏に行うからこそ慎重に、長い時間を掛けて計画してきた。

 全て順調にいっていたはずなのに今、計画は崩れ去ろうとしている。


 現状、もうヴァンを殺害するのは不可能。次の手を打つ必要がある。

 賭けになってしまうが、嘘を並べてヴァンに冤罪を着せるしかない。


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