そして旅立ちへ
騒がしくなったアランバート城を抜け出して、エビルとレミの二人は城下町を歩きながら話していた。
二人の出会い。城で過ごした数日。そしてイレイザー襲撃。様々なことがあったので話題には困らない。
「それでレミ、あんなギリギリで同行させてほしいって頼むなんてどうしたのさ。君なら僕が歩き出す前に、何かしら言ってくると思ってたんだけど」
エビルが話すのはついさっきの謁見の間での出来事。
悲しそうな表情をしていたこともあり、てっきり国に残るとばかり思っていた。
「あれね。実は昨夜姉様に旅の件を話したんだけどさ、許してくれるか訊いたのに答えてくれなかったのよ。……でも気付かされたわ。あの場で自分から言い出すのを姉様は待ってたのよ」
「それに自力で気付いたのが遅かったからあのタイミングってことか」
「ああいや、それが、実はエビルが行っちゃいそうになった時、姉様が急に耳打ちしてきてさ。姉様ったら『行きたいのなら今自分から言い出しなさい』なーんて言ってきてさあ。さすがにあの場で自分から言い出さなきゃいけないなんて思ってなかったからビックリして、慌ててエビルを呼び止めたのよ」
まさか自分が階段へ歩いている時に後ろでそんなことが話されていようとは、エビルは夢にも思わなかった。
そして今までのことを全て話し終えると。次はこれからのことを話し始める。
「……エビル、これから旅に出るんだよね」
「そうだね。レミも一緒に」
「ええ。でもまあ何ていうか、いざ出発するとなると緊張するものね。ほらアタシってこれまでこの町から出たことなかったからさ」
二人は歩き続けて城下町入口付近にまで来ていた。
青い空を飛ぶ小鳥数羽をふと見上げたレミが言葉を続ける。
「昔……十年くらい前かな。鳥になりたいって思ってたんだ」
エビルも青空を同様に見上げてみる。
「鳥ってさ、自由に空を飛んでどこまでも行けるじゃない。だからアタシは鳥になって、誰に何を言われることもなくどこかへ行きたいなーって思ってた。現実問題、立場が許してくれなかったわけだけど……今はどこへでも行ける」
「完全な自由ってわけじゃないかもよ? 僕とレミで意見が対立することだってあるかもしれない。そんな時、互いに譲らないんだろうね。一人の方が気楽だったんじゃない?」
一人旅というのもメリットは多いものだ。同時にデメリットも少なからずあるが。
一人ならば誰かと対立することはない。意見の食い違いもないので自分の意思のままに自由に道を選べる。
「うーん、どっちが良いんだろう。人によって答えは違うんだろうね。でも、アタシは一人よりも、エビルと一緒に旅をした方が楽しいと思うな」
二人は青空を見上げるのを止めて視線を前方に戻す。
城下町入口はもうすぐだ。露店の数々が盛況で賑やかな道はもう通り過ぎた。入口の門までもう少しとなれば露店は完全に消えてなくなる。
「嬉しいけど、どうして?」
「単純に楽しそうだと思ったからよ。鳥だって群れで行動すること多いじゃない? あれって習性とかよりももっと大事なもので一緒にいるのを決めていると思うわけよ。心っていう、大事なものでさ。……だって群れるのが嫌なら一羽で動けばいいじゃない。その分大変な思いはするだろうけど、嫌な思いをし続けてまでその場所に留まることない。アタシも同じよ、エビルといるのが楽しかったから二人で行くって決めたの」
「なるほど……じゃあ、嫌になったら?」
「そん時はそん時よ。どうするかは未来のアタシが考えればいいのっ!」
城下町入口の門の真下まで二人は来た。目の前には草原と森への入口が存在している。ようやく旅の始まりだと内心ワクワクしていたエビルだが、レミが立ち止まったことで遅れて足を止める。
どうしたのか左へ振り向いてみればレミは右手を胸の中心に当てて、深い呼吸を繰り返していた。
「ああ、止まっちゃってごめんね。……ただちょっと感慨深くてさ。……ずっと、町の外に出たがっていたから、いざ出るとなると色々あるっていうかさ。うん、とりあえずエビル……この旅、楽しいものにしようね」
「魔信教討伐の旅でもかい」
エビルの目的はあくまで人助けをしながら世界中を見て回ること。魔信教はそのついでなわけだが、レミの一応の目的は魔信教討伐がメインになっている。もちろん本人の意思次第で優先は変わるが敵を討つ目的がなくなることはない。
「それでもよ! 何をするにも楽しんだもん勝ちなんだから!」
満面の笑顔になったレミは足を動かし、ついに城下町の外に出た。
何をするにも楽しんだ方がいいというのはエビルも賛成だ。これからの旅でどんな苦難に見舞われようとも、全て乗り越えて笑って旅を終えたいと思う。
先に出て行ったレミのようにエビルも笑みを浮かべる。
小さな草原と深そうな森への入口。この先に待つものが楽しい旅でありますようにと願い、右手の甲にある風紋を一瞥してから歩き出した。
ストックは切れた……。
長かったですがこれから旅立ちです。
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