閑話 ミヤマとミーニャマ
ギルド本部から少し離れたフォリア山脈の一部が爆発した。
噴火でもしたように大地の破片が宙を舞う。
山の山頂付近から岩が転がって山道が封鎖される。
この異常事態を引き起こしたのはたった二人の戦闘。
二人はメイド服を着用した黒髪黒目の女性。頭には猫耳、頬には三対六本の髭、メイド服の尻部分に空けられた穴から猫の尻尾が生えている。まさに生き写しと言える二人の違いは、メイド服の裾が短いか長いかしかない。
裾の長いメイド服姿の女性、ミーニャマが岩で塞がった山道を見る。
「……いいのですか? 山を破壊して」
裾の短いメイド服姿の女性、ミヤマは楽し気な笑みを浮かべたまま答えを返す。
「気にしないでいいにゃん。後でどうとでもなるし」
「……分かりませんね。あなたは、なぜ勇者の味方をするのですか? 私は知っている。あなたは中立、誰の味方もせず敵にもならない存在。……なのに、今は勇者の味方をしている。正義感に目覚めたわけでもないでしょう。いったいなぜ……!」
「勘違いしてもらっちゃ困るにゃん。私は戦いの場に出ないだけで、特定の誰かの味方をすることはあるよ。因みにエビル君の味方をしているのは特例中の特例。理由はね、君と敵対しているからだにゃん。こんなんでも私は責任をちゃーんと取る女だから」
再び二人の戦闘が始まる。
ミーニャマの猛攻にミヤマは余裕で対応する。
肘打ちには肘打ちを、蹴りには蹴りを、拳には拳を放ち相殺。
二人は汗一つ掻かずに攻防を繰り広げながら話し合う。
「私がいたから、私が生み出されたから、ダグラス様が殺されたとでも!?」
「そうは言っていないにゃん。私はエビル君が最悪の未来を進まないように調整してあげただけ。私が干渉しなくてもダグラスの死亡率は高かったにゃん。君が傍にいたとしても結果は変わらなかったかもしれない」
未来の調整といっても大したことではない。
例えば七魔将のビンに情報を隠したり、山の秘術使いを知っている人間にエビルが接触するよう仕向けたり、特訓と称して強くなる最善の道のりに誘導したりなどだ。あくまでも本来ありえる可能性の範囲で調整しただけである。
「くっ、勇者は今どこにいるのです!?」
「失敗作は不便だねえ。私には全部視えているにゃん」
「……私は! 好きであなたの力を得たわけじゃない!」
激怒したミーニャマの猛攻は止まらない。
二人の攻防は山をさらに削る。
「苛々してるねえ。私も怒ってんだよ。やっと面倒な奴を始末出来たのに、また面倒な奴が出て来てさ」
拳と拳の衝突で空気が震える。
「だからさ、私は君も利用する」
一瞬でミーニャマの至近距離に移動したミヤマが耳打ちする。
二人しかいない山道にミーニャマの「なぜ」という声が広がる。
戦闘は終わりミヤマは……エビルが驚く顔を想像しながら笑った。




