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【完結】新・風の勇者伝説  作者: 彼方
第二部 四章 各々の想い
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修羅場


 前を歩くミヤマと発言したクレイア以外が硬直する。

 聞き間違いでなければクレイアはエビルと結婚したいと言った。聞き間違いであることを祈り、エビルがリンシャン達と顔を見合わせたが聞こえた内容は事実。


 なぜ自分を選ぶのかエビルは全く分からない。

 発言した本人が恋愛感情を抱いていないのが秘術で分かってしまう。

 これが一目惚れだとか、恋愛感情があるなら納得出来るのだが。


「あ、あの、どうして僕なんでしょうか」


「理由? 実力」


 どうしてこうなったと思いながらエビルはを額を押さえる。

 決闘して勝ったなら、一族の掟というわけで理解は出来る。まさかダグラス相手に共闘したのがきっかけで実力がバレて、こうも簡単に求婚してくるとは思わなかった。


「エビル、私、結婚!」


 叫んだクレイアがエビルの右腕に抱きつく。

 強引に振り払おうと思えば振り払えるがそれは可哀想だ。


「な、な、何を言っているんですか!? 愛のない結婚なんて政略結婚じゃあるまいし絶対ダメです! 第一、エビル様にはもう既にお相手がいらっしゃるんですから! 離れてくださいクレイア様あああ!」

「嫌」

「は、な、れ、て、く、だ、さ、いいいいいい!」


 リンシャンがクレイアの脇腹を掴んで引き離そうとするが離れない。

 あまり強く引っ張られるとエビルの肩が外れてしまう。目でロイズに助けを求めるたが、楽しそうな声色で「ふふっ」と笑われた。


「人気者だな。私も抱きついた方がいいか?」


「冗談キツいよ……冗談だよね?」


「ああ、冗談だ。一国の王女が簡単に異性へ抱きつくのは問題だろう」


 前を歩くミヤマも「私も抱きつこうか?」と言ってきたので、エビルは首を横に振って「遠慮しておきます」と告げておく。


 これからシャドウに会うという時に、仮に全員から抱きつかれていたら確実にバカにされる。彼のことだ、きっと『おんやあ? 世界を救う勇者様ともなれば女を抱き放題ってかあ? お前は風の勇者じゃなくて色欲の勇者の方がお似合いだぜ。避妊はしっかりしろよ』くらい言ってきそうだ。

 今の状態でも『よっ、色ボケ勇者!』くらい言いそうだが。


 状況は何も変わらないままエビル達は客間の前へと辿り着く。

 客間の扉を開けると自分と瓜二つの憎たらしい顔が――なかった。


 部屋の中にいたのは炎のような赤髪の女性。

 袖がない朱色の服を着ており、下はミニスカートを履いている。

 首に巻かれて逆立っている黒のスカーフの先端を指で弾いた彼女は、見覚えがありすぎる容姿をしている彼女は、ずっと再会を心待ちにしていた女性――レミ・アランバート。


「レミ!」


 ソファーから立った彼女は入り口側へと体を向ける。


「久し振りねエビ……ル?」


 エビルを見ている彼女の瞳から段々光が失われていく。


「元気そうで良かったよ、会いたかった。少し髪伸ばしたね」


「……うん、アタシも会いたかった。そっちも元気そうね。しばらく会わないうちに女侍らせてハーレム作ってるくらいだもんね、一目見て元気って分かったわ」


 明らかに彼女の機嫌が悪い。

 原因は今のエビルの状態を考えればすぐに分かる。


「え、あ、いや違うんだよこれは! さ、さあクレイアさんもリンシャンも離れて離れて!」

「結婚」

「今それどころじゃないってば!」


 レミとの再会を待ち望んではいたが今回のケースはかなり悪い。

 愛の告白をした相手と再会した時、周囲を囲むのは異性四人なうえ一人は抱きついている。こんな状態を最初に見たとなれば彼女のダメージは計り知れない。エビルが逆の立場でも絶対に心に傷を負う。


「会いたかったのに……こんな再会、あんまりよおおおおお!」


 涙を瞳に滲ませた彼女の拳がエビルの顔面にめり込んだ。



 *



 ソファーに座ってエビル達は向かい合う。

 エビルの隣にはクレイアとリンシャンが座っており、反対のソファーにはレミ、ロイズ、ミヤマが座っている。空気はあまり良くないが七魔将や現在の仲間の説明を開始した。


 オルライフ大陸にてロイズと出会い、七魔将ビン・バビンと交戦。

 ゼンライフ大陸にてメイジョ協会の陰謀を阻止。

 林の秘術使いリンシャンと行動を共にしてギルドへ到着。


 依頼の手伝いとしてテミス帝国へ向かい、山の秘術使いの手掛かりを入手。

 ミナライフ大陸にて七魔将ダグラスと交戦。山の秘術使いクレイアと彼女の母マテンを連れて、ミナライフ大陸からギルドへ帰還。


「今までの状況、理解してもらえたかな」


 そして現在。再会早々レミに殴られたエビルは目の下を赤く腫らしている。


「……悪かったわね。さっき殴ったのは謝るわ。……でも、アタシ的には二人っきりで再会したいって思ってた。誰かと一緒に行動しているのも考えなかったわけじゃない。それでも、まさか、女四人に囲まれているなんて思わなかったの」


「それは、うん、成り行きで……四人?」


 現在エビルの仲間は全員女性だが三人しかいない。

 残りの一人は誰だと視線を動かすと、首を傾げているギルドマスターで視線が止まる。エビルが気付いた時には相手も気付いたようで手を口に当てて驚いていた。


「いやいやいや違う違う! 私はエビル君の女じゃないにゃん!」


「そうだよ! いや、他の女性も仲間ってだけだから!」


「……ふーん。ま、エビルがそう言うなら信じとく」


 唇を尖らせたレミの態度は本当に信じたのか怪しいところだ。しかし長々とこの話を続けても本題が進まないし、一種の決着ということで話を切るのは正しい判断と言える。もし彼女が納得出来ていないのなら後でいくらでも話が出来る。


「終わったか? 口を挿みにくい会話だったぞ」


「痴情のもつれというやつでしょうか」


 居心地を悪くさせたロイズ達にエビルは「ごめん」と謝った。


「――色々あったけど一先ず置いておこう。今日、秘術使い四人が揃った」


 恋愛的な話も個人としては重要だが、それより世界規模で重要な話がある。

 世界に四人しかいない秘術使いがやっと一カ所に揃ったのだ。


 風。エビル・アグレム。

 林。リンシャン・ノブレイアーツ。

 火。レミ・アランバート。

 山。クレイア。


 魔を滅する力を持つ者が揃い準備万端。


「後は悪魔王、七魔将を迎え撃つ。もしくはこっちから攻め込む」


「攻め込むって……敵の居場所が分かってるの?」


「僕達とシャドウは協力関係にある。あいつに教えてもらえばいい」


 レミの疑問はもっともだがエビルにはシャドウとの繋がりがある。

 正直なところ彼を百パーセント信じるつもりはない。

 ただ、彼はエビルに対して嘘を吐いたことが一度もない。


 敵対している時も、協力している時も、いつだって彼は偽りの言葉で騙さなかった。それなのに百パーセント信じないのは、彼も彼なりの思惑があってエビルをコントロールしようとしているからだ。何かを企み、わざと言葉が足りない説明をする時がある。


「うげっ、アイツかあ。信用出来るの?」


「シャドウの言葉だけは信用出来るさ。あいつも七魔将打倒って目的は同じだ。……でもおそらく、いや十中八九、悪魔王打倒には協力してくれない。七魔将を倒し終えたら敵になると思う」


「それなら居場所を吐かせてから奴を殺すのが最善だな」


「ロイズ様、さらっと恐ろしいことを言いますね」


 情報を貰ってから殺害するというロイズの提案が最善だとエビルも思う。

 しかし、シャドウに芽生えた正の感情の行方を見守りたい気持ちもある。負の感情だけで構成された彼に生まれた良心には成長の余地がある。彼の心の成長を見届けずに殺してしまうのは、過去に殺さず生かした判断をなかったことにするも同じだ。

 言うなれば自分への裏切り行為。


「話難解。攻撃、守備、どっち?」


「相手が準備する間もなく攻め込めば僕達が有利だ。シャドウが悪魔王達の居場所を教えてくれたら攻めることにしよう。その話をするまでに、あいつをどうするのか考えておくよ」


 可能なら殺さないで全てを終わらせたいが、考えが甘いのは分かっている。

 今一度シャドウと本気で戦う日が来てしまうのは十分ありえること。

 彼を降参させる方法は残念ながら思い付かない。


「――ちょい待つにゃん! 私は反対しまーす!」



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