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【完結】新・風の勇者伝説  作者: 彼方
第二部 三章 善悪の境界線
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緊急七魔会談


 黒と赤を基調とした禍々しい城、悪魔王城。

 七魔将の一人であるミーニャマはが最下層へ向かうと目的の部屋へ辿り着く。長机と七人分の椅子が置かれているそこは七魔将の会議場所。最奥には大きな紫の宝玉が飾られている。


 部屋にある椅子には既に三人の男が座っていた。

 闇より黒い肌の男、シャドウ。

 黒いコートを着た灰色髪の青年、ヴァン・アルス。

 シワの多い薄緑色の肌の老人、サイデモン・キルシュタイン。


 残りのメンバーにダグラスもいるが今日は来ない。

 ミーニャマは大人しく、男衆から一番離れた入り口側の席に座る。


「おや? ダグラスは来ないのですか?」


 サイデモンが黄色い瞳をミーニャマに向けてそんなことを言った。


「なぜそう思うのでしょうか」


「ふっふっふ。いやなに、あなたとダグラスは仲良しですから。まったくあの子はしょうがないですねえ。どうせ今回の会議をサボったのでしょう? 今回は是非来てほしかったのに」


「何か来てほしい理由でも?」


「ええ、今回は……おっと申し訳ありません。私が全て説明してしまうところでしたよ。ここは七魔将のリーダーであるヴァンが話すところなのに本当に申し訳ない」


 別に説明してもよかったと思うがミーニャマは敢えて口を挿まない。

 会議といっても組織としては案外適当な部類に入る。誰が指揮を執ろうが、誰が欠席しようがお構いなしだ。ダグラスが平気でサボったのは全て規律の緩さが原因。もし規律が厳しければダグラスだって渋々来ていたはずである。


「別に貴様が説明しても構わないぞ」


「えー本当にいいんですか? 本当に?」


「何でもいいから早く始めろよ。時は有限だろ」


 若干怒りの混じったシャドウの声が響く。

 ミーニャマとしても早く会議を終えてダグラスのもとに戻りたい。

 彼の『時は有限』という言葉にうんうんと頷く。


「では今回集まった理由を説明します。七魔将も邪遠とビンが欠け、二名の席が空いてしまいましたよねえ。そこで、私が気に入った人間を七魔将にすることにしたのです……ああもちろん悪魔に改造してです」


 サイデモンの発言に驚く者はいない。

 ヴァンは予め知っていただろうし、ミーニャマはある程度予想していた。欠員が出たら補充するのは当たり前である。補充時期がいつになるのか不明だったが、欠員が出てからもうかなりの時間が経つので追加されてもおかしくない。


 シャドウが苛つきを隠すことなく「……追加メンバーかよ」と舌打ちした。

 悪魔王へ反旗を翻そうとしているダグラスが報告を聞けば、きっと彼と同じで苛つくはずだ。さすがに彼のように外へは出さないだろうが。


「それで、その新入りはどこにいる?」


「ふっふっふ、さあ、入っていいですよ」


 腕を組んでいるヴァンが問いかけると、サイデモンが声を上げる。

 部屋の扉が勢いよく開かれた。そこに立っていたのは一人の青年。

 一本に纏められた青い長髪。斑模様の着物姿。背中には彼より一回り小さい槍。


 敵襲かと思いミーニャマは立って拳を構えたが、感じる気配は悪魔のもの。その割には外見に魔物らしき特徴がないので最低限の改造なのだろう。彼が話に出ていた新入りだと思い直し、構えた拳を下ろす。


「彼の名はナディン・クリオウネ。元ギルドSランクの猛者」


「新入りは一人か?」


 そういえば、とミーニャマも不思議に思う。

 欠員が二名出てから数ヶ月の時が経つ。用意した追加メンバーが一人だけというのは明らかに準備不足。いつも準備を怠らないサイデモンらしくないと言える。


「……それがですねえ、我々の説明をしたら途中で出て行きましてねえ。確か、エビルという名前を聞いてすぐでしたね。急に走り出したのは驚きましたよ、いや本当に。まあ性格に難があるかもしれませんが実力は保証します」


 実際に見ていないので出て行った新入りの実力は分からない。

 ただ、ナディンという男の実力はかなり高い。相対してみればミーニャマにはよく分かる。埋め合わせの補充員にしてはビンすら殺せそうだ。ダグラスを相手にしても善戦するレベルであり、厄介な者が増えたと内心焦る。


「なあ、本当に使い物になんのかよ?」


 悪辣な笑みを浮かべたシャドウに対して、ナディンは「試してみるか?」と槍を手に取る。自信ある態度をシャドウは鼻で嗤い、席を立って影から黒剣を取り出す。

 二人が向かい合い、数秒の合間に初手の動きを読み合う。

 二人が同時に動き、数秒の合間に百以上の攻防をして距離を取る。


「はっ、ちょっとはやるじゃねーの。まあ俺には及ばねえがな」


「……互いに本気を隠したままでは分からんな」


 今の攻防で実力は証明された。何か、奥の手を隠していることも。


「いかがですヴァン、彼、中々いい動きをするでしょう?」


「ああ。だが、どうやら補充は足りないらしい」


 補充が足りないとはどういう意味か。ミーニャマ達は一斉にヴァンを見やる。


「――ダグラスが死んだ」


 ミーニャマの思考が凍る。

 ヴァンが何を言っているのか理解出来なかった……したくなかった。

 普段冗談を言わない男が笑えない冗談を言ったようにしか聞こえない。


「全力のダグラスは強いですし、殺せるとなれば相当な手練れでしょうなあ」


「心当たりならあるぜ。ビンを殺した勇者ご一行様ならやれんじゃねえの?」


 ミナライフ大陸に直近まで滞在していたミーニャマは、勇者達が来ていたことなど知らない。秘境や魔境と呼ばれるミナライフ大陸に来られる実力者なのは確かだ。一度ギルド本部で戦ったので強さは理解しているし、エビルが本気で戦えばダグラスも危険である。


「そこのヴァンという男、仲間の死が分かるのか?」


 何も知らないナディンの問いにサイデモンが答える。


「正確には悪魔王様が配下の生死を感じ取れるのです。ヴァンは悪魔王様のお声を聞き、我々に伝えているだけにすぎません。……あ、言っておきますが彼に挑んで下剋上なんて考えは止めなさい。絶対に勝てませんから」


「貴様でも勝てないのか?」


「……さあ、どうでしょうか」


 悪魔王がヴァンの脳内に声を届けているのはミーニャマも知っていた。

 悪魔王は自らの肉体を捨てて精神体となり、部屋最奥に飾られている紫の宝玉に宿っている。精神体といえど能力は本物。離れた場所にいる自身の配下の生死を認識出来るのは理解している。だが、いきなり死んだと聞かされても納得がいかない。


「殺したのはおそらく、今代の風の勇者だ。そう呼ばれていた者がミナライフ大陸に向かったと少し前に情報を得ている。甘く見ていたが予想以上の実力者らしいな」


「本当に……勇者が……?」


 ミナライフ大陸に戻って確認するまでは信じられないが、死亡報告だけで腸が煮えくりかえるような怒りを覚える。怒りの矛先は当然エビル達、風の勇者一行。もし本当にダグラスが死んでいたら、不老不死の夢叶わずに朽ちていたらエビル達を許さない。

 心の底から湧き上がる怒りが頭に血を昇らせる。


「面白いですねえ。是非会ってみたいものです」


「サイデモン様、あなたが会うことはありません」


 興味深そうに呟いた彼は「おやおや、なぜです?」と首を傾げる。


「今代の風の勇者達は私の獲物です。ダグラス様の仇は私が取ります」


 今、ミーニャマは明確な殺意を持って宣言した。

 七魔将達の意見を聞くことなくミーニャマは力強く歩いて部屋を出て行った。



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