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【完結】新・風の勇者伝説  作者: 彼方
第二部 三章 善悪の境界線
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求めるもの


 元バトオナ族。現悪魔であり七魔将の一角。

 ダグラス・カマントバイアが森を彷徨ってからもう四十日以上。

 昨日集落への方角を教えてくれた緑髪の少女のおかげで前進……したかに思えたがまたも見事に迷ってしまった。一日中走り回ってやっとのことで集落を囲む柵を見つけた時、認めたくなかった欠点をダグラスは認めた。


「……アタシってば、方向音痴だったのね」


 人間であった頃は自由気ままに旅をしていたし、悪魔になってからは配下や友人と共にいることが多い。自分が方向音痴だということを今まで考えもしなかった。これからは一人での行動を避けようと考える。


「誰」


 高さ十五メートルもある木製の柵に近付くと見張りに見つかった。

 別に隠れもせず堂々と歩いていたので見つかるのは当然なのだが。


「あーら失礼。ダグラスが帰ったとゼランに伝えてくれない?」


「ダグラス? 聞かない名」


「いいから、穏便に済ませたいならさっさと行きなさいな」


 不満そうな表情を浮かべた見張りの一人が門を開けて、集落内に入る。

 残ったもう一人の見張りの鋭い視線を涼し気な顔で受け流す。

 少し待っていると集落内に入った見張りが老婆を連れて帰って来た。

 鳥の羽の髪飾りを付けている老婆は出て来るなり目を細める。


「ダグラス、本当にダグラスか」


「娘の顔を忘れちゃったのかしらあ?」


「……付いて来い。話があるなら儂の家でするぞ」


 老婆、ゼランは見張りに「其方達は仕事を続けておけ」と告げる。

 歩き出したゼランにダグラスは付いて行き、オルアプの実の殻で作られた家に入った。暗い殻の中がミタニルの黄色の光によって照らされて、親子水入らずで二人が向かい合う。


「今更何用じゃ。言っておくが、もはや其方を一族の者として扱いはせんぞ。儂の制止を無視して集落を出て行きおって、この阿呆が。血の繋がった娘として扱った時期があったからこそ集落内に通しただけじゃ」


 ため息を吐いたゼランは「見ないうちに髪も染めおって」と吐き捨てた。

 確かに人間の頃はバトオナ族と同じ銀髪だったが、悪魔に改造された時に髪色が急に変化したのだ。好きで染まったわけではないが桃色髪も中々気に入っている。


 バトオナ族の集落を出たのは喧嘩などが原因ではない。自由なようで娯楽の少ない窮屈な暮らしに耐えかねて、真の自由を得るために旅へと出発しただけだ。


「随分お優しいわね。さ、話は手短に済ませましょうか。知りたいことがあるの。アタシが知りたいのはただ一つ、長寿泉への行き方だけよ。他には何も望まない」


「長寿泉じゃと!? バカめ、教えるわけがなかろう!」


「教えなさいな。死にたくなければ」


 ゼランの反応は予想通りだがダグラスも引かない。

 ダグラスの目的は一つ。不老不死となり、永遠に自由に生きること。

 誰にも止められることなく欲求を発散出来る自由な日々こそ理想。


 悪魔になったのもそのためである。

 悪魔王に改造されたのではなく、してもらった。


 旅の途中、悪魔の王が配下を増やしているという噂を聞いたのである。

 居場所を突き止めて乗り込み、自ら改造してほしいと頼み込んだ。

 人外の存在になれば永遠に生きるのも夢ではないと考えたからだ。


 ……しかし結果は失敗。勘違いしていたが悪魔でも永遠には生きられない。バトオナ族は元から寿命が長いので、肉体が強靱になったことや魔術を扱えること以外悪魔化のメリットがない。


「ミナライフ大陸のどこかにあるんでしょう? 不老不死になれる泉、長寿泉。ここに来る前に行こうとしたけど結界装置か何かで道を封鎖しているでしょう? 通る方法を教えなさい。アタシも自由に動ける時間があまりないの、急いでいるのよ」


 悪魔王の配下となったせいで人生、否、悪魔生の自由度が下がっている。七魔将という立場なので下っ端よりはマシだが、このままでは世界規模の野望に付き合わされて休む暇もなくなる。世界征服でも人類の排除でも何でもいいがダグラスは全く興味がない。


 もし長寿泉で不老不死になれた暁には反逆して、ミーニャマを除く悪魔全員を皆殺しにするつもりだ。彼女だけは仲間として認めている。悪魔王に対しての忠誠もない彼女とは気が合い、今では相棒的存在だ。邪遠が生きていた頃は彼を仲間に誘ったのだが断られた。


「不老不死になったとして何をする気じゃ。儂等バトオナ族は十分すぎる程に長寿泉の恩恵を得ている。儂等はその恩恵を得る代わりに、泉への侵入者を止める役割を持つ」


 バトオナ族が得ている恩恵というのは、長寿泉から川に流れ出る成分のこと。一定量飲めば不老不死になれる長寿泉の成分を生活水として飲んでいるのだ。当然成分は薄まっているが寿命を延ばすくらいの効果はある。


「例え封鎖された道を乗り越えても番人がおる。今は神の手先共も交代制で見張っている。其方一人でどうにか出来ると思うか? 殺されるのがオチじゃぞ、止めておけ。長く生きたいのじゃろう?」


「長く生きたいからこそ、長寿泉に行くのよ。……でもそう、アストラルの配下達と戦うのに一人だと面倒ね。ミーニャマと二人でも苦戦しちゃうかもだけど……問題なし。さあいい加減に教えなさい。アタシが手荒な真似をしないうちにね」


「……どうしても行く気か」


 ゼランが立ち上がり、縄梯子を使って地面に下りる。

 特に止める気はない。彼女がどんな選択をしようと彼女の自由。行動の結果で命を落とすことになっても彼女の自由。例え実の母親であろうと誰であろうと、目的のためならダグラスは躊躇せずに殺す。


 ――衝撃で家が振動した。続いて浮遊感を味わう。


 唐突に家を支える柱が折れた。

 オルアプの実の殻で作られた家が落下していく。


「皆の者おおおおお! 敵襲じゃああああああ!」


「そう、それがあなたの選択ね」


 地面に直撃する前にダグラスは家の天井を殴打で破壊。

 空中へと跳び上がって脱出してみれば、大勢のバトオナ族が集まって来ていた。子供も大人も関係なくルイストの骨で作られた槍を構えている。

 一気に広がった殺意にダグラスは舌舐めずりして着地した。



 *



 バトオナ族の集落に来ているロイズとリンシャンは動揺していた。

 いきなりゼランが敵襲だと叫び、大勢が槍を持って族長宅を囲む。


「ろ、ロイズ様、聞こえましたよね?」


「ああ。全員が手練れのバトオナ族が敵と言うくらいだ、相当強敵だぞ」


 敵襲の叫びが轟く前、ロイズはルトとジネの二人に〈メイオラ闘法〉の修行を見てもらっていた。〈メイオラ闘法〉を扱えるようになったロイズなら勝てるが、それでも苦戦している。二人だけでなくバトオナ族は皆が皆とても強い。既に族長宅へと向かった者達全員を相手にするなど、どんな強者でも自殺行為と変わらない。


「彼女達が束になって負けるとは思えないが我々も加勢に行こう」


「エビル様がいてくれたら心強いのですが……」


「彼を待つ時間はない。彼なら風の秘術で状況を把握しているだろう。決着する頃には集落へ到着するはずだ。……問題ないさ。私が〈メイオラ闘法〉を完全に扱えるようになった今、彼に引けを取らない強さを得たはず」


 現在エビルはクレイアに会いに行っている。

 この地を離れる誘いはもうしないこと、自分達もこの地に残る旨を伝えている。クレイアと話をするのに三人で行く必要がないため彼は一人で行ったのだ。彼の足なら集落へすぐ辿り着くだろうが決着が長引くとは思えない。


 正確な数は不明だが少なく見積もっても五十人以上が一人を包囲している。

 数の利がバトオナ族側にあるし一人一人の戦力も高い。

 戦闘はおそらく、数分で終わる。


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