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【完結】新・風の勇者伝説  作者: 彼方
第二部 三章 善悪の境界線
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族長


 説明を諦めたロイズに代わってリンシャンが一歩前に出る。


「私達、良い人。怪しくない」


「リンシャン、この子達みたいな喋り方になっているよ」


「わざとですよ。彼女達にとってはこの方が聞き取りやすいと思いまして」


 見張りの少女二人は不思議そうな顔を止めて、顔を見合わせてから頷く。

 いったい何の合図だと思っていると彼女達は揃って口を開く。


「「不審」」


 リンシャンは笑みを凍り付かせて後ろに下がる。

 涙を一筋流しながら「ダメでした」と告げた彼女は、ロイズと同じで自分に出来る最大限の努力をしてくれた。責める言葉など誰も吐かない。


 今はどうすれば見張り二人の疑心を払えるかを考える時だ。

 見張りの二人はエビル達を危険人物ではないかと疑っているわけだが、ギルドなどの単語が通じないとなれば説明は難しい。何か疑いを晴らす良案はないか頭を働かせていると、テミス帝国でのミトリアとの会話を思い出す。


 エビルは腰の収納袋から白い封筒を取り出した。

 見張りの少女達は警戒していたようだが無駄だ。中に入っているのはミトリアがバトオナ族の族長へ向けて書いた一通の手紙なのだから。


「君達、ミトリアさんって人を知っている?」


 少女達が頷いて肯定したので話を続ける。


「これはミトリアさんが、君達の族長に渡してほしいって言っていた手紙だよ。可能なら渡してきてほしいんだけど構わないかな? 今すぐとは言わない、暇な時でいいからさ」


「了解。ジネ、行け」

「了解。ジネ、行く」


 ジネと呼ばれた少女が警戒し続けながら白い封筒を受け取る。

 エビル達に背を向けたジネは、集落を守るためだろう壁を跳び越えていった。その驚異的な身体能力にエビル達は驚きを隠せない。木製の壁は高さにして十五メートル。秘術などの特別な力なしの跳躍で越えられる高さではない。


「何だあのジャンプ力は!?」


「まだ子供なのにとんでもない身体能力ですよ!」


「あの子は君の姉妹? 凄いね、十八メートルは跳んだんじゃないかな」


「私達、双子。強さ、普通」


「普通だと……? あれが、普通……?」


 残った少女の言葉にロイズは歯を食いしばる。

 彼女の中で悔しさが膨れ上がる。当然だ、自分より幼い少女に出来ることが自分には出来ないのだから。強さに悩んでいる彼女が受けたショックは大きい。


 身体能力が高ければ高いほど戦闘力は上がる。技術面についてはまだジネ達の実力を見ていないので何とも言えないが、純粋な身体能力だけならロイズの完敗だと断言出来る。


 特殊体質などでない限り、あそこまでの身体能力に鍛え上げるのは相当な努力が必要だ。数年、数十年、筋力トレーニングをするだけの鍛錬では絶対あそこまで辿り着けない。全てを地獄のような鍛錬としなければならない日常を送ってきたはずだ。


「君達はいったい、何をしてそこまでの強さを手に入れた。私だって日々の鍛錬を欠かしていないのに、君達ほどの幼子がなぜそこまで強い?」


「ルイスト、戦闘、日常、自然」


「……ルイスト? 何なのだそれは?」


「何かと戦う日常を送っていたら自然と強くなったってことかな。うーん、言葉が断片的で意図を汲み取るのが難しい。ルイストって、人の名前にも魔物の名前にも聞こえるよね」


 今や魔物の名前、特徴、得意技などは殆ど図鑑に記されている時代。

 ルイストなんて魔物の名前は見たことも聞いたこともないし、リンシャンも「分からないですねー」と呟いている。他の人間と戦って身体能力を向上させていったと捉えるのが普通だろう。


 少し時間が経つとジネが再び壁を跳び越えて戻って来た。

 極端に着地音が小さい。まるで小鳥が下りて来たかのようだ。


「族長、客人、連れて行く」


「私達、案内、役目?」


 双子の片割れが問いかけるとジネが頷く。


「私、名前、ルト」

「私、名前、ジネ」


「「客人、集落、案内。付いてこい」」


 声を揃えて双子が言い放ったのはつまり、客人と認めたので集落を案内するということ。ミトリアからの手紙を渡したのは正解だった。テミス帝国に残っている彼女には本当に感謝してもしきれない。


 ルトとジネと名乗った見張りの少女二人が歩き出したので、エビル達は二人の後に続いて歩く。

 見張りがいなくなって大丈夫なのかという疑問を口にしたら、二人は「問題なし」と不安もなく答える。どういうことかと思っているとまた高い壁を女性が飛び越えてきて、先程まで二人がいた場所に新たな女性二人が立つ。当番を交代したなら確かに問題ない。


 壁沿いに歩いているとやがて大きな門が見えてくる。

 門の前には筋骨隆々の女性が二人。体にはいくつもの傷痕があり、歴戦の戦士らしい雰囲気を漂わせている。門番の二人はエビル達を睨んでいたが、ルトとジネが事情を説明すると敵意などが消えた。


 門番が二人で門を押して開ける時にはギギギギと木が軋む音が響く。

 集落への門が開かれたのでエビル達は足を踏み入れる。


 バトオナ族の家々はこれまでに見たことのない形だ。全ての家が地面から五メートル以上高いところにあり、しわが多い球体の形をしている。細い木柱に支えられて高さを維持している家からは縄梯子(なわばしご)が付いているので、住人はそれを利用して中へと入っていた。偶にだがジャンプで一気に入る人間もいる。入り口が下なので高い跳躍力があれば一気に入るのも苦ではない。


「変わった家だな。ねえルト、家に扉や窓は付いていないの?」


「トビラ、マド? 何?」


「知らないってことは存在しないのか。本当に珍しいな」


 球体の真下に穴を空けただけの民家。扉はともかく、窓がなければ日光が入らないため暗いだろう。何かしらエビルの想像もつかないような解決策がある可能性は高い。


「君達の家は何で作られているの? 柱は木だと思うけど」


「家、材料、オルアプの実の殻」


「オルアプの実の殻……って、家が木の実の殻なんですか!? あんなに大きい木の実があるなんて信じられませんね。あ、でも周りの木が大きいこの大陸だとおかしくないんですかね。そのオルアプの実というのは美味しいんですか?」


「「超、不味い」」


 ルトとジネは酸っぱいものを食べたように口をすぼめて告げた。

 期待していたリンシャンは「不味いんですか……」と肩を落とす。


 それから集落を観察しながら歩いていると、ルトとジネが一軒の家の前で立ち止まった。他の家よりも一層シワが多いように見えるその家に二人が入る。族長の家に向かっていたらしいのでこの家がそうなのだろう。


 少し経つと球体の家からルトとジネが飛び降りて来て、さらにもう一人老婆が縄梯子を使って降りて来た。何回か落ちそうになっていたのでヒヤヒヤしたが無事に降りて安堵した。


「ルト、ジネ、ご苦労。後は自由にしてよいぞ」


 腰まである長い銀髪と褐色の肌、老婆もバトオナ族の特徴を持っている。白い刺青は見当たらないが、着ている毛皮のコートで隠れた場所にでもあるのだろう。頭には他の誰も被っていない鳥の羽の髪飾りを被っている。

 自由にしていいと言われた少女二人は頷き、どこかへ去って行く。


「あー儂がバトオナ族の族長、ゼランじゃ。ミトリアの恩人というのは其方達じゃな? わざわざ遠いところご苦労じゃったな……む? 其方、ビュート!?」


 目を見開いたゼランが叫ぶ名前にエビルは目を丸くする。


「僕はエビル・アグレムと言います。ビュートさんを知っているんですか? あの人はもうとっくに、三百年以上前に亡くなっているのに」


「別段おかしくないじゃろうて。儂、今年で四百八十五歳じゃし」


 エビルとリンシャンは「四百八十五歳!?」と驚愕した。集落へ来てから若干上の空だったロイズも目を丸くして驚いている。

 四百八十五歳など何かの冗談だと思いたい年齢だ。しかしよく考えてみれば死神の末裔や不老のリトゥアールなど、非常に長生きしている者にエビルは会っている。バトオナ族、もしくは族長本人のみが何かしら長生きする術を持っていると考えれば納得もいく。


「……しかし死んだか、せっかく不老になったというのに」


「ええ、殺されたと聞いています。失礼ですがビュートさんとはどういったご関係か訊いてもいいですか? あの人もこの集落に来たことがあるってことですよね?」


 先代勇者、英雄であるビュートの旅をエビルは一部しか知らない。

 憧れの人物が歩んできた道を知りたいと思い興味本位で問いかける。


「ふっ、聞きたいか。儂の初恋の話なんじゃが――」


「おいエビル、そんなことよりも山の秘術使いと会うのを優先すべきだろう。思い出話なら後でいくらでも聞ける。違うか、私は何か間違ったことを言っているか?」


「落ち着いてロイズ、君の考えは正しいよ。うんそっちを優先すべきだね。すみませんゼランさん、ビュートさんの話はまた今度聞きますので、集落にいるという不思議な力を扱える人についてまず聞きたいんです。そちらを教えてくれませんか」


「……ああ、クレイアのことじゃな。彼奴(あやつ)ならもう集落にはおらぬ」


 名前が判明して捜しやすくなるのを喜ぶのも束の間、集落にいないと聞いたエビル達から喜びは瞬時に消え去った。


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