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【完結】新・風の勇者伝説  作者: 彼方
第二部 三章 善悪の境界線
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魔境、ミナライフ大陸


 テミス帝国があったマスライフ大陸から、エビル一行はミナライフ大陸を目指して船で進む。世界地図で見る限りだと一直線に南へ進めば辿り着く。途中でエビルの故郷、アスライフ大陸があるが今の目的に関係ないので通過する。


「ミナライフ大陸……いったい、どんなところなんだろう」


 世界地図に一番巨大な大陸として描かれているミナライフ大陸は、ロイズやリンシャンの話によれば未開の地。詳細不明の大陸。ギルドやいくつかの国が調査員を派遣しているが帰還者は少ない。今までに送られた調査員の数は公式で一万人以上だが、帰還してきたのはその内の一割にも満たない。帰還者は多くがギルドの派遣調査員であり情報も集まっているらしいが殆ど公開されてないという。


 かの大陸は古代からの財宝が眠っているとも噂されている。

 噂につられた冒険者、盗賊や海賊などの賊達、各国の貴族が用意した人員が密かに乗り込んでいる。結果彼ら彼女らは全滅しているというのが世界中の国の考えだ。実際に大陸へ足を踏み入れる輩を発見したが変える姿を見なかったケースがあるのである。


 長年かけて調査した結果分かった事実は一つ。

 巨大な植物、新種と思われる動物が多く生息していること。


「ミトリア様の故郷があるんですよね? あの大陸に人が住んでいたなんて話は聞いたことがありませんでした。なぜギルドは集めた情報を公開しないのでしょうか? ま、まさか……財宝の噂が真実で、財宝を占有しようとしているとか」


「ギルドマスターに直接訊かなければ分からないだろう。あの掴み所のない女性が素直に話すとは思えないがな。とにかく今分かっているのは危険な地だということだ。気を引き締めていかないと死ぬかもしれないぞ」


「こ、怖いこと言わないでくださいよロイズ様」


 調査のために派遣した人員が皆、帰った後に告げる言葉は同じ。

 ミナライフ大陸のことを『人が生き残れる場所ではない』と評している。


「……む、何だ?」


 船での移動中にロイズが海面を見つめながら呟く。


「どうしたの?」


「今、海中を大きな影が動いていたんだ」


 エビルは風の秘術で探ってみたが海中となると探りづらい。

 多くの魚が泳いでいるのは感じ取れるがそれ以外分からない。


「海なんだし魚じゃないかな。本で見たけど、海には大型船よりも大きな魚がいるらしいしさ」


「いえ、魔物かもしれませんよ。海にだって魔物はいますから」


「どちらにせよ急いだ方が良さそうだぞ。もうミナライフ大陸が見え始めた。ここから先は生存率十パーセント未満の魔境なのだからな。海に見たことがない怪物がいても不思議はない」


「なるほど……あ、どうやら海中の魚が海から跳ぶみたいだよ」


 風の秘術で魚の動きはだいたい感じ取れるため、今から大ジャンプしようとしている魚がいるのも分かる。

 方向はエビル達の正面。体長は船と同等以上の二十五メートル弱。

 リンシャンが「お魚が跳ねるところ見たいですねー」と落下防止用の柵に近付いた時、海から彼女の予想以上に大きな魚が激しい水飛沫を上げながら出てきた。その魚は船のマストより高く跳び、大口を開けて船へと落ちてくる。


「きゃあああああああああ!? た、食べられちゃいますうう!」


「なっ、何だあの大きさは!? 落ちてきたら船が大破するぞ!」


 丸みを帯びた紫の鱗に覆われた巨体。

 顔の左右にある四つの目。横に広い口には全方向から生えた鋭い牙。

 背から伸びているヒレらしきものは槍のように尖っている。


 今まで本ですら見たことがない巨大魚は食欲でエビル達を食べようとしていた。一切の悪意なく、日々の空腹を満たすためだけの行為。生きるためには必要な行為だろうが捕食対象側にとっては迷惑にしかならない。


「任せて!」


 上空の魚へとエビルが手を向けて、風を操作する。

 辺り一帯の風を集めて高速回転させてから放てば〈竜巻(トルネード)〉の完成だ。

 自然災害の力を再現したうえで、範囲を巨大魚サイズに圧縮して放つ。風の奔流に呑まれた巨大魚は船とは逆方向に飛ばされ、回転しながら遠くの海面へと落下した。


 巨大魚落下の衝撃で大きな波が生まれたが離れているので問題ない。落下地点が近ければ船は転覆したかもしれないが、遠いので波に揺さぶられる程度に留まる。


 レッドガーディアン戦を乗り越えたことで風の操作技術は向上している。秘術を利用した技を今までよりも速く出せるようになっているのだ。広範囲から風を集めなければいけない大技も、今までなら十秒以上掛かっていたのだが繰り出すのに一、二秒しか掛からない。さすがに〈死嵐斬〉など国中から風を集める奥義は三十秒ほど掛かるが大きな進歩だ。


「び、びっくりしました……」


「今までに派遣された調査員が多数帰らなかったのは納得だな。大陸に近付いただけであんな怪魚に襲われるんだ、命がいくつあっても足りない。ギルドからの派遣調査員はよく帰ってこれたものだ」


「もうロイズ様ったら、さすがにあんなに大きな魚はもういないですよ」


 柵から顔を出して海を覗いたリンシャンの顔が青ざめていく。

 エビルとロイズも覗いてみると、先程の巨大魚と同等の影がいくつも海を移動しているのを見た。同じ種類か分からないが可能性は高い。一匹だけしかいないという甘い考えは早くも打ち砕かれる。


「……わー、いっぱいいますねー」


「はぁ、船ごと食われないことを祈るしかないな」


「念のため急ごうか。もっと風を吹かせておくよ」


 エビル達が乗っている船は帆船なので帆で風を受けて進む。

 秘術で風を操作すれば自由自在に進むことが出来る、エビルにぴったりの船。相性のいい船だということもあって強風で一気に加速して、目的地のミナライフ大陸へと一直線に進んだ。



 * * *



 山の秘術使いがいるというバトオナ族の集落のあるミナライフ大陸。

 未だ謎の多いそこへ上陸したエビル達三人は全員が驚愕していた。


 大陸へある程度近付いた時には緑が多い場所だと思った。しかし、近付いていくにつれて異常に気付く。木が多いのは見えていたが巨大すぎるのである。これまで訪れた町中や森に生えていた木と比べて数十倍といったところだろう。


「こ、これは……」

「気のせいだと思っていたが……」

「すっごくおっきいですね……木」


 以前リンシャンが秘術で育てていた大木もあるが、あれは人の特殊な力によって成長したもの。過去に林の秘術使いが関与していない限り、自然に八十メートル以上もの木に成長したことになる。


「いったい樹齢何年の木だというのだ」


「本当にここがミナライフ大陸なんですよね?」


「たぶんね。でも、何だこの感じ……」


 エビルは上陸してから秘術で異様な空気を感じ取っていた。

 神聖な空気に混じる邪悪。一言で表すならば非常に気持ち悪い。

 リンシャンが「大丈夫ですか?」と問いかけてきたので、笑みを浮かべながら「大丈夫だよ」と告げる。実際動きが鈍るような気持ち悪さではないので行動に支障はない。


「まずはバトオナ族の集落を目指そうか」



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