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【完結】新・風の勇者伝説  作者: 彼方
第二部 三章 善悪の境界線
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何も守れなかった計画


 胸部に風穴が空いたイストはレッドガーディアンに放り投げられた。

 致命傷だ。彼はもう十秒も経たないうちに死ぬ。

 兄を想う弟の最期にエビル達は愕然とする。先程まで強い怒りを抱いていたロイズとミトリアも怒りの矛先を失い、感情の整理がつかない状態になっている。


「二人共、戦う準備は出来ているよね」


 エビルが感じ取ったレッドガーディアンの思考は至ってシンプル。

 生体兵器の本能として備えられている敵の殲滅を行いたかったのだ。イストを殺したのは憎しみや怒りではなくただの本能。傍に生物がいる状況はレッドガーディアンにとって最高の状況であり、殺せることに幸福を感じている。


 イストの名前を呼んでいたのに理由はなかった。

 無意識に口から出た言葉というのが近い。心のどこかにウェストの意思が雀の涙ほどでも残っていたのか、よく聞いていた言葉を覚えただけなのか。それは思考を感じ取っても分からない。


「討伐だな」

「うん。ミトリアさんもそれでいいですよね」

「……ああ。あれがウェストでないなら殺した方がいい」


 意見は一致。エビル達三人は各々の武器を構える。

 意味もなく「い、すと」と呟くレッドガーディアンが突進してきた。


 両手での攻撃をエビルとロイズが躱し、ミトリアが改造スナイパーライフルの弾を額へと撃ち込む。風船のように膨らんでいる赤い頭部は狙いやすいし、頭部といえば人間の弱点だ。生体兵器の弱点が人間と同じかは置いておきダメージを与えたのは間違いない。弾の直撃によりレッドガーディアンは後ろに何度も転がる。


 今までのブルーパープルやグレーゾーンならこれで倒せていた。……が、さすが成功作に一番近いと言われただけはあり、レッドガーディアンは少量の黒い血を流しただけの軽傷。平然と起き上がって周囲を見渡すと再び駆けてくる。


「硬すぎる……!」

「ミトリアさんは下がって援護をお願いします! 隙があったらまた銃撃を!」


 向かってきたレッドガーディアンは両腕を振るって攻撃してきた。

 接近戦はエビルとロイズの担当だ。剣と槍で応戦するが相変わらずの硬さでダメージは微々たるもの。このままでは埒が明かないと考えさせられるなか、ロイズが普段とは違う構えをとる。


 普段は両手でしっかりと持ち、突き出すのが彼女の戦い方。

 非常に強い筋力を活かすのに最適な構えであったと言える。

 しかし今、彼女がとった構えは全くの別物。槍を片手で持ちつつ限界まで後ろに引き、腰を深く落とす異様な構えだ。一見エビルの〈疾風迅雷〉のようにも見えるが剣と槍では扱い方が大きく違う。例え似た構えをとったとしても技に昇華するとは思えない。


「あまり使いたくないが切り札を使わせてもらうぞ」


 風の秘術を使えるエビルだから分かるが彼女の槍に異変が起きた。

 槍の穂先に力強いエネルギーが流れているのだ。出所は彼女自身。正体は生命エネルギー。もしも調節を間違えれば体力を使い果たすし、酷ければそのまま死ぬ。扱いが難しいからこそ諸刃の剣。文字通り命を削っての攻撃だと悟る。


「〈晦日月(みそかづき)〉!」


 彼女が放ったのは横に一回転してからの突き。

 遠心力と生命エネルギーが加わった槍の一撃は、レッドガーディアンの胸部に命中して突き飛ばす。途轍もない威力だったので壁に激突して亀裂が入った。今までの彼女の一撃で一番強烈だったのは間違いない。


 強烈だが……危険だ。

 生命エネルギーとは命そのもの。時間と共に回復なんてせず、削ったものは戻ってこない。使用すれば使用するほど寿命が縮む。リンシャンでも回復出来ないそれを使えば確かに強力だが、推奨出来ない攻撃方法だ。


「ロイズ、その技……あんまり使わない方がいいよ」


「気付いたのか。忠告はありがたいが私も分かっているさ。この〈晦日月〉は命を消費するが強力な技。師が教えてくれた切り札。欠点を理解しているからこそ今まで使わなかったが、奴は強い。今の私の力では奴に通用する攻撃がこれしかないんだ」


「……そっか」


 彼女の内側から強い焦燥をエビルは感じている。

 今も、戦闘前も、ギルドへ辿り着く前からずっと心にある焦り。

 消えたと思っても奥底にこびりついているそれはきっと、自分の強さに自信を持つまで消えない感情だ。アギス港で七魔将に敗北してから彼女は自信を失っている。今まで戦闘中に焦りが強く出ることはなかったのだが理由は単純、格上の敵と戦っていなかったからにすぎない。


 彼女は命に代えても復讐を果たすつもりでいる。

 今のままサイデモン・キルシュタインと戦えば自滅しかねない。

 仮に復讐が果たせて彼女が満足でも周囲の者は悲しむだろう。


 エビルは彼女にあまり〈晦日月〉を使ってほしくない。それでも止めろと強く言えないのは優しさや勇気が足りないからではなく理由がある。特殊な武器も神性エネルギーも持たない普通の人間が七魔将と戦うなら、命を消費してでも頼らざるをえない時が訪れると分かっているからだ。もっともそれは最終手段としてなので今は使う場面ではない。


「……まずいな。この部屋、戦闘に耐えられる造りになっていないぞ。このまま戦い続ければ部屋が崩れてしまう」


 白い壁に奔った亀裂を見つめてミトリアが告げる。

 一般の建物よりは丈夫だがこの部屋はイストの自室。戦闘を行う想定はされていないからか激しく戦えばやがて限界を迎える。仮に壁が崩れれば上階も崩落する連鎖が起きてしまう。


「仕方ない、移動しましょう。〈風檻(かぜおり)〉」


 エビルはレッドガーディアンへと手を向けて空気を操作する。

 空気をレッドガーディアンの周囲で高速回転させることで風を生み出し、簡易的な球体の檻を作り上げた。床が傷付くのを防ぐために秘術の力で〈風檻〉を宙へ浮かす。


「これは……風で牢を作ったのか?」


「正解だよロイズ。さ、この状態で外まで運ぼう」


 研究所内で戦いを続ければまた破壊してしまう恐れがある。一番何も気にせず戦える場所といえばやはり、町の外にある荒野だ。幸い研究所には失敗作とされた生体兵器の廃棄用通路があるため、そこから外へ連れて行こうと考えた。


 レッドガーディアンは〈風檻〉を破ろうと両手で何度も殴っている。あくまでも簡易的な檻なので強度は脆いため、攻撃されないように檻を小さくした。狭くなった檻の中で満足に動けなくなってもレッドガーディアンは脱出しようともがいている。


 念のため急いだ方がいいと判断したエビル達は走り出す。

 イストの自室から出て研究所内を運び途中、通路にいる研究者達が道を塞ぐ。


「ま、待て君達! 止まれ!」

「うわっ、何だその赤い生き物は!」


 見つかった以上説明しなければ混乱を招く。

 全て丁寧に説明している暇はないので、生体兵器の失敗作を見つけたから駆除したい旨を伝える。戸惑っていた研究者達は納得してくれたようで落ち着きを取り戻す。


「道を空けてください。戦うために外へ行きたいんです」


「もし研究所内で戦えば全員生き埋めになるかもしれないぞ」


「分かった。廃棄用通路は地下二十階の入口側にあるからそっちに行ってくれ。最初の曲がり角に貼り紙があるから分かるはずだ。駆除は頼む!」


 道を空けてくれた研究者達の横を通り抜けてエビル達は走る。

 現在は地下三十七階。廃棄用通路がある地下二十階までエレベーターに乗れれば楽なのだが、さすがに乗る勇気はない。もしエレベーター内で〈風檻〉が破壊されて、レッドガーディアンが暴れたらエレベーターが故障してしまう。そうなった場合進路も退路も断たれるのでハイリスク。エレベーターより少し遅れてでも階段を使った方が安全だ。


 階を上がっていくごとに研究者に出会うが何度も説明するのは手間だ。

 詳しいことは下にいる研究者へ聞くように言って強引に突破していく。


 ようやく地下二十階の手前、地下二十一階に辿り着いた時エビルは唐突に立ち止まる。急なエネルギーの流れを感じて振り向くと、レッドガーディアンが口を開けたまま大人しくしていた。さっきまでもがき続けていたのに大人しいのは非常に不気味である。


「どうしたエビル。早く外へ行くぞ」


「待てロイズ。レッドガーディアンが静かすぎる……何なんだ?」


「……まさか。離れて二人共! 攻撃だ!」


 妙なエネルギーがどんどん喉の辺りに集まっていることで気付く。

 ――レッドガーディアンの口から赤い光線が放たれた。



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