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【完結】新・風の勇者伝説  作者: 彼方
第二部 三章 善悪の境界線
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テミス帝国への道のり


 キャラベル船で海を越えてギルド本部北東、マスライフ大陸へとエビル達は向かう。操舵手の知識頼りでテミス帝国領内の港へと船をつけ、新大陸へとついに上陸した。


 辺り一面が荒野となっているが、遠くに高い建造物の集まりが見えた。ミヤマから貰った事前情報によればテミス帝国は科学の国と言われており、荒野の中心に造られているという。情報通りなら遠くに見える町は間違いなく目的地だろう。


「テミス帝国、か……」


 エビルにとってその国名は魔信教の科学者を思い出させる。

 クローン生成技術を用いて死者を冒涜した狂人。国民全員があれと同じとは思わないが良いイメージが湧かない。実際に行けば印象はガラリと変わるかもしれないが。


「何だか想像と違いますね。もっと自然豊かな土地だと思っていました」


「噂によれば昔は自然豊かな土地だったが、森林を伐採した結果今では荒野だけになったとか。前々から黒い噂は絶えないものの技術力は世界一と言われている。あの国へ行った商人は初日で虜になり、もうどこにも行きたくなくなるとか」


「そんなに楽しい国なんですか!? きっと美味しい物も沢山あるんでしょうねえ。他国へ行くのは初めてですし興奮しっぱなしです。楽しみですねロイズ様、エビル様!」


「うん、どんな国なんだろうね。科学の国っていうのは」


 エビル達は荒野を歩いてテミス帝国へと向かう。

 照りつける太陽は辺り一面の気温を上げている。荒野なので水を補給出来る場所もなく、手持ちの飲料を節約して飲まなければならない。砂漠よりはマシな環境だがリンシャンには辛いようで、歩いては休憩するのを繰り返す。彼女は「すみません」と謝るがエビル達は気にしない。


「そういえば、ミトリア様とはどのような御方なのでしょう?」


 今回手伝うよう言われたのはギルドAランク所属、ミトリアが受けた依頼。

 ミヤマから合流するようにと指示を受けたため容姿は聞いている。


「褐色肌の女性で、スナイパーライフルって武器を扱う実力者らしいよ。受けた依頼は全て達成しているし、テミス帝国からの依頼をいつも受けているらしい」


「つまり、今回の依頼はいつもより難しいから応援を求めたわけか。いったいどのような魔物討伐依頼なのだ? 情報くらい貰っているのだろう?」


「……いや、何でも極秘情報らしくてね。ギルドに直接は情報が送られず、ミトリアさん本人に伝えられているんだってさ。だから魔物の情報はミトリアさんに訊かないと」


 シートを敷いて休憩中、リンシャンが「あの!」と叫ぶ。

 どうしたのか聞くまでもない。エビルとロイズは武器を手に持ち立ち上がる。

 荒野はほぼ平面なため魔物に見つかりやすい。今、後ろから魔物が奇襲を狙っていることをリンシャンは伝えたいのだ。気配を察知しているので忠告は必要ないが彼女の気持ちはありがたい。


「魔物が!」


 殺気と共に襲って来た二体の魔物を、振り向き様に両断して命を絶つ。

 牙の長い獣の魔物であり、よく見てみると木の根が体に絡みついていた。もしエビル達が間に合わなくてもリンシャンの秘術で奇襲は防げただろう。その気になれば木の根で絞め殺すことすら可能なので、逆にエビル達が余計な手を出したのかもしれない。


「ありがとうリンシャン、魔物の接近を教えてくれて」

「助かったぞ」

「……いえ、忠告しなくてもお二人は全然大丈夫そうでしたね」


 正直に言ってしまえば忠告なしでも容易に対処出来た。

 わざわざ口にするつもりはないがエビルは風の秘術でおおよそのことは分かる。魔物の接近にも一早く気付いたし、対処もバッチリなタイミングに調節した。ロイズだって敏感に気配を感じて対処してみせている。


「あまり長時間の休憩は出来ない。先を急ごう」


「待てエビル。あれを見ろ、新手の魔物だ」


 当然感じ取っていたエビルはロイズの指す方向を向く。

 紫と青の絵の具を混ぜているかのような色の、人型の魔物だ。両手両足の大きさが全て違い、頭は横長で異様に大きい。顔は右目が充血して見開かれており、半開きの口からは涎が垂れている。


 視界に映る不気味な魔物はエビルの知識にない。

 ただ、異質に感じた。通常の魔物とはどこかが違う。


「何だあれは……見たことがない種類だな」


「ちょっと気持ち悪いですよあの魔物!」


 不気味な人型の魔物から怒りを感じる。

 魔物にも感情はある。しかし大抵は獲物を中々捕食出来ない時や、攻撃を受けた時だ。目前の魔物はそれと違い、リンシャンの発言で怒りを抱いた。つまり言葉が通じている可能性が高い。


「襲って来るのなら何だろうと返り討ちにするまでだ!」

「……うん。速やかに倒そう」


 魔物がエビル達へ走り出した時、聞き慣れない音が聞こえた。

 ブウウウウウンという音にロイズ達も反応する。


 ――そんな時、荒野に銃声が響く。


 高速で飛来した銃弾が魔物の頭に直撃し、頭を爆散させた。とんでもない高威力を目の当たりにしたエビル達は驚愕する。


 銃撃した張本人は、先程の聞き慣れない音を鳴らす物体に跨ってやって来た。その物体は二輪の機械であり、高速で動く乗り物だ。

 音と移動を止めた乗り物から銀髪褐色肌の女性が地面へ降りる。


「大丈夫か? 手助けはいらなそうだったがすまないな、手を出してしまった」


「いや、礼を言う。加勢してくれてありがとう」


「助かりました。ロイズ様と同じく感謝します」


「あの、もしかしてあなたはギルドのAランク所属、ミトリアさんじゃありませんか?」


 肩まで伸びた銀髪、褐色肌、目元に白い刺青(いれずみ)。服装は体に密着してボディーラインを際立たせる黒スーツ。ミヤマから聞いた容姿や服装と女性は似ている。背中に担ぐ黒い筒がスナイパーライフルだとするなら、今回の依頼で協力するミトリアに間違いない。


「そうだが、私を知っているのか?」


「申し遅れました。僕はエビル、こっちはロイズとリンシャン。僕達はギルドマスターのミヤマさんから頼まれて応援に来ました。あなたが受けた魔物討伐依頼、僕達も手伝います」


「そうか、増援に来てくれた者だったのか。聞いているようだが我が名はミトリア、姓はない。立ち話は疲れるし荒野にいては魔物に襲われ続ける。一先ず帝国内へ向かわないか?」


「はい、そうしましょう」


 エビル達はミトリアと共にテミス帝国へと向かう。

 その間、不気味な人型の魔物のことがエビルの頭から離れなかった。


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