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【完結】新・風の勇者伝説  作者: 彼方
第二部 二章 癒しの巫女
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敵対


 エビル・アグレムは考えていた。

 なぜマネンコッタはメイジョ協会に協力しているのか。

 考え出す要因になったのは先程、とある者達の会話を聞いてしまったからだ。意図せず盗み聞きのようになってしまったが聞いて正解だったかもしれない。


 話していたのはマネンコッタと癒しの巫女リンシャン、そしてメイジョ協会会長のアドポギーニという肥満体型の男。


 会話内容から判明した大きな事実は三つ。

 マネンコッタとリンシャンが実の兄妹。

 マネンコッタがメイジョ協会に肩入れしている。

 メイジョ協会がギルドに対して戦争を仕掛けようとしている。


「……戦争は止めないと」


 ハッキリしたのはこのまま静観出来ない事態だということだ。

 戦争は多くの血と涙が流れ、命が失われる。国同士の戦争を実際に経験したわけではないエビルでも分かることだ。魔信教との戦いも一種の戦争と考えられるし想像は容易い。


 宿屋まで戻って来たエビルは宿泊している部屋へ入り、ロイズへと伝える。

 全てを聞いた彼女は強い怒りを抱きながら「そうか」と呟いた。そして、槍の穂先の真逆に位置している石突(いしづき)と呼ばれる部分で床を突いた。


「やたら金を集めている印象があったのは戦争に使うためだったというわけだ。野望を知ったからには休んでいられない。これからどうする? 国のトップ、聖王に謁見して真実を話してみるか?」


「旅人がいきなりメイジョ協会は戦争を企んでいると言っても、信じてくれないだろうね。もっと聖王様が信頼している人物……例えば、癒しの巫女からの提言なら可能性があるかも。そのためにはやっぱり……」


「彼女を救い出す必要がある。つまり、殴り込みだな」


 エビルは静かに頷く。

 殴り込みと言うと野蛮に聞こえるので潜入と言い換えてもいい。なるべく侵入がバレないように行動したいが、バレても少しの時間なら問題なし。今回の目的は協会の殲滅ではなく、リンシャンの救出及び王城へ向かうまでの保護。会って作戦を説明すれば戦争を止めたい彼女は協力してくれるはずだ。


「それにしても、やはりあの男はあの時に殺しておくべきだったか」


「……マネンコッタさんのこと?」


「他に誰がいる。あの男がイフサを売ったのは協会と繋がっていたからに違いない。他人を陥れてまで己の利益しか考えない人間など百害あって一利なし。どうせ奴とは戦う羽目になりそうだし、その時は私が引導を渡してやる」


「それはダメだ。僕は殺さずに無力化したい」


 意見を述べるとロイズは眉間にシワを寄せ、すぐに戻す。

 無血開城なんて夢を語るつもりはエビルにない。ただマネンコッタという男を状況判断だけで殺してはいけない気がするのだ。少なくとも彼を兄として愛するリンシャンが悲しむ。


「……エビル、君の信念を侮辱するつもりはないが私には分からないんだ。君はなぜ奴を庇う? 勇者として魔王を倒した君は、悪に染まった者達を殺してきたんじゃないのか? 君が殺した悪人と奴でいったい何が違う」


 ロイズの問いに対してエビルは答えを探す。

 善悪の線引きは誰にでもあり個人によって違う。


 エビルは善悪問わず基本的に殺人が、誰かの死を見るのが嫌いだ。風の秘術で感情を感じ取れるようになってからは増々嫌った。生物は死の間際、膨大な量の感情を抱いて死んでいく。風の秘術使いとして感じられる死に際の強すぎる感情の波は好きになれない。慣れない復讐で殺した時でさえ爽快感や解放感がまるでない。


 一線を超える瞬間が嫌いだから殺しは避けた。今までも数えられる程度にしか殺していない。あの魔信教討伐を目的の一つとしていた旅で、その程度しか殺人を経験していないのは奇跡に近い。そして逆に、殺してしまったのは本当に救えない者達だった。


 殺すしか選択肢のない輩とマネンコッタは違う。

 彼はイフサを売った後に罪悪感を抱いていた。何かしらの理由があって行動した結果、イフサを売るのに繋がったのだろう。金を求めるのも何か訳あってだとエビルは思っている。


「強いて言うなら感情かな。……マネンコッタさんは悪い人じゃない、感じ取れる感情からもそう思える。協会に協力しているのも理由あってのことだと思う」


「その理由は見当がつかないのだろう?」


「うん。でも、知らないから知りたいんだ。もっとマネンコッタさんのことを」


 分からないから諦めるのではない。分からないから知ろうとするのだ。

 今回の一件が終われば話す機会もあるはずだ。最優先事項はリンシャン救出なので後回しにするが、全て終わって聖国を離れるまでには必ず会話を行うと決めた。


「……そうか、ならば私もその理由とやらを聞きたいものだ。納得出来なければ殺すが、納得出来れば見逃そう。……さて、いつ向かう?」


「当然、今すぐ」


 エビル達は戦士。いつ戦闘になってもいいよう準備も覚悟も終わっている。

 今回の場合、時間を空けるのは悪手だ。リンシャンが勇気を出して立ち向かえる人物なら、再び策を立てて行動を起こす可能性がある。それでまた捕まったら監視などに割かれる人数が増える。時間が過ぎるとどんどんガードが堅くなるかもしれないのだ。

 状況の悪化を防ぐべくエビル達は早々にメイジョ協会へと出発する。




 * * *




 メイジョ協会の目的を知ったエビル達は協会入口へと近付く。

 大樹が天井を突き破っている高層の建物。入口付近には白い隊服を纏っている男が二人立っていて守りは万全。そんな場所へエビル達は堂々と歩いて行く。


「そこの二人、止まれ」


 ガラス製の扉まであと約十五メートルといったところで呼び止められる。


「悪いが会長からの命令でな、今日からは念入りに客を調べろと言われているんだ。入る際は武器や殺傷能力のある道具を預からせてもらう」


 ロイズが「おい、どうする?」とエビルに耳打ちする。

 一般開放されている一階へ入るのには強行突破する必要もなく、堂々と客として侵入すればいいと思っていた。しかし武器がなくては戦闘になった時に不利どころではない。リンシャンには監視が付いていると思われるので戦闘は避けられない。どうしたものかとエビルは悩む。


「――そいつらは敵だ。捕らえろ」


 入口のガラス製扉が開き、外へ出て来た男がそう言い放った。

 男は女と見間違うほど長い緑髪。二本の刀を腰に差しており、鋭くエビル達を睨んでいる。


「……マネンコッタさん」


 男の正体は旅で短期間仲間であった傭兵、マネンコッタ。

 彼の言葉に困惑していた兵士らしき男二人は剣を鞘から抜く。彼への信頼が足りないらしいが無視するわけにもいかないらしい。奥底から敵意を捻り出して襲い掛かって来た。


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