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【完結】新・風の勇者伝説  作者: 彼方
終章 三百年以上の因縁
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因縁の対決


 視界から敵がいなくなると同時にエビルは両目を閉じて感覚を研ぎ澄ます。

 これまでの戦闘経験、風の秘術を利用した独自の感覚は凄まじい。場所が場所なら地面を這う虫の動きさえ感じ取れる。影へ潜伏した相手の動きは追いづらいが、影から出た瞬間どこにいても察知可能である。


(上……!)


 真上から物体が出現するのを察知。天井を見上げれば一本の剣が落ちて来た。

 黒傷剣(こくしょうけん)ではない、模造品の黒剣だ。

 落下速度を足した射出速度はエビルの刺殺が十分可能。

 影から出現してすぐ気付いたので〈暴風剣(テンペストブレイド)〉状態の剣を振るって弾く。


「真面目に受けるのは想像してたぜ」


 真上からの攻撃を弾いた直後、真下の影からシャドウが飛び出て来た。

 突きの体勢のまま進んで来たのでバッグステップで距離を取る。予め危険がその方向から来ると感じ取っていたからこそスムーズに回避行動が取れる。もし風の秘術がなければ反応が遅れて刺されただろう。


「どこへ逃げても無駄だぜ。〈影の茨〉アアアァ!」


(全方位から!?)


 紫光を放つ水晶以外は影となったこの部屋はシャドウのテリトリー。

 壁、床、天井の影から棘が伸びてエビルを襲う。僅かにでも時間差で伸びるなら剣一本で防げるかもしれないが、同時に百を超える数の棘が伸びてきたら到底防げない。棘一本でも受けてしまえば体に穴が空いて動きは多少鈍る。


 絶対まともにくらってはいけない攻撃が百以上。剣で対処出来ないのなら、エビルに残された防御手段は風の秘術のみ。全身に高速回転する風を纏う防御技〈風鎧(ゲイルアーマー)〉を使用することで〈影の茨〉を防いだ。影で生成された棘はどれも先端がへし折れては消滅していく。

 傷一つ与えられない結果が不服だったのかシャドウの舌打ちが聞こえた。


 彼は次の攻撃手段を素早く思考しているはずだ。影の魔術は応用性がかなり高いので後手に回るのは危険。エビルの方から積極的に攻めていかなければ劣勢のまま進んでしまう。

 攻撃の重要性を悟り体勢を変える。腰を深く落とし、剣を彼目掛けて構える。


「……〈真・疾風迅雷〉か」


「分かるのか、さすがだな」


「何度も見たら構えくらい覚える。くくっ、確かにその技は強力だが、お前の得意とするその技には致命的な弱点がある。特に俺からしたら容易に対処可能なしょぼい技だぜ」


「へぇ、なら……防いでみなよ。最高速の刺突を」


 空気の塊を背中に密着させ、右足で力強く床を踏み込む。

 あまりの力の入れように床は踏み砕かれた。同時にエビルが前方へ進み、背中にある空気の塊を爆発させることによって追い風で加速。邪悪な笑みを浮かべるシャドウへ向けて剣を突き出す。


 ――瞬間。危険を真横から感じ取った。


 三本の黒剣が壁から射出されており既に間合いに侵入している。

 シャドウを目前としているが仕方なく技を中断、三本の黒剣を紙一重で弾く。しかし攻撃は終わっていなかった。シャドウが急接近して黒傷剣で連撃を放って来る。


 弱点と言われて自分ではそんなものないと思っていたエビルは気付く。

 盲点だ、最初から想定していなかったゆえに弱点が出来てしまった。


 元々〈真・疾風迅雷〉は〈疾風迅雷〉と同じく単体相手への使用を想定している。誰にも防げない程の速度で攻撃すればいいという発想でアレンジした技だ。超高速の刺突を放つ途中、第三者に横やりを入れられる展開など考えてもいない。つまり弱点とは使用中に標的以外から攻撃されることだ。尤もこんな真似を個人でやれるのはシャドウしか知らない。


「分かったか? その技は敵一人の時にしか使えない欠陥技だってことが。俺のように遠隔攻撃手段を持つ相手には通用すらしねえ」


 連撃を辛うじて防いだが直後に蹴りを喰らってしまった。

 動きが鈍る程ではないが手痛いダメージだ。塵も積もれば山となる、ダメージが積み重なれば体の動きも悪くなっていく。一層攻撃を喰らわないよう注意しなければならない。


「さて、そしてもう一つ。お前自身の弱点を教えてやる」


「僕自身の?」


「まあお前自身ってか誰でもそうなんだが、勝つ方法ってのは二通りしかない。一つは単純な強さで叩きのめす。ただ認めたくねえが真っ向から戦っても俺じゃ無理だ、勝ち目はねえ。二つ目は――」


 攻撃の予兆を感じ取ったので真横から飛来した黒剣を弾く……が、弾いた後に次が飛んで来て、さらに弾けば次が来る。連続で飛来する黒剣が止まらない。


「二つ目は手数の多さだ。いくら攻撃の気配を感じ取れても対処出来る数には限度がある。個人でやる必要はない、お仲間と協力してもいい。だが俺一人でも今ならやれる。この部屋全面に影を伸ばした時点で俺の勝利は確定していたんだよ。無限に放射される剣に斬り刻まれろ! 〈飛連黒剣(ひれんこくけん)〉!」


 弾いても、弾いても、次々と押し寄せる黒剣。

 研ぎ澄ました感覚で射出された順番通り捕捉し的確に防ぐ。

 一秒あたり数十本レベルで飛来するので休む暇がない。防ぎ続けていると次第に疲労で動きが鈍り、三回は黒剣が掠ってしまった。


 今回は大丈夫だったがもし毒が塗られた武器使いを相手にしていたら……そう思うと、自分が負ける可能性は十分ありえるのだと思い知らされる。特訓後は無人機械竜にも余裕を持って対応出来ていた、敗北のイメージが湧かなかった。

 今、消えたはずのイメージが脳裏に過ぎる。


「僕はもう、負けない! 〈全方位への風撃(ダウンバースト)〉オオオ!」


 エビルを避けるように風が降りて、真下へ叩きつけられた強風が全方位へと広がっていく。強すぎる風は全ての黒剣を吹き飛ばし、シャドウをも壁に叩きつける。

 黒剣は全て塵と化して消えた。エビルはあの包囲網を無効化出来たのだ。


「くそっ、まさかここまでやれるとは……想像以上に厄介だぜお前。だがその大技は体にかなり負担が掛かるだろ。連発はキツイし、そう何度も使えねえはずだよなあ?」


「ふ、それはそっちも同じだろ」


 シャドウは「あ?」と嫌そうな表情を浮かべる。

 無限に黒剣を撃ち出す技を使用している間、彼から疲労の風が吹いていた。最初の内は大したことがなくてもレプリカを生み出す作業はやはり疲れるのだ。ましてやそこに撃ち出す動作も加わるため疲れやすいだろう。常に走っているのと何ら変わらないと思われる。


「……はっ、バレバレかよ。そう、今の〈飛連黒剣〉はレプリカを生成しては射出の繰り返しだからな、そりゃあ結構疲れるさ。まさかこれでケリを着けられねえとは思わなかったからな、絶賛ピンチ中だぜ」


「それは嘘だろ。まだ何か、とっておきがあるな」


「別にとっておきってわけじゃねえが確かにまだ使ってねえよ。影の魔術ってのは応用が利くからな、色々出来ることがある。さーて、どう対処するか見物だぜ」


 侵食されて黒くなった床から影が伸びていき、シャドウの傍で人型に変化する。

 黒い体、手に持つ黒剣。それらはまるで彼本人と大差ない姿になった。剣の次は自身のレプリカを作り上げたのだと理解する。


「〈影分身〉……さあ、今度は人数差だ。どうする?」


「全員纏めて倒してやるさ」


 目前にいるのは四人のシャドウ。

 実力は不明だがやるしかない。敵四人と同時にエビルは駆け出した。


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