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【完結】新・風の勇者伝説  作者: 彼方
終章 三百年以上の因縁
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量産


 どうするべきか迷うセイムに対して、イレイザー達の手から数十の熱線が放射された。

 高熱の鮮やかな赤い閃光が一か所へ集中する。生身で受ければ死神の末裔といえど体は穴だらけ、臓器に穴が空きまくって数秒で死にゆくだろう。

 ――だからセイムは吹き飛ばせなかった二人を盾にして生き延びた。


 盾となった二人は貫通せずともかなり抉れている。熱線を放つために熱耐性が高い体のはずだが、ああも大量の熱線を浴びてしまえばさすがに溶けてしまうらしい。熱された二人を雑に捨てると、セイムは大鎌を振りかぶって近くの個体へと駆ける。


 体を斜めに切断して、さらに近くの個体へ疾走して斜めに切断。

 それを流れ作業のように繰り返すことであっという間にほとんどのイレイザーを破壊した。


「ふう、さて、これで終わりかね」


 真上から降って来た個体を大鎌で貫いて床に叩きつける。

 正真正銘、部屋にいた最後の一人も破壊した。後はガクガンを追うのみ。


 このままエビル達の加勢に行くことも考えて階段を一瞥したが、首を横に振って別の部屋に行くための通路を見据える。やはり狡猾な科学者ガクガンを放置出来ない。個人的な怒りもあるし、後になって後ろから襲われるのを防ぐという考えもある。今はガクガン抹殺がセイムにとっての最優先だ。


 魔王城二階の構造すら知らないセイムは闇雲に捜す。

 いくつもの部屋が存在し、中を確認しては誰もいないの繰り返し。


 何かの資料が散らばっている部屋もあり、それを拾い見てみると内容は改造手術についてだった。生死関係なく人間を機械化した実験データが記されている。

 あまりに非道であり、口にするのも憚られる内容を目にしてセイムは眉間にシワを寄せる。収まらない怒りから資料を破り捨てた。どんな生活を送っていればあんな外道になるのか考えたくもない。

 今居る場所はガクガンの私室、もしくは研究室の一つと考えていいだろう。


 そこを去って再びガクガン捜索に戻る。

 様々な部屋があった。拷問器具が揃っていて床に血痕があったり、失敗作とみられる改造人間達が山となって積み重なっていたり、名前を聞いてもピンと来ない豊富な液体が棚に陳列されていたりだ。

 二十以上の部屋を訪れたセイムは遂に標的を発見する。


「む、ここまで来るとは……愚かな」


 ――血濡れで床に這いつくばっているガクガンがそう言った。

 彼は一人の老人に踏みつけられていた。その光景に一瞬理解が及ばず呆然としてしまったセイムだが、すぐに正気を取り戻して老人を睨む。


「な……お、おいテメエ! なぜだ、何でテメエも二人いやがる!」


 ガクガンを踏んでいる老人もまたガクガンの姿。

 どんなに冷静な者でも初見で頭が混乱するのは避けられない。


「ふぉっふぉっふぉ。床に這いつくばっているのはオリジナル、儂は進化したガクガンじゃ。機械の体を手に入れた儂に寿命がなくなり不老となった。戦闘力も飛躍的に向上し、病にも侵されない究極のボディを手に入れたんじゃよ」


「な、なぜじゃ……なぜ、儂を、殺そうと……」


「なぜ? 同じ儂ながらおかしなことを訊く。お主は言わば不良品、より優秀な儂が処分してやったまでよ。どうせ老い先短い人生じゃったろう」


「バカな……こんな、はずでは……」


 血濡れのガクガンは力が抜けたように頭を床に打つ。

 ピクリとも動かないし瞳から光が消えた。それが意味する結論は一つ。


「……死んだのか」


「うむ、これですっきりじゃ。儂が二人とか気持ち悪いしのう」


「そこは同感だ」


 ただでさえ嫌いな相手が二人になっていたのだ。混乱もしたが嫌悪感も増す。

 少し前に別室で破り捨てた資料を参考にするなら増えた絡繰りも分かる。

 信じられないことにガクガンは同じ人間を増やす技術を持っていたのだ。クローン技術という、アスライフ大陸の住人に話せば鼻で笑われるようなもの、他の大陸でも対応はほとんど同じだろう。受け入れられるとすればそれを生み出したというテミス帝国くらいだ。


 器となる肉体を作り上げた後、自身の脳細胞を移植することで思考すら同じにする。

 無人機械竜にイレイザーの思考を植えつけたのと同じだ。あれも自分を増殖するための実験の一つだったのである。資料によれば目的は、自分を増やすことで画期的なアイデアを出しやすくするのと、開発速度上昇のため。それで自己増殖を選ぶあたり根本からセイムと考え方が違う。


「もう一つ訊きてえことがある。後ろの妙な容器に入ってんのは人間だよな?」


 ガクガンの話に付き合っていては頭がおかしくなりそうだと別の話題へ移す。

 長く話す気はない、ただ少し確認をして終わらせるつもりだ。

 部屋の最奥に卵形の大きな容器が存在し、赤い液体で満たされている中には白髪の男性が浮かんでいた。呼吸はしていないので生死不明だが死体だろうと改造される恐れがある。ガクガンのことだ、碌でもない実験でもするのではないかとセイムは勘繰る。


「まさかそいつも改造しようって腹積もりか? まだ機械の人間を作り出そうってのか?」


「あれか、あれは教祖様からの預かり品。改造など怖くて出来んわい」


「そうかよ、じゃあもういいぜ。後はテメエを斬り刻めば解決だし」


「出来ると思っとるのか! ふぉふぉふぉ、これは傑作! 身の程知らずとはこのこと、いや量産型イレイザーを破壊したことで自惚れておるようじゃな。今の儂のスペックはイレイザーをも上回るんじゃぞお!?」


 いきなりガクガンが「ほえ?」と間抜けのように呟く。

 ようやく気付いたのだろう、セイムが通り過ぎて大鎌で縦に切断したことに。


「自惚れてんのは自分だったみてえだな、イカレ野郎」


 綺麗に真っ二つになった老人は倒れた。機械の体だから出血しないのだが、代わりに切断面から電気が弱々しく放出されている。

 もう終わったとばかりにセイムは最奥の容器へと歩み寄る。


「解放してやりてえところだが……出し方分かんねえ。悪いけど戦いが終わるまで待っててくれや。絶対に助けてやっから、安心して眠ってな」


 白髪だからかエビルに似ていると感じた。

 顔はあまり似ていないのにそう思ったのはなぜか、考えても分からない。

 容器内の男性を見つめていると足音が近付いて来るのに気付く。

 新手かと思い警戒を高めて入口に振り向くと、一人の男が歩いて侵入した。


「ん? おい貴様、こんなところで何をしている」


 金の瞳で白髪オールバックの男が睨みつけてくる。

 鋭い耳、高い鼻。紺色のスーツを身に纏う彼は知り合いだったので気を抜いた。警戒を解き、軽く一息吐く。


「白竜かよ……。いやまあちょっとな、クズを処刑してたところだ」


「貴様、俺の言葉を忘れたのか? 死者をなるべく出すなと言っただろう」


「憶えてるっての。ただ、分かっていてもこの野郎だけは生かしちゃおけなかった。死人出しちまったのは悪かったけどよ、こういう奴は早めに始末しとかねえと後で大変なんだぜ。ま、早いとこ上に行こうぜ」


 部屋を出ようと歩くセイムは彼の隣を通り過ぎる。

 しかし一向に彼が動くことはなく、視線が容器内の白髪男性に向けられているのに気付く。まさかと思い「どうした、知り合いなのか?」と問いかけてみた。


「……先代勇者一行が揃うとは数奇な運命だ」


 返ってきた答えはボソボソとした小声で聞き取れない。

 確認のために「あ、何だって?」と言ったが彼は鼻で笑うのみ。


「何でもない。それより早く上に行くぞ」


「だな、早いとこあいつ等に加勢しねえと。待ってろよみんな」


 上階には残った四罪(しざい)や教祖が待ち構えているはずだ。

 ピンチになっている可能性も十分ある。頭に真っ先に浮かんだのは最愛の女性が苦痛に顔を歪めている姿。次に親友の男女二人がボロボロになっている姿。

 セイムだけのんびりは出来ないので白竜と共に階段へと走った。


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