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【完結】新・風の勇者伝説  作者: 彼方
七章 悪とは魔であり人でもある
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特訓の成果


 町の入口まで駆けたエビルはそこにいた二人の男女を目にする。


 黒髪褐色肌とアスライフ大陸では中々見ない容姿。ボロボロの黒いマントと体にフィットしたボディースーツを身に纏い、大鎌を担いでいるため目立つ少年セイム。


 青と白を基調とした神官服を着ており右手に錫杖(しゃくじょう)を持つ女性。プラチナブロンドの長髪であり、ゆったりとした衣類の上からでも分かるほど女性らしい二つの膨らみは大きい。容姿端麗な彼女はサトリ。


 仲間の姿を目にしたエビルは二人の名を呼んで立ち止まった。


「よお、お前も来たのか。なんかヤベえことになってるよな向こう」


「突然草原が爆発したようなのです。何かあったのでしょうか」


「城から確認したけど落ち着いて聞いてほしい。今はまだ距離があるけど、大量の機械竜がこっちに向かって来ている。さっきの爆発は帝国の攻撃だよ……効果はなかったけど」


 二人が爆発を聞いていたように、クランプ城下町にいる者達も聞いている。ここへ来る途中でパニックになっている者は少なくなかった。町の人間も大砲のことは知らないらしく、自分達の国が攻撃したことにも気付いていない。


「機械竜って、あのジークが使ってた奴かよ!? しかも大量つったか!?」


「それが事実ならマズいですね……。以前は一体だけでも苦戦していたのに大量とは。いかに特訓して強くなった私達でも三人で全て破壊することが出来るかどうか」


「今は自分達の力を信じるしかない。とにかく急ごう、この町に被害が出る前に倒す!」


 このままではクランプ帝国が蹂躙されてしまう。

 人々がぐちゃぐちゃに踏み潰される地獄絵図だ。

 それを防ぐためにエビル達は再び立ち向かわなければならない。一度瀕死になるまで追い詰められた因縁の機械に。



 *



 クランプ帝国手前の草原は広大だ、大森林を抜けてからも帝国までは相当な距離がある。エビル達は白竜に乗ってショートカットしたため分からないが広いことだけは理解している。無人機械竜達との戦闘も周囲に気を遣うことなく行えるだろう。


 金属で造られた銀色の装甲。額に赤い水晶が付いており、体はドラゴンを模した機械の竜。五十以上の大群が帝国へ向かって進軍している現況。帝国の兵士達は大砲を撃つ際に町へ避難しているため今この場所にはエビル達三人しかいない。


「さーてと、数の差は絶望的だなおい。どうする?」


「やるしかないでしょうね。一体一体、確実に破壊していきましょう」


 最悪な状況の中セイムが軽く問いかけると、冷静にサトリが返す。

 ただ、エビルは絶望的だとは思えなかった。右手の甲で淡く緑光を放っている風紋のおかげか、今の三人なら切り抜けられる状況だと感覚的に理解出来る。竜巻のような紋章を一瞥したエビルは剣を構える。


「……二人共、まず先手は私に譲ってください」


 覚悟を宿す瞳を無人機械竜達へ向けながらサトリが告げる。


「いいけど、どうして?」

「おい、危ねえ真似すんじゃねえだろうな。だとしたら許さねえぞ」


「ふ、天空神殿では戦わなかったので秘めた力は未知数。試運転するにはちょうどいい相手が都合よくいるので試しましょう――〈神衣(かむい)〉を」


 サトリの言う〈神衣〉の存在はエビルも知っている。

 天空神殿で彼女はそれを使用出来るように特訓していたのだ。封印の神カシェ曰く強大な神性を受け入れるための特訓だったようだが合格点を貰っている。未だ見たことがないのでエビルは若干見てみたい衝動に駆られた。


「平気なんだよな?」

「心配無用」


 サトリは両目を閉じて瞑想し始める。

 無人機械竜達が歩みを進める度に振動する大地。先程の大砲や銃での戦闘の影響か独特な臭いが乗った風が吹き、彼女のプラチナブロンドの長髪を大きく揺らす。何も気にせず瞑想する彼女はもはや自然と一体化しているようにも思えた。


 ふと、エビルは違和感に気付く。

 段々とサトリから感じられるものが少なくなっていく。感情は感じられなくなり、次にどう動くかなども分からない。カシェと同じだ。時間経過に連れて何も感じられなくなった。


 今度は異変が起きる。

 青と白を基調とした神官服の上に新たな衣服が出現したのだ。上方から下方へと徐々に、無から現れていく。襟が長く、純白のコートのような衣服を身に纏ったサトリは開眼する。その両目は黄金に変色していた。さらに彼女の周囲数センチ程度だがなぜかぼやけている。


「これが〈神衣〉……! 何も感じられない……強いのか?」


「女神だ。おいエビル、俺、夢でも見てんのかな。目の前に女神がいるぜ」


「セイム、あまり私の感情を動かすような言葉を口にしないでください。この状態は心に静寂をもたらしてこそ発動出来る。正確に言うなら、大きな感情の波を作ってしまうと神性エネルギーを操れません。カシェ様から頂いた神性を扱うには相応の胆力と静かな心が必要なのです」


 要するに〈神衣〉とは神性エネルギーの応用。

 神性というものにピンと来ないエビルには想像しづらい。

 セイムの〈デスドライブ〉も神性の力を出しているが、心を静かにしなければならないなど聞いたことがない。おそらく、決定的な違いは神性の宿主の違い。サトリはカシェから受け取ったものであり、彼は死神の子孫ということもあり自前だ。操りやすさや感情云々の違いはそこが原因だろう。


「……さあ、行きましょうか」


 サトリが一歩踏み出し、一歩の踏み込みだけで無人機械竜の群れへと届かせる。

 音速を超えた速度。エビルの技含めての全速力と同等だ。


 圧倒的なスピードのままにサトリは右手に持つ錫杖(しゃくじょう)を、無人機械竜のうち一体の腹部へと叩き込む。轟音がして、無人機械竜の体が純粋な力のみで数メートル浮く。そして落下と同時に再び錫杖で打撃を入れて吹き飛ばす。


 無人機械竜の銀色の装甲がすっかり凹んでいる。転がったその個体はよろよろと起き上がろうとして、真上から降って来たサトリの一撃で赤い水晶が粉々に砕け散る。原因がそれかは不明だが無人機械竜が一体動かなくなった。


 その様子を眺めていたセイムは遠い目をして「……俺、絶対あいつを怒らせねえわ」と呟く。それに関してはエビルも同意見であるので頷いて肯定しておく。


「強くなったなあ。ね、セイム、僕達も行こうよ」


「へっ、ああそうだな。あいつだけに任せてたんじゃ男が廃るぜ」


 エビルは〈暴風剣(テンペストブレイド)〉を、セイムは〈デスドライブ〉を発動させて無人機械竜の群れへと突っ込む。二人の速度はサトリに負けず劣らずであり攻撃力もあまり差はない。剣と大鎌が無人機械竜を一体ずつ切り裂いて、最後に赤い水晶ごと頭部を真っ二つにすることで合計二体を機能停止にさせた。


 かつて苦戦したとしても今のエビル達は遥かにパワーアップしている。あの機械竜だって改造されて強くなっているのに、それすら単独で倒せてしまうくらいに強くなれている。しかし無人機械竜達も黙ってやられ続けてくれない。大地を揺らしながら敵であるエビル達へと向かって来る。


「おいおい、なんか全部俺達の方に来てねえか!?」


「二手に分かれよう、少しでも分散させた方が戦いやすいはずだよ。今の僕達ならそう簡単にはやられない」


 以前なら無人機械竜相手に一人など自殺行為もいいところだったが今は違う、特訓により一人でも難なく撃破出来るしピンチになることはそうそうない。こうなると仲間と助け合うよりも、各々一人で相手した方が効率はいい。


 エビルとセイムは反発するように横へ走る。

 これで無人機械竜達も二手に分かれる――はずだった。無人機械竜達は分かれず、躊躇うことなく全ての機体がエビルを追跡する。


「ああ、こっちに来やがらねえ!? 何でだ!?」


 なぜ全機体の標的が固定されているのか。

 エビルはクランプ城で魔信教の一員ガクガンが話していた情報を思い出す。あの無人機械竜にはイレイザーの脳細胞が使われていると、彼は告げていた。あの異様にエビルへと執着していた男だ。脳細胞が使われていることによって思考が同じなのだとしたら全機体が集中するのも納得出来る。


 あっという間に囲まれたエビル。真逆にほぼ狙われないセイムとサトリ。

 二人も全く狙われないというわけではない。獲物を屠るのを阻止しようとしているので、邪魔者として排除するために攻撃する機体はいる。今も攻撃してはし返され、一体ずつ撃破しているところだ。


「イレイザー、死んでも僕を狙うのか……。その執念だけは凄まじいな」


 周囲を取り囲む無人機械竜が一斉に跳躍して襲い掛かる。

 ピンチなのは確かだ、なのにエビルは自分でも意外なことに冷静でいられた。相手がどう動くのかを風で感じ、次にどう動けばいいのかを考えられた。特訓で戦闘を重ね続けた結果が表れている。


「〈全方位への風撃(ダウンバースト)〉!」


 咄嗟に周囲の空気を搔き集めて、剣を掲げると同時に全方位へと膨大な風量を叩きつける。いかに無人機械竜達が大重量でも全く効かないわけではない。嵐は時に家屋をも吹き飛ばすのだ、エビルの放った風も僅かだが無人機械竜達を吹き飛ばす。


 次に〈疾風走破〉で包囲網から瞬時に抜け出した。その瞬間に宙にいた機体が着地して、粉砕された大地が数メートル浮かぶ。


 着地した無人機械竜達が反応する前にエビルは〈旋風斬(せんぷうざん)〉で斬りつける。横回転しながらの斬撃を放ちつつ移動して数体に致命的なダメージを与える。だが数の差はどうしようもなく、近くの五体ほどの連続攻撃を躱しきることが出来なかった。風を纏う剣でガードしたものの尻尾で薙ぎ払われて草の上を転がる。


 それから無人機械竜達の止まらない猛攻を避け続ける。三人で何体も破壊しているのに減っている気がせず、攻撃の手も緩まない。疲労だけが溜まっていく。特に集中砲火されているエビルの疲労は、高頻度の秘術使用もあって相当溜まる。

 段々と息が切れていく。劣勢には遠いが優勢とも言えなかった。


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