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【完結】新・風の勇者伝説  作者: 彼方
七章 悪とは魔であり人でもある
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兵器の出番


「……まったく……ほんと、強く……なったな」


 辛うじて保たれていたヤコンの意識が途切れた。

 余程強い衝撃を受けてしまったのは容易に想像出来る。原因となったエビルと、観客席に座っていたソラが彼の名を呼びつつ走って近寄る。他の者達は慌てずに歩み寄る。


「アズライ、腐っても神官なら診てやれ。医療の心得くらいあんだろ」


「嫌だなあウィレイン様ってばあ、私はれっきとした神官なんですよー。真面目な信徒にその言い様は酷いと思いませーん?」


「いいから早く診てやれっての。今はお前だけなんだから」


 神官には見習いでも多少医療の心得があるという。懇願するような目をエビルが向けていると、彼女は「しょうがないなあ。ほら勇者様、お姉さんにその身を預けてね」と告げてきたのでヤコンの傍から退く。


 アズライがヤコンの軽鎧含めた上の衣装を脱がせた。上半身裸にすれば力強く割れた腹筋が露わになって彼女は「わお」と艶めかしい声で呟き、上半身に手を当てては移動させていく。隅々まで眺めて、ついでに頭部も金髪を掻き分けて視認すると今度は静かに頷く。


「後頭部にたんこぶが出来るくらいでしょうねー。寸止めが遅れていたらもっと酷くなっていたでしょうし、直撃したら死んでましたねこりゃあ」


 診察を聞いてエビルとソラはホッと胸を撫で下ろす。

 もし骨折していたり後遺症でも残るようならどうしたものかと不安だったのだ。


「彼も鍛えているのに寸止めの一撃でこれとなると……案外、勇者様って銃持った兵士相手でも何とかなるでしょ。最後の動きも目で追うのが精一杯だったし、帝国の兵士に見えるとも思えないし。……ねえ、皇帝様?」


「む、そうだな……。余の目には最初の衝突も速すぎたくらいでよく分からないが、少数で挑んでもまず勝てないだろう。……だからといって刃物より銃が優れている事実は変わらんがな。どんな敵でも銃弾を浴びせれば確実に仕留められるのだから。やはり我が国こそ最強――」


 得意気に皇帝が語っている最中、唐突に「皇帝陛下!」という叫び声が遮る。

 全員が声の方向へ振り向いてみれば、砂の平地を囲む観客席に女性兵士が立っていた。濃緑、濃紺、茶色の三色で模様が描かれた帽子を被り、L字型の長い銃を背負っている彼女は慌ただしく駆け寄って来た。


「何事だ! 今は重要な会談中だ、余程重要な案件でなければ報告に来るなと通達したはずだぞ!」


 一応今もサミット中なので邪魔をされれば怒るのは当然。だがエビルは女性兵士の焦りようが生半可なものでないのが感じられる。緊急事態と見て間違いないので彼女の言動に集中する。


「そ、その重要な案件です! 見たこともない魔物の大群が帝国へ向けて現在進行中!」


「それがどうした! お前達兵士には銃がある。さっさと片付けろ!」


「き、効かないのです! 只今第一部隊から第五部隊までが交戦中ですが全く歯が立ちません! あの魔物には、何十発と銃弾の雨を浴びせても効果なし! 兵士達から救援要請を出されています! か、可能なら大砲の使用許可を!」


 銃が効かないという言葉に全員が驚愕する。

 威力の程は明確になっていないが、人間に一瞬で風穴を空ける強力な武器なのは間違いない。それが効かないということは魔物が余程硬いのだろうと全員が察す。


「……許可する。速やかに殲滅しろ」


 女性兵士は「はっ!」と敬礼して走り去った。

 会話の中で知らない単語が出たためウィレインが「大砲?」と呟いている。


「おい、大砲ってのは何だ。聞いてると銃より強力な兵器っぽいが」


「……今は発表するつもりがなかったんだがな、聞いてしまっては仕方ない。ああそうだ、大砲とは銃よりも強い兵器。町の外で集団を相手にする際にしか使わないし、今までに使用したのは一度だけだが威力は凄まじい。魔物の襲来も心配することはない」


 俄かには信じられないがカシマ自身が言うのだから真実だ。この場面で嘘を吐くというか、見栄を張る選択に意味などない。決してバカではない彼の言葉を全員が呑み込む。


 ただ、明らかにオーバーテクノロジーである。エビルが感じた限りだとウィレイン達各国の王は頼もしいと思うより、危険だという思いが強いようだった。もし戦争を仕掛けてきたとしたら為す術なく敗北を喫する。カシマの言った通り帝国に敵などいない。アスライフ大陸を征服しようとすれば出来てしまうのではないかと、過剰な武力を各国の王達は恐れているのだ。


「そいつは是非見てみてえな」


「会場であった会議部屋へ戻れば見えるだろう。知られてしまったんだ、どうせなら見せつけようではないか。余が愛する帝国の真の武力を、他を寄せ付けない圧倒的な力を」


 そして気のせいかと思ったがエビルは確かに感じてしまった。

 クランプ帝国皇帝、カシマ・セルデラの胸に眠る野心を。

 各国の王達が想像した敗北は実際に起きてしまうかもしれないことを。


 彼は武力を高めて全ての国を支配下にしたいようだった。アスライフ大陸、いや世界中の国を征服して自身が最強の王になる野望を抱いている。人間が愚かな考えを持っているというリトゥアールの言葉もあながち間違っていない。

 各々がどうすればいいか考えつつ、エビル達は会談を行っていた部屋まで戻る。


 部屋には長方形の机と椅子があるが全員スルー。奥にある一面ガラスの壁へと向かい、状況把握のために景色を見渡す。クランプ城は高い塔のような構造なので遠くの景色まで眺められる。普段なら高所からの絶景を楽しむところだが今は緊急事態だ、襲来してきている魔物とやらを確かめるべく全員が目を凝らす。


 兵士達は逃走したようで町へと走っている最中なようだ。魔物と呼ばれたものも町へ向かっているがその速度は非常にゆっくりである。


「あれか……確かに見たことがねえ。アズライ、ストロウ、お前ら二人はどうだ?」


「うーん、ウィレイン様と同じですねえ」

「そこそこ詳しいと思っていましたが俺も分かりません」


「余も知らぬな。サマンドとソラは?」

「未知の魔物だ」

「アランバート周辺にもあのように大きな魔物はいませんね」


 誰もがあんな魔物は知らないと言う。当然だ、あれらは魔物じゃない。

 この場でエビルだけが知っている。信じられない気持ちから目を見開き「バカな……」と驚きの言葉が漏れ出る。あれが相手だというのなら銃が効かないのにも驚かない。


「エビル、何か知っているのですか?」


 金属で造られた銀の装甲。古の時代に存在したとされる生物を模したとあの男が言っていた通り、額に赤い水晶がある以外は真の姿になった白竜と似ている。そう、あれはドラゴンだ。かつてエビル達を死の淵にまで追い詰めた機械仕掛けの竜。


「――機械竜。僕は仲間と一緒に戦ったことがあります。盗賊団ブルーズの頭領、ジークが使用していた兵器なんです。でもあの後アジト周辺を調べたけど何もなかったはず。もう壊れたはずの機械竜がどうしてここに、それもあんな大量に……。いったい誰が操っているんだ……!」


 当時一機でも死闘だったのに、エビルの視界には五十以上の機械竜が映っている。悪夢のような光景に戦慄する。いくら強くなったといってもあれだけの機械竜を破壊することがエビル達に出来るだろうか。


「何、あれが何であろうと心配はいらん! 間もなく奴等は大砲により粉微塵になるのだ! 多少硬いようだが我が国の持つ武力の前ではそこらの雑魚と変わらんのだよ!」


 ドン! と爆発したような重音が響き、若干城が振動した。

 何の音かと思っていると先程の重音が連続で鳴り響き、音に続いて黒い球体が機械竜の元へ飛んで行く。まだ帝国とかなり離れている機械竜達の元へ黒い球体はあっさりと到達して着弾。その瞬間に爆発して土埃や土塊が高く舞い上がる。連続で放たれたため土煙が酷くて機械竜達の姿が視認出来ない。


「刮目せよ、あれが大砲の威力! どんなものだろうと粉砕するうう!」


「……おいおい、シャレにならねえ兵器だな」

「城から撃たれている? 防衛に特化しているのか?」

「恐ろしい……同時に、頼もしい。これなら魔物でも魔信教でもタダでは済まないでしょうね。地形の変化が激しいのは改善するべきですがそれだけ強いという証拠。アランバートも参考にするべきでしょうか」


「あれらを破壊するのに剣を持った人間がどれほどの時間を要する? 仮に勇者であっても、この短時間で破壊するなど不可能だろう。やはり刃物を振り回す時代は終わったのだよ! はっはっはっはっはっはっはっはっはっは……は?」


 土煙が晴れてきて、得意気だったカシマの顔が歪む。

 それもその筈。粉々に破壊したはずの機械竜達が一機も減っていないうえ、ほとんど傷付かず、未だに前進を続けているのだから。


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