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【完結】新・風の勇者伝説  作者: 彼方
七章 悪とは魔であり人でもある
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これまでの旅路


 宿屋【水銀の矛】と呼ばれる場所。

 クランプ帝国の中で一番高値らしいそこへ、エビル達はソラとヤコンの案内でやって来た。もちろん庶民に優しい値段の宿もあるがソラが奢るというのだ。言葉に甘えて高いところに泊まると決めた。


 宿は見た目も凄い。金色の壁が神々しい輝きを持っている。

 まさか本物の黄金を使っているわけではないと信じたい。もし使用しているなら莫大な費用がかかるだろう。一泊の値段が町で最高値だというのも納得するしかない。金で塗っているだけだと思うが店員にそんなことは訊けない。


 眩しく見える原因は少なからずハイエンド王国にあるとエビルは思う。

 古いものが好まれるというあの国では宿も年季の入った老舗だった。しかし次にやって来た帝国の高級宿はいかにも最新。真逆と言っていい。あまりの違いに拒絶反応を起こしそうになる。


 中へ入ればまた黄金。若干外よりも明るさが落ちて見やすいが慣れない色だ。

 もっと驚くべきはやはり宿泊費用。なんと一泊が十万カシェ。他の宿の百倍近いと言えばその高さも理解出来るだろう。サトリでさえ目を丸くして驚愕していた。


 高値なだけあって宿屋内には様々な施設が設置されている。

 室内プール。大浴場。マッサージ屋。カジノ。道具屋、武器屋、防具屋などの外にもある店。一流の料理人が働く食堂。他にも色々と目を引くような施設が宿屋内に収まっている。

 真っ先にセイムがカジノへ向かおうとしたのでエビルとサトリの二人で止めた。あまり知らない彼が行けばいい鴨にされる。あり金を全てスッてくるのがオチだ。


 肝心の部屋はソラ達の隣である。隣ならいつでも会えるので最高の位置だ。

 一先ずは部屋のベッドにレミを寝かせておき、エビルはソラと話をするために隣の部屋でテーブル越しに向かい合う。セイムとサトリは観光のために宿を出て行った。今ソラの部屋にいるのはヤコンを入れて三人のみである、さぞじっくり話せることだろう。


 ちなみにエビル達の部屋が一つで男女に分かれていないのは、ソラに二部屋分も払わせるのは甘えすぎだと思ったからだ。レミの意見は訊けないが訊いても一部屋でいいと我慢してくれただろう。とりあえずエビル達三人は満場一致である。


「さて、色々と話したいことはあるのですが……まずは、レミをここまで守ってくれたことへの感謝を。一国の女王としても、一人の姉としても、妹のことはいつも心配していました。……ふふ、ヤコンもかなり心配していたのよ」


 そう言ってソラが壁際に立つヤコンへと視線を向ける。

 彼はゆっくりと頷くことで肯定した。そして「あの時、レミ様を外へ出すのに反対した貴族を抑えたこともあってね。何かあったら俺の責任でもあるからさ」と告げる。半ば強引に王城を出て行ったのに誰にも追いかけられなかったのは、彼と他の兵士のおかげだったらしい。


「感謝なんて、僕の方こそ彼女には多く助けられました。彼女だけじゃない、セイムにも、サトリにも、他の人達からも助けてもらって協力し合ったからこそ今がある。辛くても、悲しくても、仲間の支えがあったからこそこうして旅を続けられているんです」


「良縁に恵まれたようですね」


「悪縁もありましたよ」


 今までエビルは数多くの者と旅の途中に関わった。

 三人の仲間はもちろんのこと。イフサ、ジョウ、ホースト、カシェ、白竜、ビュートなどの出会えて良かった者達が多くいる。誰かと助け合ったからこそこれまでも、そしてこれからも旅を続けていける。エビルは優しい笑みを浮かべながらこれまでの縁へと感謝する。


「……良かったです。風の勇者として旅へ出したことで、あなたが変に気負ってしまうのではないかと後になって考えていました。……でも、杞憂だったようです。エビルさん、あなたは私が想像していたよりもずっと強い。いえ、旅を通してもっと強くなられたのですね」


「買い被りすぎですよ。少し前までその称号に囚われすぎていましたしね。ただ、これを自分で言うのはどうかと思うんですけど……僕は変われた、んじゃないかなって。勇者だから一人で全員を助けるという想いが強すぎて空回りしていたんだと思います。たとえ勇者でも、一人でやる必要はない。仲間をもっと頼っていいんだって気付きました。……でも思えば僕だけそう思っていただけで、最初から誰かの力を借りていたのかもしれません」


「仲間を頼る、いいことですね。人は一人で生きていけない。必ず誰かに、当人が認識していなくても助けられて生きているのです。そういえばノルドを通った際に漁師の方から聞きましたよ。クラーケンという魔物を旅人と協力して退治したと。エビルさんのことだと話を聞いていてすぐに分かりましたとも。素晴らしい活躍に私も嬉しくなりました」


 まさか知られていると思わなかったエビルは若干目を丸くする。

 漁師というならホーストあたりだろうか。自分達のことがこうして伝えられていると分かった途端に照れて「あはは」と笑ってしまう。他の場所でも語られたりするのかもしれない、といっても語られるような活躍はプリエール神殿でのことくらいなものだろう。


「しかし、各地で魔信教や盗賊の被害があることに驚きました。アランバート城での一件だけではなく、ノルドでも似たようなことがあったとか。リジャーとハイエンドは盗賊の被害に遭ったというではないですか。ここまで悪の根が伸びていようとは、一年前からは想像もつきません。アスライフ大陸にもはや安全な場所などないのかも……」


 確かにアスライフ大陸中に魔の手が伸びている。魔物だけが脅威だった時代と比べてあまりにも危険が広がりすぎている。盗賊団ブルーズは壊滅させたものの、未だ一番の脅威は健在。やはり魔信教を壊滅させなければ平和など夢物語だ。そのためにもリトゥアールと早急に決着をつける必要がある。

 問題なのは魔信教の本拠地が不明なため、偶然でもない限り彼女と会えないこと。この先も前途多難な旅になるのは間違いない。


「平和は、僕達が取り戻してみせます。何年かかってでも、必ず」


「無理はなさらないでください。倒れられでもしたら大変ですからね」


 エビルは「はい」と頷く。


「さて、そろそろ聞かせてもらってもよろしいですかエビルさん。あなたと仲間の冒険を、その軌跡を。私、こう見えて冒険譚などが大好きなのです。あなた達が旅に出てからずっと、次に会ったら話を聞かせてもらおうと思っていたんですよ」


「意外ですね。……それじゃ、まずはアランバート出発後から」


 平然としているように見えてソラからは素直な高揚と興奮を感じる。

 本当に楽しみにしているんだなと、よく理解出来た。女王様のイメージっぽくない一面を知れて彼女のことを知れた気がした。

 そのことを嬉しく思いつつ、エビルは長いようで短い旅の経過を語り出す。



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