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【完結】新・風の勇者伝説  作者: 彼方
第一部 一章 目覚めの風
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王城見学


 現在、エビルはレミに連れられアランバート城を見て回っていた。

 全ては笑みを浮かべて病室にやって来たレミの一言から始まる。ずっと休憩室にいても暇なのは確かだったので出掛けようという提案に従い、王城の庭から外には外出許可が下りていないため王城内を見学することにした。


 城下町の煉瓦(れんが)で造られている建築物とは違い王城は石で造られている。これは一度燃えると消火出来ない聖火が保管されているのと、煉瓦が作られる前の時代に建てられた城だからとレミは告げている。

 広い廊下の床にはレッドカーペットが敷かれており、壁には一定距離に松明が設置されている。今は廊下を歩いており、全身鎧を着た兵士を模した銀色の像を眺めている。


「どう? 無駄に精巧でしょ、この兵士像」


「無駄って……普通に綺麗な像でいいんじゃ……」


 今にも動き出しそうな迫力ある銀の兵士像。それとヤコンなどの兵士を頭の中で比べてみればエビルは鎧の近いに疑問を持つ。


「この兵士像、どうしてヤコンさん達の鎧と違うのかな」


「あー、昔はこんな動きづらそうな鎧だったらしいわ。でもなんか機動性が落ちるとかで今の鎧に変えたんだってさ」


 鎧にも歴史あり。エビルは感心したように「へえー」と呟く。

 兵士像から離れて再び廊下を歩いていると、王城入口を通りかかった時に立ち止まる。そして進路変更して入口の木製扉へと向かうのでエビルも付いていく。


 大きめの木製扉を両手で開けて二人は外へ出る。一応まだ王城の庭なので怒られはしないだろうとエビルが考えていると、レミは外で門番をしている兵士二人に「おつかれ!」と声を掛ける。


「おぉレミ様、外出ですか? ……後ろの彼は?」


「エビルよ、アタシの友達。あああと今日は城下町へ外出しないわ、アタシエビルの案内があるからね」


 自分の話題になったのでエビルは会釈して「どうも」と挨拶しておく。


「そうか君は……怪我はもういいのかな」


「大丈夫です。もう全力で動けると思います」


 兵士二人は「それはよかった」と告げる。ドランやヤコンだけではない、多くの人に心配をかけていたのだとエビルは自覚した。ここにいる人々は優しい人ばかりなのだとレミを見て改めて思う。


「エビル、ちなみにここから横に行けば庭園とか兵士の訓練場があるよ。どう? 今から行ってみる? 手合わせとかしてみない?」


「うーん今日はいいかな。明日にでも頼むよ、体動かさないと動きが鈍っちゃうから」


「……そうね。ごめん、体動かせば嫌なこと忘れられるかと思ってた。そう単純な話でもないよね。いいよ、気分一転して明日にしましょっか」


 レミの発言でエビルは軽く目を見開いて息を呑む。

 今まで、レミは自分に起きたことを知らないのだと勘違いしていた。故郷を襲われて家族同然の者達を皆殺しにされたことを知らないから、ああも笑ってどこかへ行こうなどと提案してきたのだと思っていた。しかしレミは全て知ったうえでレミなりに気を遣っていたのだと気付く。

 エビルは肩を軽く叩いて城内へ戻っていくレミの背を見つめる。


『村の奴らと同じで良い奴らだって? 人間何考えてるか分かったもんじゃねえぜ?』


『確かに僕は心を読めるわけじゃないけど、僕から見たら表面上のレミ達が全てなんだ。それに腹の内で何を考えているかなんて考えてたらキリがない。きっといつか人を信じられなくなる』


 ふとエビルは笑みを浮かべて置いていかれないよう小走りで後を追う。

 城内に戻った二人は見学会を続けて最上部へとやって来た。目的はアランバート王国の平和の象徴として城の頂点で燃え続けている聖火を近くで眺めるためだ。


 鋸壁(きょへき)にまで走って寄りかかったレミは、最上部中心にある小部屋から勢いよく噴き出ている鮮やかな紅蓮の炎を見つめる。そして傍に立つエビルに「あれあれ」と聖火を指し、弾むような声で告げる。


『おいおいこの女、故郷燃やされた奴に炎見せるとか何考えてんだ?』


『レミも僕の故郷を燃やしたお前にだけは言われたくないだろうね』


 燃え盛っている聖火は見ていると心が洗われていくように、思わず見入ってしまうくらいに美しかった。間近で眺めているからこそ抱く感想なのかもしれない。エビルはここに来て良かったなと自然にそう思えた。


「ねぇレミ、聖火って何が燃えてるのかな?」


 あれだけ大きな炎で、勢いは全く衰えないとなればいったい何が燃えているというのか。純粋にエビルはそこが気になって問いかける。


「うーん、アタシも詳しくは知らないんだよね。あの小屋っぽいところから出てるのは確かなんだけどさ。聖火の詳細は代々国王にしか伝えられないらしいよ」


「そうなんだ……でも綺麗だよね。村を燃やした炎とはえらい違いだよ」


 エビルの発言にレミは「……あ」と呟く。何を思ったのか推測出来たエビルはあまり自分を責めないように続ける。


「なんていうか聖火は違うんだ、見ていて嫌な炎じゃないんだよ。だからレミ……今日は、ここまで案内してくれてありがとう」


 優しく笑いかけてそう言うと、レミも「よかった」と呟いて笑みを浮かべた。

 それから数分の間聖火を眺め続けていると、最上部へ通じる梯子を誰かが登って来る音がエビルの耳に届く。


 視線を梯子の方へと向けてみれば登って来たのはふくよかな体の中年男性。

 口髭を横に伸ばして巻いているその男は二人に気付くと歩み寄って来て、気付いたレミは露骨に嫌そうな表情になる。


「デュポン……」


「これはこれはレミ様、いったいこのようなところで何をされているのですかな」


「レミ、この人は……?」


 あまりにも不快そうな顔なのでエビルはレミに問う。するとその瞬間にデュポンの目が睥睨するように細まった。


「デュポン・グランガン。この国の大臣よ」


「大臣……偉い人か。……ならその嫌そうな顔止めた方がいいんじゃ」


「いいのよ、アタシこいつ嫌いだもん」


「本人いるのにそんなはっきり言わなくても……」


 さすがに嫌いといっても表情に出さない方がいいだろう。といってもエビルだってシャドウが目前にいたらはっきり嫌悪感を表すだろうが。


「……君、確かエビルとかいったかね」


「えっ、あ、はい。すみません、挨拶もせず」


「いいやいいとも、君の名前も事情も全て報告を受けているからね。しかし一つ言っておくことが出来た。君、もっと身の程を弁えるべきではないかね?」


 注意されたのが自分だったことでエビルは「……へ?」と間の抜けた声を漏らす。


「大方レミ様のことを何も知らないんだろうがね、彼女は現女王ソラ様の妹君であり、世界に四人しかいない秘術使いでもある。それもこの国にピッタリな火の秘術だ。その価値がこの国にとっていったいどれ程のものか……到底君のような一介の村人が話せるような立場ではないというのに。奇跡だよ、これは奇跡。せめてレミ様や目上の立場の人間と話すときは敬語くらい使ったらどうだね?」


 ああ、そういうことかとエビルは思う。

 デュポンという人間はレミが嫌いなタイプだとすぐに理解した。

 まだ過ごした時間は短いがレミの性格はなんとなく理解しているつもりだ。対等な友人が欲しかったという願いも知る身としては、特別扱いしてくるデュポンを嫌っても仕方がないと思ってしまう。


「……すみません。でもこれは彼女からの要望でもあるんです。自分には敬語を使わないでほしいという願いを無視は出来ません」


「そうよ、アンタが指図するんじゃないわよ! アンタが……アンタが石頭でなきゃ……アタシだって今頃自由に……!」


 レミの気持ちが分かるつもりだと思っていたエビルだがまだ知らないことは多い。先程デュポンから明かされた女王の妹である情報や、今憎むような顔をして睨んでいるのはなぜかが不明だ。


「ふむ、まあこの私には使えるようですし見逃してあげましょう。ですがあまり王城内をウロチョロしないことですな。君は所詮、ただの村人なのだから」


「いちいちエビルを見下さないでよ! ああもう、気分最悪だわ。エビル! ここにいても気分悪くなるだけだから早く行きましょ!」


 レミはエビルの腕を掴んで強引に引っ張って走り出す。

 ちょっと待ってと制止する声は届かず、その日の見学会はレミの機嫌が悪くなったことで強制終了してしまった。


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