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【完結】新・風の勇者伝説  作者: 彼方
六章 天空神殿
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封印の神カシェ

 ここから一応「天空神殿編」スタートです。

 当初の予定だと次の章と合わせるつもりだったけど、やっぱり分けることにしました。天空神殿編だけならそんなに長くならない筈だとは思います。








 遥か高い空へと浮かび上がった大地が二つ。どちらも逆三角形のような形をしており、柱など支える物は存在していない。二つはぴったりとくっついているため行き来が可能となっている。

 青白く、横に広い長方形のような建造物――神が住んでいるとされた神殿が周囲では一番大きい。見た者に神聖な印象を与えるその建物だ。


 エビル、レミ、サトリの三人はその神殿を目指して歩いている。

 少し距離が離れていたがアクシデントも何もなかったのでスムーズに近付けていた。それもその筈、この天空の地には魔物が一切存在していないのだから。地上なら最低でも五回は戦闘になるが、ここでは魔物の気配すら感じられない。


「あっ、入口見えたわね」


「……誰かいます。二人共、油断しないように」


「分かっているよ。ただ、今のところ敵意はないみたいだね」


 等間隔で道の両端に設置されている石柱の間を通ると、決して段数の多くない階段が存在している。それを上ってみれば青白い神殿の広い入口らしき穴。扉などがないのは不用心だが、安全面など考慮しなくていいのかもしれない。ここは天空にあり、入口には一人の男が門番のように立っているのだから。


 白髪のオールバック。体で特徴的なのは鋭い目と耳、高い鼻。紺色のスーツを着ている彼は強者の雰囲気を纏っている。相対してみれば理解出来る。戦ったとして、今のエビル達では手も足も出ずに敗北を喫するだろう。


「そこで止まれ」


 もう入口は目と鼻の先。あと十歩もかからない距離。

 金の瞳を向けられ、威圧感ある声を出されたエビル達は足を止める。


「地上の人間共……いや、貴様……悪魔か? 汚らわしい」


「ちょっと、いきなり喧嘩売ってるわけ? 誰だか知らないけど初対面の人に対する態度じゃないわね。こっちはまだ苛々が収まってないってのにさ」


「もしやあなた様が神なのでしょうか……。だとしても、あんまりな言い方です。悪魔が邪悪な存在なのは事実。しかし、彼のことをよく知ってから判断していただきたい」


「ちょっと二人共、落ち着いて。僕なら大丈夫だから」


 睨む二人へエビルが呼びかけたものの険しい表情は戻らない。

 最初から互いに印象が悪くなってしまったようだ。相手が途轍もなく強いことを肌で感じているはずなので、レミとサトリは手を出したりしないだろうが目前の男は違う。ここで不快な思いをさせたりして怒らせれば攻撃してくるだろう。

 内心ヒヤヒヤしているエビルにシャドウの声が届く。


『こいつ……俺の存在に気付いてやがる。敵意はねえが……』


 その言葉を聞いてエビルは額に汗を滲ませた。

 悪魔に対して嫌悪感を持っているらしい白髪オールバックの男に、影に潜っているシャドウの存在が露呈してしまっている。仕掛けてこないのはまだ敵と認定されていないからだ。しかし、いつ攻撃して来るか分からないから恐ろしい。

 不気味なほどに敵意を抱かない。いや抱かないようにしている風に感じる。


「貴様等が来ることは予め分かっていた。カシェ様がお待ちだ、付いて来い」


 身を翻して男は歩いて行く。


「どうする? 入れてくれるらしいけど」


「罠の可能性はありますが、行くしかないでしょう。あの威圧感、只者ではありません。断れる雰囲気ではないですし。……何よりカシェ様というのは神の一柱。付いていく価値はあるかと」


 中へ入って先へ進んでいく男は再びエビル達へと振り向く。


「おい、さっさとしろ。あまりあの御方を待たせるな」


「すみません、今行きます!」


 返事をすると男はまた歩き出す。エビル達も後を追うように神殿へと足を踏み入れた。

 青白い神殿に入って最初の部屋はレッドカーペットが敷かれている広い空間。中心には階段があり、その他に進める通路が左右と奥に一つずつ。海のように青い天井には豪華なシャンデリアがいくつか吊るされている。壁は光沢を放つ鏡のようで自分や部屋を映している。


 男の後に続き、石材で作られたと思われる階段を上っていく。

 手すりも柱もない不思議な階段だった。それを一段一段上るとすぐに二階へ出て、先程の部屋より一回り小さい場所へ出た。


 レッドカーペットが道のように直線状に敷かれており、それ以外は透き通った青い床が露出している。しかも風景を反射して映している鏡の特性を持つ床である。壁や天井には白い雲や青い空の映像が常時流れている。


 二階に出てエビル達はすぐ足を止めた。

 幻想的な風景があったからではない。未だに歩き続ける男が向かう先、レッドカーペットで作られた道の先に一人の女性がいたからだ。立派な玉座に腰を下ろしている彼女は絵本の中にいる姫のようだった。まるで創作物に登場する存在かと思うくらいに美しい。


 足元にまで伸びる長い金髪。頭頂部に乗せている銀のティアラは、真ん中に赤い宝石で作られたハートが目立つ。優し気で慈愛を感じさせる顔立ち。蒲公英(たんぽぽ)のような色の裾が長いドレスを着ており、肩部分には読めない赤文字が書かれた白い札が何枚も貼られていた。神殿内だからか靴は履いておらず、つるりとした綺麗な足首を晒している。


 ここまで案内してくれた男が女性の横に並んで立ち止まった。身を翻してエビル達を眺めながら、彼は女性に向けて声を発した。


「カシェ様。ご命令の通り、地上の勇者とその仲間を連れて参りました」


「ご苦労様です、白竜(はくりゅう)。先程の件といい面倒を任せてごめんなさいね」


「いえ、この身はあなた様の物。謝罪は不要」


 カシェと白竜。二人の関係はやりとりから理解出来る。

 主従関係。異様なほどの強さを感じられる彼を従えるなど、いったい彼女はどれほどの力を有しているのか。風の秘術でさえ感じ取ることは出来ない。


「そこの三人、もう少し前に出て構いませんよ。話しづらいでしょう」


「……は、はい。じゃあお言葉に甘えて」


 エビル達は十歩ほど前進する。カシェとの距離は五メートルくらいだ。

 なぜそこで歩みを止めたかといえば白竜が目を鋭くしたからだ。これ以上進めば殺すとでも言わんばかりの迫力ある顔を見て、死線を何度か潜った三人でも背筋が凍るような恐怖に襲われる。


「さて、私が誰なのか、あなた達はもう何となく分かっているでしょう。私はカシェ――封印を得意とする神。あなた達のことはずっとこの天空神殿から見守っていました」


「やっぱり、あなたが神様だったんですね」


 微笑みながら告げられた言葉にエビルはすぐ納得した。レミも「通貨の名前にもなってる、あの?」と呟いているので直に受け入れるだろう。喜ぶかと思われていたサトリは表情を変えず、真剣な顔でジッとカシェを見つめている。


「その通り、地上では私の名が通貨の名に使われているとか。どこの誰が作ったのかは存じませんが、こちらとしては恥ずかしいですね。他の神の名前は使われないのに……」


「あの、そちらの白竜さん、ですか。彼との会話を聞く限り僕達をここへ連れて来るように頼んだように思えたんですが……それに僕達が地上の勇者だとも……いったい、どういうことなんでしょうか」


「勇者云々は簡単です。エビル、あなたが勇者なのだから」


 正直、今はその称号を認めたくはなかった。

 今まで色々悩み、勇者だと認められたり、否定されることは多かった。しかしつい先程仲間の一人が死んだことにも気付けず、敵がいたにもかかわらず眠っていた自分を勇者とは言いたくない。


「僕は……まだ未熟です。その称号を貰うにはまだ早い」


「未熟でも何でも、あなたは勇者なのです。そもそも私とあなた達では認識に差異がある。私のような神にとって勇者とは、風の秘術を扱う属性紋を宿した者のことを言うのです。そこに実力の有無は関係ありません」


「風紋を、宿しているから……?」


「古来より風紋を宿す者は悪と戦う運命を背負わされています。ゆえに代々、風紋を宿す者には悲劇に見舞われる。先代のビュート・クラーナも、先々代のフウカ・ストライザードもそうでした。その過酷な運命を背負い、立ち向かう者こそが神にとっての勇者なのです」


 人間にとっての勇者。神にとっての勇者。二つが違うなどエビル達は考えもしなかった。

 つまりエビルは生まれた瞬間から強制的にその運命と称号を与えられたのだ。もしかすれば故郷の襲撃、シャドウとの因縁すら天から仕組まれた必然だったのかもしれない。


「そして今代、エビル・アグレム。その仲間、レミ・アランバート、セイム・ブラウン、サトリ・ディルマイゼ。あなた達四人は、魔信教という一つの巨悪に立ち向かう運命を持っていた。オーブに導かれてこの天空神殿に辿り着いたのもまた運命。ここで為すべきことがあなた達四人にはある」


「為すべき、こと?」


「――あなた達にはここで強くなっていただきます」


 至極当然、単純明快な使命だ。

 笑みを深めて言い放ったカシェの言葉にエビルとレミは頷く。


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