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【完結】新・風の勇者伝説  作者: 彼方
五章 オーブを探して
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炎同士の衝突


 救世主のように現れたレミには邪遠も見覚えがある。

 プリエール神殿での戦闘時、火の秘術という目立つ力を使用していた少女。黒い炎を扱う邪遠にとって嫌でも目に付く存在だ。彼は「貴様は……」と呟きながらフードを強引に千切り取って捨てる。


 赤黒い瞳。灰色の肌。黒髪を掻き分けて側頭部から突き出る捻じれた角。目立つどころではない人外の外見をしている彼のことをレミもよく憶えている。プリエール神殿での屈辱を、無力感を、彼の強大な異能を、あれから一時でも忘れたことはない。


「アンタ、前にプリエール神殿を襲ってサリーを殺した奴よね。だからって別にアンタだけ特別許さないってわけじゃなくて、魔信教は全員ぶっ飛ばすけど。……さっきの黒い炎について説明してもらえる?」


「秘術使いはこの世界にたった四人、それぞれの属性に分かれている。同じ属性の秘術使いが二人以上現れることは今までの歴史で一度もない。貴様の疑問はそこだな?」


「分かってるじゃない。アンタが使うのは紛れもなく火の秘術、でも今代の使い手はアタシ。これをどう説明するわけ? だんまりはさせないわよ」


「それを聞きたいなら、実力を示せ。俺の中で貴様は不合格のままだ」


「……アンタ、相変わらずムカつくわ。灼熱で焦がしてあげるっての! アタシが逆に火葬してあげるわよ!」


 青筋を立てたレミが両手を突き出し、両掌から炎の塊を放出する。連続で放出されたそれを邪遠は避ける素振りも見せず、右腕で払っただけで霧散させた。


「仮に火の秘術使いなら熱耐性あって当然か……! だったら熱量上げてくわよ、炎剣!」


 まだ邪遠が秘術使いだと決まったわけではないが、もしそうなら火に対して耐性が存在する。いやそもそも色は違えど火を扱うなら熱耐性があって当然。生半可な熱量では通用しないので、レミは意識して熱量を上げた炎の剣を作り出す。近付いただけで肌が痛むほどの熱量を持つ炎が勢いよく燃え上がる。

 火の粉がそこら中に飛び散る剣を見ても邪遠の表情は変わらない。


「形状変化くらいはできるか。ならばこちらも……黒炎剣(こくえんけん)


 邪遠が右手を前に出すと黒炎が零れ落ちて剣の形になる。上下逆さの状態から持ち直して攻撃を待っているようだがレミも動かない。

 お互いに動き出すのを待ち続けていた二人だが、ついに限界を迎える。

 痺れを切らしたレミは左手で持った炎剣を振りかぶり、急接近して薙ぎ払う。渾身の一撃は邪遠も黒炎剣を振るったことで防がれる。鍔迫り合いのような形になりレミは力を精一杯込めて押そうとするが、邪遠の筋力は想像以上に強く全く押すことが出来ない。


 夜闇を照らす炎と紛れる炎。二つがぶつかり合っていると熱量も増していく。やがてレミの炎剣が引かれ、邪遠の黒炎剣が相手を失ったことで振り抜かれると同時にレミは次の攻撃に移る。だが隙に打ち込もうとした炎剣は再び止められる。


 レミが隙だと思ったものは邪遠にとって隙でも何でもなかった。

 単純な実力差が開きすぎている。身体能力が数倍以上離れていることで、たとえ虚を突かれた攻撃でも対処が可能となってしまうのだ。


 力押しでは勝てないと悟ったレミはフェイントを織り交ぜつつ攻撃を続ける。

 鮮やかな赤い炎の剣はことごとく、夜すら燃やしているかのような剣に防がれ続けた。何度も何度も、全力で動き回りながらの攻撃でもまともに体へ入らない。


「だったらっ、大炎剣!」


 赤い炎剣が大きくなる。刀身だけが五倍にもなったそれの破壊力は絶大だ。

 飛び散る火の粉の量も多くなり、熱量も重量も大きくなる。だが、より脅威となったはずの大炎剣を目にしても、邪遠は冷めた瞳でレミを射抜くだけであった。


 レミが振り下ろす大炎剣。

 迫っていく赤い炎の剣を、一定の形状を維持している黒い炎剣が防ぐ。しかしそれを予想していた彼女の右手から炎の球体が放出される。

 邪遠目がけて発射された炎弾。喰らえば全身が炎に包まれて常人なら焼け死ぬほどの熱が秘められている。そんなものが邪遠に激突して、赤い炎がどこにも逃がさないように包み込む。


 好機となる状況にしたレミは一度大炎剣を消火し、今度は右手に炎を纏わせる。

 高熱に包み込まれた拳で殴る技――炎拳(えんけん)。熱と衝撃が同時に襲う彼女の得意技。

 全速力で駆け、まだ炎に包まれている邪遠に勢いよく右拳を叩き込む。

 渾身の一撃。確かな手応え。

 勝ったと思い込んだ瞬間――邪遠の周囲を覆う炎が消し飛ばされた。


 特に何かをした形跡はない。信じられないことに、ただ気合だけで炎を吹き飛ばしたのだとレミは理解する。

 しかしそれよりも驚く事実が一つ。これについては何度も目を疑って何度も瞬きする。

 ――レミの渾身の炎拳は、涼しい顔をした邪遠に片手で受け止められていた。


 炎で視界も遮っている。タイミングも悟られるはずがない。にもかかわらず邪遠は正確に拳を受け止めている。

 呆然とした表情になっているレミの腹部に突如強烈な拳が叩き込まれた。

 殴られたレミは後方の民家に激突して壁を崩壊させた。幸いなことに誰もいなかったらしく人的被害はない。腹が破れたような激痛に耐えながら、どこか臓器でも潰れたのかゴボッと大量の血を吐きながら彼女はゆっくり立ち上がる。


「……何、手加減、してんのよ。アタシを……舐めてんじゃ、ないわよ」


 格闘を得意とするレミには分かる。邪遠は今の一撃で露骨に手を抜いていた。

 直撃と同時に力が抜けていったのだ。もし力を込められたまま殴られていれば臓器どころか腹部ごと潰れていただろう。馬鹿げているが千切れていた可能性だってある。それを理解しているからこそレミは憤る。


「以前はすぐに殺そうとしたが考えを改めたのだ。短期間とはいえ人は成長する、俺がそうだった。貴様を殺すか殺さないかは成長を見届けてからでも遅くない。何せ、貴様に死をもたらすことなど容易く行えるのだから」


「言ったでしょ……。舐めんなっての!」


 怒りに呼応して、レミの尻にある炎のような紋章が光を増す。

 ミニスカートの上からでも分かるほどに強い赤光。全身の力が漲る感覚になったレミは右腕を横に出し、蒼き炎を顕現させた。


蒼炎(そうえん)……。そこまで火力を上げていたのか? この短期間で?」


「セイム、サトリ! ここはアタシ一人に任せて逃げて!」


「ンなこと、できっか……よおお!」


「仲間を見捨てて逃走するなど、実力で負ける以上に惨め……!」


 全身の痛みに叫ぶのを耐えながらセイムとサトリの二人もゆっくり立ち上がる。

 逃がそうとしたのに全く逃げない二人にレミは苦笑した。これでは状況が一向によくならない。三人仲良くボロ雑巾にされ無残に殺されるだけ。だが仲間を見捨てない、いやきっと誰であろうと見捨てないだろう二人にレミは期待していたのかもしれない。


 二人ならば逃げない。一緒に戦って勝とうとしてくれる。口から出た言葉とは矛盾している期待は見事に応えられてしまった。

 立ち上がった三人に邪遠は顔を顰めて、鬱陶しそうに口を開く。


「もう諦めろ、意地だけで勝てるほど甘い世界じゃない。今まではどうか知らないが世の中にはいるのだ。どう足掻いても遠く及ばない、絶望を体現したかのような敵が」


「なら、その意地で勝てばいいのよね……他でもないアンタに!」


「幻想に身を委ねるな。今のお前達では可能性の欠片もない」


「それを決めるのは――俺達だ!」


 死神本来の力を開放しているセイムが素早く接近した。

 赤黒いオーラを纏うセイムは邪遠の胴体を真っ二つにしようと大鎌を振るう。だが振るわれた大鎌は飛び越えられてしまい、回避した邪遠がセイムの後頭部を空中で蹴り飛ばす。

 道を転がり、すぐに立とうとしたが立てないセイムは歯を食いしばる。


「今が絶好の隙!」


 空中に跳んでから着地する。その行為には決定的な隙が生まれてしまう。

 サトリは着地のタイミングを狙い、本来の速度が出ていないまま走って錫杖を振りかぶる。しかし疲労とダメージが溜まった相手の攻撃など読むことは容易い。邪遠はサトリの振るう錫杖を回避しようと、着地してからすぐ左に動く。


 サトリの攻撃は空振りする――はずだった。

 邪遠が着地してから左に動いた瞬間、痛みゆえにうまく走れないサトリが態勢を崩して錫杖の軌道が変化した。左に移動した邪遠を追うように腕が伸び、錫杖が彼の右頬に吸い込まれるように偶然めり込んだのだ。


 偶然攻撃がヒットしたとはいえ、転んだせいもあり普段に比べて力の入っていない攻撃。効いた様子はなく、ただ邪遠の体勢を崩すだけに留まる。

 体勢が崩れたまま邪遠は黒炎を右手に出し、サトリへと放とうとした瞬間。


「くうらあっ! (そう)(えん)(けん)!」


 ――注意が逸れていたため無防備な左頬に青く燃える右拳がめり込んだ。

 当然攻撃したのはレミだ。全身全霊の一撃を放ったのだが、邪遠は少し仰け反るだけで耐えてしまう。さらにレミを睨んで「……温い」と告げる。


「だったらもっと熱く、大蒼炎拳(だいそうえんけん)!」


 左拳も蒼く燃え始め、右拳よりも炎が膨れ上がった。

 濁ったような青から若干綺麗な青色へ、熱く、大きく燃え上がる。

 レミは右腕を引き、殴り飛ばしてやると意気込んで左拳を突き出す。蒼く燃えている拳は邪遠に片手で受け止められたが一歩後ろに下がらせることが出来た。殴り飛ばされないよう踏ん張る足が道路に亀裂を走らせる。


「まだ、温い!」


 苛つきと怒りを露わにして邪遠は殴り返す。

 悲鳴を上げながらレミはまた無人の建造物に衝突してしまった。人間が建物にぶつかっただけとは思えない、巨大な鉄球が建造物を破壊したかのような大きな音が夜の町に響き渡った。


「お前の炎は温すぎる。熱量も弱い、質も悪い、何よりも技術がない。例えば先程の炎の剣、周囲に余計な炎が漏れていて剣だけに集中していなかったせいで本来の威力が出せていない。炎の形状変化など基礎中の基礎、出来て当たり前だ。そしてお前はそれしか出来ない」


 足が震えているのもお構いなしにレミが立ちあがる。


「火の秘術は他と比べて応用力があまりない。結局のところ高火力の一点突破という結論に辿り着く。だが、だからこそコントロールがお粗末なのは大きな欠点となりえるのだ」


「敵に塩を送る、とか……後悔、するわ、よ……」


 重い瞼を上げて、歯を食いしばって、レミは右手から赤い炎を出して剣を作り始める。蒼炎でないのは単純に体力切れが原因だ。

 火の粉が周囲に散っている炎の剣。それを先程と同じ大炎剣クラスにまで大きくすると真上に掲げて、徐々に小さくしていく。炎を散らさずに、何一つ無駄にせずにレミは通常の炎剣サイズまで小さくした。圧縮された炎剣の周囲には余計な火の粉が散っていない。


収束炎剣(しゅうそくえんけん)


「……成長力とセンスはある、か」


 黒い炎が邪遠の右手から再び出されてレミと同じサイズの剣を作り出す。

 出した炎と熱は全てが剣に集約されている。それでいて作成時間はレミより遥かに早い、全く無駄のない洗練された技術だ。

 二人はもう一度打ち合うべく駆けて自らの持つ炎の剣を振るう。

 衝突した瞬間、赤と黒の混じった爆発が上空へと昇っていった。


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