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第六十八話「本領発揮」

 柔らかな寝台で仮眠をとったアーシャ達は、轟音に起こされる。

 飛び起きたアーシャが窓から見下ろせば、たくさんの魔物が見えた。

 しかし、アーシャ達のいる廃病院には目もくれず、一点を目指して進んでいる。


「けっこう数がいるね」


 後ろからアーシャを抱きしめるように窓を覗くアルバートに、アーシャは問う。


「アル。魔物がどこに向かってるのか分かる?」

「ちょっと待ってね。……転移扉かな。あ、転移扉っていうのは、俺達が入って来た魔方陣のある所のことね」

「でもあれはアルじゃないと作動しないんじゃ……?」

「いいや。作動させるのには膨大な魔力がいるから、実質俺しか動かせないってだけだよ」

「どういうことだァ?」


 シャオラスの声に、アルバートに抱きしめられたままのアーシャはもぞもぞと彼の腕から抜けようともがく。

 しかし、彼と向き合うので精一杯だ。


「一体一体の魔力が相当高いんだ。そうだな……。分かりやすく言えば闘技場で戦った竜族。あれぐらいかな」

「うげ、やべェじゃねぇか」

「あたしたちで、相手できる、気がしない」

「大丈夫、二体ぐらいならルーナ達で対処できるはずだよ」

「そりゃぁつまり、一人では敵わねぇってことじゃねぇか!!」


 スノーが投げやりに叫ぶ。

 どれだけスノーが戦闘狂といえど、力量差のある相手に突っ込んでいくような見境なしではない。


 ――せめて一体ずつ相手できれば……。


 一体ずつ相手をしようしても、横から新手が攻撃をしかけてくるだろう。

 そうなればアーシャ達に勝ち目はないに等しい。


「このままだと魔物が地上に出てしまうわ。アル、なにか方法はないの?」

「ん~、あるにはあるよ」


 アルバートが困ったように笑った。

 彼の表情の意味が分からず、アーシャは首を傾げる。


「魔物を一掃する」

「は? できんのか、アル」

「あぁ、もちろん。でも皆の協力が必要で……。アーシャ達には時間稼ぎをお願いすることになる」

「構わないわ」


 アーシャが頷けば、アルバートは肩をすくめた。


「本当はあんまりこういう役回りさせたくないんだけどなぁ」

「地上に魔物が出たらパニックになるわ。それを回避できるなら、私はなんでもできる」

「さすが。かっこいいね。……じゃあ無茶を言うよ?」

「えぇ」

「魔物を一カ所に集めてほしいんだ」


 アルバートからのお願いに、アーシャは目を丸くした。

 返事がないことに焦ったのか、彼は早口に理由を述べていく。


「俺が魔方陣を地面に書く。そこに集めたら魔方陣を起動させるんだ。そうすれば一気に倒すことができる。魔物の気を引いて連れてくるなんて無茶振りだよね、ごめん」

「はぁ? んなバカデカイ魔法紙なんてどこにあんだよ。てか旦那は魔方陣書かなくても魔法使えるんじゃねぇのかよ」

「一度魔法紙で使えば二度目からは使わなくても使えるんだけどね。使おうと思ってる魔法、一回も使ったことないんだ」

「ふーん、そういうもんか」


 納得したスノーを横目に、アーシャはアルバートに笑いかける。


「それだけでいいのね?」

「だいぶ無茶振りだと思うんだけど……」

「私達を誰だと思っているの? 隠密行動に長けた暗殺者よ」

「元だけどな~。心配すんなよ、アル。こういう小細工はオレらに任せときゃいーんだよ。傷一つ負うことなく完遂してみせらァ」

「まかせ、といて」


 アーシャとシャオラス、ルーナが胸を張る。

 三人の反応にアルバートは安心したような笑みを浮かべた。


「じゃあお願いするね」




 ◇◆◇




 アーシャは建造物が無事な場所では屋根を走り、はたまた崩れ落ちた場所では地上を走る。

 魔物は目がないにも関わらず、アーシャ達の居場所を正確に特定していた。特性(それ)を利用し、つかず離れずの距離を保ちながらアルバートが書いた魔方陣の元へ誘導する。

 最後の一匹をルーナが誘い出せば、魔物はアーシャの元へと進んでいく。


「主、そっちに」

「わかったわ。任せて」


 アーシャが魔物の前に躍り出れば、殺気が肌を刺す。

 懐かしい感覚に臆することなくアーシャはまた建物の上へと飛んだ。

 彼女を追うように魔物が足の向きを変える。


 ――動物的で助かるわ。っと、魔法も飛んでくるから気をつけないと。


 背後から迫る魔力の気配に、その場で跳躍すればアーシャの下を光線のような魔法が通り抜けた。

 空中でくるりと一回転し着地をすれば、苛立ったような魔物の咆哮が迫る。


 ――さてと、仕上げね。


 アーシャは怒りのままに突っ込んでくる魔物に向き直り、もう一度跳ねた。

 魔物の上を通り、眼前から背後へ回る。

 華麗な着地を決め、笑みを浮かべてカーテシーを行う。

 魔物はそのままアルバートが用意した、外側からは入れるが内側からはでれないという魔法の壁の中へと突撃していった。

 最後の一匹が入った瞬間。地面に書かれた魔方陣が起動した。

 またたく間に魔物達が凍り付き、アーシャは安堵の吐息を漏らす。

 アーシャは魔方陣の近くにいるであろうアルバートの元へ降り、氷の塊を見上げる。


「上手くいってよかったわね」

「そうだね。皆に怪我なく終わってよかった」

「ちょっとは安心したかしら? 確かに私達はアルより弱いかもしれないけれど、一般人と比べたらとっても強いのよ」

「ふふっ、そうだね」

「……それで、まだ何か引っかかってる顔ね」


 納得のいかない顔をしているアルバートに、アーシャは首を傾げる。


「いきなり統率のとれたような動きをしはじめたのかと思ってね」

「……たしかに。今までの魔物は単独行動ばかりだったわ」

「そう。だから何か原因が――


 アルバートの言葉を遮るように、氷の塊が弾けた。

Copyright(C)2024-藤烏あや

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