閑話『✕✕より』
前略 探究心の止まない君へ。
別れの言葉も伝える事が叶わず、心苦しく思う。
短い間ではあったが、私達は間違いなく幸せだった。
だからどうか、自分を責めないでほしい。
そして、もしこれを見つける事が出来たのならば、私は君に謝らなければならない。
全てを君へと返す前に別れの時が訪れてしまった事を。
どれだけの時間がかかっても構わない。絶対に成し遂げて見せる。
君へと返さなければ、私は死んでも死にきれないだろうから。
その上で、私は忠告をしなければならない。
ムネモシュネの加護を手にする、その前に。
それを手にすれば、二度と引き返すことは出来ないと。
手にした君は、戻れないと知り絶望するだろうか。それとも、あるべきものが戻って来たと安堵するだろうか。
私には分からない。
二度と会えないと悟った私の自己満足ではあるが、
せめてもの償いに、ここに記す。
君は誰よりも勇敢で、優しい子だ。私は君を誇りに思う。
気持ち悪がられると思うが、本当の子のように愛していたよ。
不悉
追伸
願わくば、君の心を蝕む闇を照らし導いてくれる、素敵な人と出会えますように。
男が分厚い本を閉じる。
本を閉じた勢いで、中にあった長方形の紙が一枚はらりと床へ落ちた。
その紙の中で、神秘的なコバルトブルーの瞳を持つ黒髪の少年と、絹のような銀色の髪をした赤目の少女が屈託のない笑顔を浮かべていた。
魂を抜かれたように繊細なそれを拾い上げた男は、もう一度本に挟む。
口元に笑みをたたえながら、静かに、満足そうに。
第二章、これにて完結となります。
次回からは第三章です。
もしよろしければブックマークや下の☆から評価していただけると嬉しいです。
これからも『公爵令嬢の裏稼業』をよろしくお願いします。
Copyright(C)2022-藤烏あや