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第三話『冒険者達』

 アルバート・ミトラが魔法を使えると分かってから一週間。

 アーシャは彼を要注意人物として、随時監視対象から二十四時間監視対象に格上げすることにした。

 ジリジリと焼かれそうな太陽に顔をしかめれば、路上では飲食店の客引きが大声で叫ぶ声が聞こえる。

 彼女は今、アルバートを尾行中で帝都の街を歩いていた。

 今回は彼に接触することも無いだろうと、彼女はシミ一つない真っ白な服に身を包んでいた。これは彼女の仕事着で、夜に行動することの多い仕事には似合わない色をしている。夜の闇に溶け込むことも無く、雪のように白い色は、自信の現れでもあった。


「主観と客観では見える人物像が違う……か」


 その言葉はアーシャの父のものだ。

 当初は一人で四六時中監視をしようとしたアーシャを見かねた父は、そう助言をした。

 そして、その教えを守ったアーシャは数日前から、アルバートを二人がかりで監視している。


 この数日で、彼の冒険者仲間が増えた。


 一人はアーシャの右腕であるルーナ。

 彼女はくせっ毛で、プラチナブロンドの髪を肩より少し下まで伸ばしており、前髪で目を隠している。

 アルバートに仲間意識を持ってもらうため、彼の服装に近い物を用意した。ただ、元々の仕事着が似通っていたため、あまり変わっていない。武器ですら同じだったが、彼女の刀の方が刃渡りが十センチ短かった。


 もう一人は、アシンメトリーな前髪と白みを帯びた緑色のタレ目が印象的な好青年だ。名はカルミア。

 彼の髪色は、この国で忌み嫌われる黒色に近い色をしている。よく見れば、その色が暗い藍色をしている事がわかった。目立つその色を隠しもせず、長い髪を無造作に後ろで束ねている。

 彼はシャツの上に、裾が長く袖丈も長い羽織を太めのベルトで止め、サルエルパンツに似たズボンの裾をブーツに挟み込んでいた。

 彼は剣士らしく、腰に帯刀している。メインの武器にしては刃渡りが三十センチほどしかなく、見ているこちらが心もとなく感じてしまう。


 現在、アルバートの冒険者ランクは最低ランクのE級だ。

 今まで彼は一人で依頼を受けていたが、ランクを上げるためには、パーティーを組まなければならない為、いまだにD級への昇格をしていなかった。

 一般の冒険者は、昇格するための一時しのぎにパーティーを組むのがほとんどで、昇格したらパーティーを解散する。そしてA級へ昇格するまでには、相性のいい固定のパーティーを見つけるのだ。

 アルバート達のパーティーはパッと見、近接武器の使い手しかいないように見える。

 そのため、三人で訪れた冒険者ギルドで一際目立っていた。

 アーシャは彼らの次に入った冒険者と一緒にギルドに入り、端にある椅子に座って彼らの様子を伺っている。

 基本的に、魔獣は遠くから狩るもので、近接武器は一番命の危険が伴う。

 一般の冒険者であれば遠距離の花形武器、弓や銃を使いたがるのだが、彼らのチームには遠距離武器の使い手がいない。

 良くも悪くも癖の強い者同士が集まったようだ。


「はい。では、今回の依頼を達成すればミトラさんはD級に昇格します。本来であれば、試験官が着くのですが、カルミアさんがB級のため、試験官は付きません。よろしいですね?」


 受付嬢が笑顔で確認する。


「わかりました。カルミア。すまないな、ランクを上げるのに手伝ってもらっって」

「いいってことよ! 旅は道連れ世は情けって言うだろォ?」


 豪快に笑うカルミアがアルバートの背中を叩く。離れた位置にいるアーシャの耳にもバンバンと叩く音が聞こえ、痛そうだと他人事のように思った。

 一方、ルーナはその様子を苦笑いで見ていた。ルーナの目にも痛そうに見えたようだ。

 ルーナは低めの音色の、ゆったりとした口調で声をかける。


「あたし、近道知ってるよ。早く行こう?」

「お、マジか! 頼りになるなァ!」


 ルーナがカルミアの服を引っ張り彼の気を引けば、カルミアは彼女の頭の上で手を軽く弾ませた。あまりに軽いスキンシップにルーナが固まっている。


「そうだな。ルーナ、お願いできる?」


 アルバートは自らの顔の良さを理解しているようで、貴婦人が喜びそうな、愛嬌のある微笑(えみ)を口元に(たた)えて問いかけた。

 彼女はもちろんと喜びを全面に押し出したように微笑む。

 ルーナは部隊の中でも演技派で、標的の懐に潜るのが得意だ。それだけでなく、気配にも敏感で、暗殺の腕も申し分ない。

 改めてアーシャは、ルーナを使えるようにと願った過去の自分を褒め称えた。

 彼女がいなければ、中と外、両方の面からアルバートという人物を推し量ることができなかっただろう。

 彼らがギルドから出たのを見計らって、アーシャは簡単な依頼を受ける。

 腐っても城郭(じょうかく)都市なため、貴族であっても自由に出入りすることはできない。国からの書状があれば、こんな回りくどいことをしなくても済むのだが、書状はまだ届きそうになかったので、こういう手段で外に出るしかない。


「さっきの彼、見ない顔だったね。新米? 遠距離武器持ってる人がいなかったけど、大丈夫?」


 さも心配していますという顔を作ったアーシャが問えば、世間話だと思ったのか受付嬢は大丈夫ですよと頷いた。


「付き添いのカルミアさんもルーナさんも高ランクですし、いつもの昇格試験ですから」


 D級の昇格試験は、状態の良い薬草を持って帰ること。量は指定されておらず、一つでも持って帰ることができれば良いという、なんともやりがいの無いものだ。

 ランクが上がるにつれて昇格試験は難しくなるので、最初はそれぐらいのほうが釣り合いは取れるかもしれない。


「そうそう、今日はS級への昇格試験があるんですよ! 最近力を付けてきた、若い冒険者の四人組なんですけどね。将来有望な子たちがたくさんいるって素晴らしいわよね」

「ええ、そうですね。では私はこれで。依頼に行ってきます」


 話が長引きそうになり、アーシャは慌てて話を切った。

 そんな様子に彼女は笑って「ミトラくんの追っかけ? 彼、顔が凄まじく良いものね。頑張って」と斜め上の言葉を紡いだ。「そんなんじゃないですよ!」とアーシャが頬を膨らませて見せれば、彼女はますます笑みを浮かべる。

 女性は、恋する乙女は応援したくなるようだ。その効果を使って少しでもアルバートの情報を引き出せる環境を作っていくことも仕事だ。


「もう! からかわないでください。行ってきます!」


 そう言ってアーシャはアルバート達を追うようにギルドの外へ駆け出した。

Copyright(C)2021-藤烏あや

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