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閑話『騎士団長の憂鬱』

レモラ視点。

 騎士とは。

 弱きを助け、導く者。

 強く、正しく、正義の心を持つ者。


 憧れてやまなかった騎士は、騎士ではなかった。

 騎士としての矜持を持つ者などいなかったのだ。

 いつしか夢は崩れ去り、貴族出身の騎士に目を付けられないよう、淡々と業務をこなす日々。

 このままでは駄目だと理解していても、力のない入団一年目の自分では影響力がない事も同時に理解していた。

 だからこそ、手回しだけは怠らなかった。

 平民出身の騎士達から支持を得られるよう、同期がやらかした時は庇い、先輩には気に入られる為、弟のような距離感で接し、憎めないキャラとして居場所を築き上げた。

 貴族出身の騎士達はガードが硬かったが、進んで媚びへつらえば喜んでレモラを傍に置いた。

 全ては、より良い未来の為に。


 ──正しい道へ導かなければ。いつか、必ず。


 そう誓った日から三年が経ち、レモラは騎士団長に任命された。

 十五という歴代最年少での騎士団長就任。

 今までは貴族の中から選ばれた者が騎士団長に就任していた。だが、今回は宰相が押し通したと、風のうわさで聞いた。

 宰相には皇帝も頭が上がらないのだとも聞いた。

 どうやら宰相は相当なキレ者らしい。

 そんな上層部の思惑など、レモラには関係がない。

 騎士団長になれば、内部から変えられるのだから。

 嬉々として役職を拝命したが、待っていたのは貴族出身の騎士達からの反発だった。

 彼らは自分達の地位を脅かすことがないと、高を括っていたからこそ、レモラを傍に置いていたに過ぎなかったのだ。

 平民出身の騎士達は先輩後輩関係なく応援してくれていたが、これでは内部分裂が起きかねないと、期限を設ける事となった。


 期限は五年。


 その期間内に、目に見えた成果を上げること。

 それがレモラに課せられた条件だった。

 彼にはその条件を飲むしか騎士団長になる道は残されておらず、渋々頷いたのだった。



 それからしばらく経ったある日、レモラは騎士団長として円滑に仕事をこなすため、副団長と取引をした。

 それは貴族出身の副団長が実権を握っているように見せかけるという、あまり進んでやりたくなかった事だ。

 だが、貴族出身の騎士達の反発は予想以上に大きく、こういった対策を取らねば仕事すらしないという無能っぷりだった為、仕方がなかった。







 レモラが騎士団長に就任して三年が経った。

 目立った実績を残せず、レモラに少しの焦りが生まれ始める。

 そんな時だ。

 執務室にわざわざ足を運んできたアザミ宰相が、


「召喚者の監視をしてほしいんだ。いいかな?」


 と言葉を紡いだのは。

 召喚者とは、一ヶ月前に現れた人物の通称だ。

 レモラの記憶が正しければ、なんでも最近E級から飛び級でS級冒険者に昇格したと話題の人物だ。

 そんな人物を監視しろという任務。

 到底信じられるものではなかったが、上層部の決定ならばレモラに拒否権はない。

 アザミがソファへ腰掛け、レモラがお茶を入れてローテーブルへ配膳する。

 彼は席につくなり純粋な疑問をぶつけた。


「どうして僕か、お伺いしても?」


 本来なら、皇帝直属の影が監視するものなのではないだろうか。


「もちろんだとも。君の世界を広げる手助けになればと思ってね」

「……どういう事です? お言葉ですが、騎士団長として後二年で実績を残さねばならないという時に、やるべき事とは思えません」


 アザミは笑みを深めて頷く。


「今だからだよ」

「今だから……?」

「そうだ。これを終えれば、君の目指す平和な国が実現できるだろう」


 彼の銀色の瞳に迷いはなく、まるで未来を知っているかのような口振りだ。

 少し違和感を感じつつもレモラは頷いた。


「わかりました。その任務、拝命致します」

「召喚者を排除すべきだという声も上がり出している。君には彼の仲間になり、内部から監視して欲しい」

「はい。承知しました」


 出る杭は打つべし。

 それを地でやらせようとするのは、皇帝だけだろう。

 皇帝は自分より目立つ人物が嫌いなのだ。

 自身を守る盾であるレモラにすら恨みがましい視線を向けてきた事があった。

 嫉妬や執念深い皇帝は、いつか足元を掬われるだろう。


「それじゃあ、私は失礼するよ」

「はい。僕も準備ができ次第任務に就かせて頂きます」


 ソファから立ち上がったアザミに、レモラは立ち上がり敬礼を送る。

 彼の背中を見送った彼は任務に取り掛かるため準備を始めた。

Copyright(C)2022-藤烏あや

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