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公爵令嬢の裏稼業  作者: 藤烏あや@『死に戻り公女は繰り返す世界を終わらせたい』発売中
第一章『召喚者と暗殺者』

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第二十一話『迷いの森』

 港町での事件からすでに三週間経っており、普段の生活を取り戻しつつあるアルバート達に、指名での依頼が入った。

 S級の、それもアルバート達のような実力のある者を指名する理由は色々あるが、基本的な理由は腕っぷしが必要な依頼だからだ。

 そう高を括って訪れたエスカ村で彼らが依頼内容を聞けば(その依頼は現地でのみ内容を話すという契約だったらしい)、一週間前に迷いの森に入ってしまった子供を探して欲しいという。

 アルバート達なら迷いの森に入っても生きて生還するだろうと考えた村人が、彼らに依頼をしたようだ。

 一週間も帰って来ないのなら、望みは薄いと誰もが理解しているのだろう。村人達の顔は皆暗い。

 魔物もそれなりにいる森の中。遺留品が見つかれば御の字だろう。

 受けた依頼を反故するわけにもいかず、アルバート達は噂の絶えないその森に、足を踏み入れることとなったのだ。



 ◇◆◇




 迷いの森。

 それは帝国の南にあり、その森に立ち入れば二度と帰ってくることが出来ないほどに深い森に付けられた名だ。


 行方不明。失踪。神隠し。


 迷いの森は時にそう呼ばれ、人々はその現象を恐れた。

 それから月日が経ち、森に入る事すら禁じられ人の手が加えられなくなった木々は、より複雑に、より大きく成長し、足を踏み入れることすら畏怖する風貌に様変わりしていた。

 太陽が昇っている時間だが、広葉樹と針葉樹が入り乱れて生息しているせいで、中まで光が届かず、方向感覚すら分からなくなるような深い森。地面には苔が生え、足場も良くはない。


「確かにこれは怖いな」


 そう言ったアルバートが苦笑すれば、カルミアやルーナ、レモラが同意する。

 アーシャはそんな彼らの様子を木の上から眺めていた。

 いまだにアルバートを殺す機会には恵まれないが、この深い森の中であれば、きっと機会があるだろう。

 

「シェルクくんでしたっけ。一週間も経っていれば、生きている可能性は少ないでしょうね」


 村では口に出さなかったが、皆が思っていたことをレモラが口に出した。


「まぁだろうな。さっさと済ませようぜ」


 頭の後ろで腕を組み、面倒くさそうにカルミアが答えた。同じくルーナもレモラの言葉に頷いている。


「カルミア……唇、切れてる」

「へ? あァ、大丈夫だ。心配してくれてありがとな」


 ルーナの頭を撫でたカルミアの唇は切れた跡があった。


 ――唇を噛み締めたような跡ね。


 アーシャは昨日まではなかった傷跡を見て、そう感じた。


「つーか、喉乾いたなァ」

「確かにそろそろ休憩したいところです」


 彼らのやる気はどん底にあるのだろう。いつものような覇気が感じられない。


「こっち、水辺がある」


 空気の変化に敏感なルーナが、水源を見つけたようだ。

 彼女の言葉に、先に水分を補給することにした彼らは、ルーナを先頭に水辺へと足を運ぶ。

 水辺は意外にも開けた場所にあり、上から下へと流れ落ちる水を陽の光が照らしていた。

 滝の下には大きな楕円形の泉があるが、川が不全にせき止められている印象をアーシャは受けた。彼女が森の木々の上から泉を見下ろしているからこそ、気付けた違和感。

 暗がりばかり歩いていた彼らが、眩しそうに目を細め、明るさに慣れてきた者から泉の水へと手を伸ばす。

 つかの間の休息を楽しんでいたアルバート達だったが、片膝を地面につき水を飲んでいたアルバートが、何かを感じ取ったかのように顔を上げ、目を森の奥へと向けた。


「アル、どうした?」

「……案外、生きているかもしれないぞ」

「は?」


 笑みを浮かべたアルバートは、立ち上がり森の奥へと行くことを宣言した。

 カルミア達は訳がわからないといった顔をしていたが、アルバートの勝ち誇ったような笑顔に着いていくと決めたようだ。

 先程までとは打って変わって、森の中を大股に、早足で進むアルバート。

 森の奥へと進むに連れ、獣道とは言い難い、草木が生えていない通り道のような場所にたどり着いた。


「ビンゴ」

「おい、アル。一人で納得してるんじゃねェよ。ちゃんと説明しろって」

「そうですよ。アルバートさん」


 男達の集中砲火にあい、アルバートはさらに森の奥へと指を指した。

 カルミア達は彼の指を目で追うように、顔を森の奥へと向ける。


「カルミアなら見えるんじゃないか?」

「……そうだな」

「なにが、見える?」


 険しい顔をしたカルミアが軽い身のこなしで、木登りを始めた。

 それは木登りと言うには少し、いやかなり、規格外の動きだ。

 カルミアは近場の大木に向かって、走り出す。助走をつけ地面を蹴り、大木へと跳んだ。

 彼の跳躍で軽々と届いた木の枝を踏み台にしてまた跳び上がる。更に上の枝を両手で掴み、跳び上がった勢いに任せ、枝を軸に回転して宙を飛ぶ。そして太めの枝に着地すると、そこからは自身の跳躍力を駆使して木の頂上まで一気に上り詰めた。

 頂上まで上り詰めた彼は、視線を落としアルバートが指を指した方向をじっと観察し始める。

 大きなため息をついたカルミアが、木から飛び降りた。地面から空高く離れているはずの場所から飛び降りた彼は、勢いもそのままに着地して見せた。流石は亜人だと感心してしまう。


「村がある」

「こんな、森の中に?」

「あぁ。ま、集落って言ったほうが適切だけどなァ」

「では、そこにシェルクくんがいると?」

「断言はできねェが、可能性は十分高いだろうな」


 村の場所を把握したカルミアが、アルバート達を先導し村へと続く道なき道を進む。草木の生えていない、いかにもな道を外れ、正規ルートではない場所から集落に入る腹積もりのようだ。


「アル」

「ん?」

「……いや、やっぱ、なんでもねェ」

「何か悩み事があるなら聞くぞ?」

「気が向いたらな」


 アルバートとカルミアがそんな会話をしているうちに、彼らは集落へとたどり着いた。

 そこにある建物は異質で、壁すらも木で出来ているようだ。石を組み上げて造る文化であるはずの帝国において、木で出来た家はとても珍しい。

 森に擬態するような外観の建物が立ち並ぶ様子に、アーシャは圧巻されてしまう。

 アルバート達が村へと足を踏み入れると同時に、鈴の音が聞こえた。獣避けだろうか。村への侵入を知らせる代物なのは間違いないだろう。

 家の内部構造が分からないため、屋根裏等に忍び込めそうにもない。アーシャはため息をついて、彼らを村の外から見守ることにした。


 騒然とした村人達が、アルバート達を取り囲むようにして立ちふさがる。

 村人達は皆、思い思いの武器を携えて集まってきたようで、手には鎌や(くわ)、弓など様々な物を持っていた。

 その様子に、獣が村に侵入した際には大勢で防衛をしてきた事が伺える。


「ずいぶんな歓迎ぶりだな」


 アルバートがそう言えば、村人達は驚いたように肩を揺らした。口も聞かずに襲いかかってくると思ったのだろうか。


「僕たちはシェルクという子供を探しに来ました。しがない冒険者です」


 レモラが人の良い笑顔で冒険者ライセンスを村人に見えるように掲げた。

 冒険者ライセンスはB級以上に与えられる、身分証明書だ。これがあるのとないのとでは、信用度が違う。


「っ、失礼しました」


 村の長と言うには若い男が指示すれば、武器を下ろす村人達。その様子を無言で見守っていたアルバートが口を開く。


「ここにはライセンス持ちしかいない。安心してほしい」

「ということは、正式な依頼でいらしたと?」

「そういうことになる。シェルクという少年はここにいるか?」

「……おります。ですが、帰すわけには参りません」


 男の言葉に、カルミアが鋭く睨みつける。いつもならニコニコと笑って理由を問うであろうカルミアの短気な行動に、他でもないアルバート達が驚いた。その様子を見ていたアーシャも十分驚いたが。

 今にも男に掴み掛かりそうなカルミアをアルバートが制し、「どういうことだ」と男に問う。


「彼は気づいてしまったんです。この国の異常さに」

Copyright(C)2021-藤烏あや

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