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第7話 脅威の疫病の足音

「けほっ、けほっ」


 鍛錬場で魔法の練習をしていると、騎士団の方で咳をしている音が耳についた。


「なんだ? 風邪か? 騎士のくせにだらしない」

「め、面目ないです」

「あー、悪化する前に今日は休め」

「すんません、隊長」


 まあ、そういうこともあるか、なんて。

 この日は気にも留めなかった。



「けほっ、けほっ」


 その次の日もまた、鍛錬場で咳をしている騎士団の声が耳に入ってきた。


「なんだまだ治してねえのかぁ……っておいおい。今度はお前らそろいもそろってかよ」

「申し訳ございません。衛生面では気を付けていたのですが……」

「あーわかったわかった。他の奴らにうつす前に失せろ」

「すんません、隊長」


 なんだか、嫌な胸騒ぎがする。

 この状況に、既視感を覚える。


 でも、まさか。

 前世と比べて、早すぎる。



「……おいおい、まじかよ」


 その翌日は、騎士団のほとんどがノックダウンしていた。死屍累々の兵士を前に、騎士団長が唖然としている。


「す、すみません。容体を確認させてください!」

「あんた……聖女候補の」

「アイーシャです。失礼いたします」


 断りを入れ、患者の診察に取り掛かる。

 開いた瞳孔、かなり早い脈拍、高熱。

 そして何より、この感染力。

 まさか、まさか。


「ルート・セプテム……!」

「な、ルート・セプテムだと!? ルート・セクスが60年前に起こったばかりじゃないか!」


 ルートとは、およそ100年周期で流行する、この土地特有の病気である。その6回目は6(セクス)と呼ばれ、7回目の今回は7(セプテム)と呼ばれる。


 騎士団長が言った通り、前回のルート感染が起こったのがおよそ60年前。ルートの周期としてはあまりにも短い。


 そして、それが原因で、前世では対応が遅れた。

 本当にルートなのかどうかを議論している間に、国中に感染が広まってしまったのだ。


「っ、今すぐ患者の隔離を!」


 まずい、まずいまずい。


 ルートの流行まで、あと2年はあるものだと思っていた。

 私はこの病を治癒するだけの癒術をまだ使えない。


 どうする、どうすればいい。


 ……怠慢だ。

 私の怠慢だ。


 どうして前世と同じタイミングで発生するなんて楽観視していた。

 政策をはじめとして、この世界は前世で私が体験したのと違う過去を辿っている。

 前回起きたことが起こるとは限らないし、同じタイミングで起こるなんて保証はなおさらない!


 今、私にできることは――




「陛下! ルート・セプテムが発生した可能性がございます!!」


 私にできる、もっとも大事なことは情報の共有だ。

 私がただの穢れた血なら、声を国の上層部に届けることはできなかった。

 だけど今生では聖女としての地位がある。


「アイーシャ嬢? 何を言い出す。ルート・セクスが60年前。セプテムが来るにはまだ早い」

「しかし! 現に騎士団ではルートと同じ症状が起きています!!」

「ルートと似た症状の病は存在する。今回もおそらくそれじゃろうて」

「ち、違います! これは間違いなく――」

「……アイーシャ嬢よ。お主は聡明だ。現に、お主の言葉で国は何度も救われてきた」

「で、でしたら私の言葉に耳を傾け――」

「じゃが、アイーシャ嬢はルートの恐ろしさを見たことが無いじゃろう」

「……っ!!」


 ……そうか。

 そうなるのか。


(違う、私は体験している。ルートの恐ろしさを、前世で知っている)


 でもそれは、あくまで私の主観での話だ。

 客観的に見れば私はたかが13の娘。

 60年前に起きたルートの被害を知る由は無い。


 どうする。

 どうすればいい。

 どうすればこの話を信じてもらえる。


「陛下! ご報告です!!」


 その時だった。

 銃声のような音とともに謁見の間の扉が開かれて、王家お抱えの飛脚が息を切らしてやってきた。

 彼が息を切らしているところを、初めて見たかもしれない。


「何事じゃ!」


 陛下もまた、彼が肩で息をする様子を見るのは初めてだったようで、声を荒げて詰問した。

 飛脚の彼は手で汗を拭った後、息を一つ吸い、それから口を開いた。


「王都、およびキンペ村で、正体不明の疫病が流行り始めています!」

「なん……じゃと……?」

「特徴は開いた瞳孔、早い脈拍、高い体温。そして……強い感染力です」

「……まさか。ありえん。あれが流行するには早すぎる」


 ダメだ。

 陛下はルート感染の事実を受け入れられない。

 国に任せていたら、手遅れになる。


「飛脚さん」

「あなたは……たしか聖女候補の」

「アイーシャと申します。飛脚さん、人を乗せて走ることはできますか?」

「できねえでもねえが、アイーシャ様、あんた何をする気でい?」


 何って、決まってる。


「私を、キンペ村に連れて行ってください」


 取り戻すんだ。

 あの日失った、希望を。


「待つんじゃ! アイーシャ嬢! お主が行って何になる! もし本当にルートなら、お主にできることは何もない! 歴代聖女ですらどうすることもできなかったのじゃぞ!!」

「それが、どうしたんです?」

「わからぬわけではなかろう!! 聖女がいなければ国は立ち行かなくなる! 聖印を持つお主を失うわけには――」

「これはあくまで個人の意見ですが」


 陛下の言葉を遮った。

 私のささやかな反抗に陛下が瞠目する。


「わが身可愛さに国民を蔑ろにする国なんて、滅んでしまえばいい」


 勘違いしないでほしいが、私はこの国が嫌いだ。

 それでも国政に口を出していたのは、きっと生きているはずの母のためだ。

 その母を見捨てようとするのなら、私はこの国を見捨てる。


「では飛脚さん。お願いします」

「ははっ、あんた、最高だな。よし! 竜より早いとうたわれた俺の足、とくと目に焼き付けな!!」


お読みいただき、ありがとうございます!


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