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ENDING  作者: るるの
ENDING
9/53

9 夕焼け

 むすびがにっこりと笑って、ゆっくりと私達に近付いてくる。

「なんで……?」

 昨日の出来事もあって、私は少しむすびを警戒した。

「弓槻さんまで。どうしてこんなとこに居るのぉ?」

 むすびは人差し指を頬に添えて小首を傾げる。

「むすびこそどうして?方向逆でしょ……」

「私はね?おーい、水純ちゃん!」

 たたた、と校門の向こう側に立っていた女の子へ駆け寄っていくむすび。その子ははっと顔を上げて、嬉しそうにむすびに手を振った。

「むすびちゃん……!」

 どういうこと???


「この子達は同じクラス弓槻さんと親友のりんねちゃん!こっちは城雲高の戸川水純(とがわみずみ)ちゃんだよ!」

「親友って」

 満面の笑みを浮かべるむすびが、丁寧に私達を紹介してくれた。戸川さんは小さくお辞儀をしてくれたけど、顔を引き攣らせていて私と目を合わせようとしてくれない。

「まぁ、よろしく、ね?」

 気まずい空気の中、私はそう言っておいた。

 そして確信した。

 この子が、飛び込み自殺をした子達の魂を売った張本人だ。そして、この子のブログに書いてあった「友達」は、むすびだ……。


 私達は何となく、むすびと私、戸川さんと弓槻で肩を並べて歩いた。

「ちょっと、何でそんなくっつくの」

 むすびがぐいぐいと体を押し付けてくる。

「だってりんねちゃん大好きなんだもんん」

「いや、普通戸川さんと弓槻二人っきりにしないっしょ……」

 私達の後ろを歩いている戸川さんと弓槻はさっきから一言も言葉を発していない。それがすごく気まずい。むすびは戸川さんと友達なんだから二人でくっついてほしい。

「でもびっくりだなぁ。まさか水純ちゃんの学校にりんねちゃん達が来るなんて」

 どき、と心拍数が跳ね上がる。

「ま、まぁ、ね?」

 乾いた笑いを漏らす。

「せっかくだから四人で遊ぼうよぉ?」

「え!?」

 いきなり戸川さんが叫んだものだから私は思わず前に転びそうになった。

「なぁに?嫌なの?」

 むすびがちらりと振り返って戸川さんを見る。

「でも、そしたらあの人に会えなくなっちゃうよ……?」

「いいのいいの!りんねちゃんとせっかく会えたんだから遊びたいもん」

「う、うん……。ならいいけど……」

 戸川さんは納得出来ないようだ。俯いてしまった戸川さんを、弓槻がちらりと横目で見ていた。


 やっぱり、戸川さんはあのブログの女子高生で、今日魔女に会わせようとしていた友達はむすびだ。

 でもこんな偶然ある?と言うことは、むすびは魔女の秘密を知っているってことになる。そして、戸川さんが何十人もの命を犠牲にして魔法の力を手に入れたことも。うちのクラスが売られたのを知っているかは定かではないけど。

 隣で鼻歌を歌いながらスキップするむすびを見る。

 戸川さんとむすびをこのまま放っておくわけにはいかない。戸川さんはきっとむすびを巻き込もうとしている。

 何としてでも、止めなきゃ。


 私達は大通りに出た。するとむすびが大きなビルを指差す。

「ここ入ろぉ?」

「あ、カラオケ!」

 ずっと無言だった戸川さんが嬉しそうにそう言った。そう言えば、ブログにカラオケに行きたいって書いてあったっけ。

「……じゃあ、入るか」

 ビルに入ろうとすると、弓槻にシャツの裾を引っ張られた。

「ちょっと。」

「りんねちゃん?」

 むすびが振り返って私達を見る。

「ごめん、先入ってて。」

 私がそう言うと、むすびは「先受け付け済ませとくね〜」と言って、戸川さんの腕を引っ張りながらビルに入っていった。


「なんだよ」

 弓槻は私の胸ポケットを指差して、

「あの子のアカウント、開いてみて。」

 そう言った。

 言われるままにTwitterを開いて、戸川さんのアカウントを見る。

「!?」

 すると、さっきまでなかったツイートが一番上に表示されていた。


『なんかいきなり友達の友達が来て一緒に遊ぶことになった。何で邪魔するんだろう。あの子達も消しちゃいたいなぁ』


「これって、私達のこと?」

 スマホを持つ手がぶるぶると震える。

「いつの間にツイートしてたんだよ……」

「さっきあなた達が話してる時、あの子がスマホを弄ってて、少しだけ画面が見えたの。きっとその時ね」

「はぁ……マジかよ」

 完っ璧に嫌われてんじゃん。怪しまれてるってわけじゃないみたいだけど、どうやら私達を消そうとしてるみたいだ。

「魔女に殺される前にあの子に魔法で殺されるんじゃないの?」

 はははと乾いた笑いが出る。

「これ以上近付くのは危険かもしれない。今日はとりあえず帰りましょ」

 弓槻はそう言うや否や、私の返事も聞かずに大通りへ戻っていく。

「ちょ、待てよ、無言で帰るとか非常識だろ!」

 私はどんどん遠ざかっていく弓槻を追い掛けながらスマホを取り出し、むすびに電話をかける。

「もしもしむすび?ごめん、弓槻が急用思い出したみたいだから私らは帰るわ」

『えー?何でりんねちゃんまで帰っちゃうのぉ?一緒に歌おうよぉ』

「いや、ちょっとそれは無理かな」

 適当に言い訳すると、むすびがはぁっと溜め息を吐いた。

『……せっかくここまで来たのに戻っちゃうんだね。』

「……え?」

 心臓が凍り付く。そんな私を弓槻が横目で見てくる。

『……まぁいいや。また今度遊ぼぉ?りんねちゃん』

 むすびはそう言うと、私が何かを言う間も与えずに通話を切った。


「……まただ」

 また、一瞬だけむすびがむすびじゃないみたいだった。何なんだろう、その時のむすびは、まるで全てを知っているみたいな感じだ。

 ……まさか、全部知ってるのかよ。

 私は弓槻の肩を掴んだ。

「ねぇ!仲良いとか友達だからとかどうでもいいから、昨日むすびと何があったのか教えて!」

 弓槻がゆっくりと振り返る。そして私をじろりと見上げた後、ゆっくりと視線を外す。

「……話して何になるの?」

「またそれかよ。最初は話してくれるつもりだったんでしょ?だったら話してくれてもいいじゃん」

「でも」

 まだ話そうとしない弓槻に流石にイラッときた。

「一人で解決なんて出来る訳ないでしょ!」

 私がそう叫ぶと同時に、信号が青になる。

 弓槻がばっと顔を上げる。顔を真っ赤にして静かに震えている。……あからさまに怒っている。細く形の綺麗な眉毛は吊り上がり、元々細長い目は更に細くなり、桜色の唇を噛み締めている。こんなに感情的な弓槻の表情を見るのは、初めてだ。

「あなただったら出来ないでしょうね。」

「何だよそれ、どういう意味だよ!」

 私は思わず弓槻の肩を掴んだままの手に力を入れる。

「……痛い」

 弓槻はそっぽを向きながらそう言う。私は無言で手を離し、鞄からルーズリーフを取り出し、端の方をちぎる。

「何してるの」

 無視してペンを走らせる。そしてそれを弓槻の手に無理矢理握らせた。

「これ、私の連絡先だから。あんたLINEとかやってなさそうだし」

「いらない」

 弓槻はそれを私の胸に押し付ける。

「いいから持ってろよ!何でそんなに他人に頼ろうとしないんだよ!」

 ムカつく。

「他人に頼って、失いたくないのよ」

 弓槻は透明な瞳で私を見上げた。そしてそう言うと、すたすたと信号を渡っていってしまう。

 追い掛けようとしたけど、信号は赤に変わってしまった。

 通り過ぎる車達の隙間から見える弓槻の後ろ姿は、小さくなり、やがて見えなくなった。

「……何をだよ」

 最後の言葉がやけに気になったけど、あそこまで言うなら、弓槻が一人で解決すればいい。あんなに大口叩いたんだから、相当な自信があるはずだ。そんなに自信があるなら、さっさと解決して私達を助けてよね。

「かーえろ」

 ……ムカつく。

 私はポケットからイヤホンを取り出して、最大音量で好きなバンドの曲を流した。

 夕焼けが、痛いほど赤い夕焼けが、私を見下ろしていた。

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