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ENDING  作者: るるの
ENDING
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5 失う怖さ

 沙里と珠夏が死んでから三日後。

 休校が終わり、またいつもの日常が始まった。

 電車もいつも通り動いた。

 いつも通りの、朝だった。


 学校に入ると、ちょうどクラスメイトがローファーを脱いでいるところだった。この子は確か、綾瀬(あやせ)さん。

「あ、おはよ」

 特に親しいわけでもないし入学式後に少し話した程度の仲だったけど、無言で通り過ぎるのも気まずいような気がして、何となく挨拶をした。

「…………」

 が、綾瀬さんは泣き腫らしたような真っ赤な虚ろな目で私の胸元を見ただけで、何も言わずに階段を上がっていってしまった。

 ……そうか。あの子は沙里や珠夏と仲が良かったんだ。

 無視されたことに対する怒りの感情は全く浮かんでこなかった。代わりに、大切な人を失ってしまう恐ろしさを知らしめられた気がした。


 教室に入ると、先に来ていたしみずが駆け寄ってきた。

「おはよう、りんね」

「おはよ。休みの間、大丈夫だった?」

 しみずは頷いて、心配そうな顔で、机に突っ伏している綾瀬さんに視線を向けた。

「無理して学校来たのかな。」

 必死に声を押し殺しているようだけど、思いっきり漏れている。さっき会った時目が真っ赤だったのは、やっぱり休みの間もずっと泣いてたってことか。

「大事な友達が死んじゃうなんて、耐えれないに決まってるよね」

 しみずがぎゅっと私の手を握ってきた。

「……そうだね」

 私も握り返した。


 授業が始まっても教室はお通夜状態だった。どの教師もどこか憔悴しているように見えた。

 暗い雰囲気のままお昼休みになり、私としみずはいつものように対面してご飯を食べていた。

 教室では誰も言葉を発していない。私達も何となくその空気に合わせて、無言で咀嚼する。


 ちらりと弓槻の方を見ると、立ち上がって教室から出ていくところだった。

「っあ、」

 思わずつられて立ち上がってしまった。静まり返った教室に椅子と床が擦れる大きな音が鳴り響いた。みんなの視線が私に集まっているが、そんなことは気にならなかった。私は弓槻を追い掛けて教室から飛び出した。


 弓槻は黒髪を靡かせながら廊下を走っていた。

 そのまま階段を下っていく。私が一階に着くと、校舎の棟と棟を繋ぐ通路のドアを開けて、外に出ていこうとしているところだった。

「……!?」

 私も続いてドアを開けるが、弓槻の姿は見当たらない。

 何で、今確かに……。


「やっぱり着いてきたのね。」

 背後から声がして、驚いて振り返る。ちょうど日陰になっていて見えなかったが、腕を組んで柱に寄り掛かる弓槻が居た。伏し目勝ちの目でじろりと私を見ている。

「やっぱりって何だよ、私が着いてくるって分かっててわざとここに来たのかよ?」

 何となく見透かされているような気がしてムッとした。

 肩で息を整えながら弓槻をじっと見詰める。

「そうよ。」

 弓槻も私を見詰め返してきた。

 透き通るような瞳だ。

「……授業中、ずっとちらちら私の方を見てたわよね。聞きたいことがあるんでしょ。」

「……うん」

 見透かされた気がして悔しかったけど、私は正直に頷いた。

 私は周りを見渡して近くに人が居ないことを確認した。

「この前、お姉さんが一年前誰かに売られたって言ってたでしょ。その時、お姉さんと周りの人は一緒に、……亡くなったの?」

 ざあっと風が吹き抜ける。弓槻の黒髪が靡いてその表情を隠した。遠くの方で誰かの談笑する声が聞こえてくる。


「姉は、教室ごと消し飛んだ」

 弓槻はそう言うと、こちらに向かって歩いてきた。日陰から日向に移るとその肌は眩しいほど真っ白に見える。そこに浮かび上がる二つの瞳は、赤く燃え上がっていた。

「家庭科の授業中、爆発事故が起こった。当日欠席していた一人を覗いて、全員が死んだ。」

「それって……」

「その残った一人は、次の日海外に引っ越していった。学校に聞いても、プライバシーに関わるからって名前すら教えてもらえなかった。」

 そう言う弓槻の声は震えていた。

「姉の場合はそうだったけど、みんないっぺんに死ぬとは限らないみたいよ。現にこの前飛び込み自殺した女生徒の周りでは一人ずつ死んでいったみたいだから。うちのクラスはどっちになるのかしら」

 そう言う弓槻の声はもう震えていなかった。

 弓槻はくるりとUターンした。

「こんなことを聞いてどうするつもりだったの?あなたも協力してくれるのかしら」

 振り向きざまに弓槻はじろりと私を見上げた。伏せられたまつ毛のせいで黒目がほとんど見えない。

「どうせ何も出来ないなら、こんなこと聞いたって意味ないでしょ。」

 またあの虫けらでも見るような目で睨み上げられた。ムカついたけど何も言い返せなかった。だってそうだ、私には何も出来ない。


「正直、私はあなたが犯人かもしれないって今も思ってる。」

「は!?」

 いきなり飛び出してきた弓槻の言葉に私は思わず声を上げた。

「何でだよ、この前私の疑いは晴れたって言ってたじゃん。あれってそういうことじゃなかったのかよ?」

「あの時はそう思ってた。けど次の日の放課後、全員の机を調べたけど、誰の机にも何もおかしな物は入ってなかった。」

「おかしな物、ってそもそも何だよ……」

「魔法の力を手に入れた者は、黒い水晶玉を持っているってどこかで聞いたから。でも犯人は持ち運んでいなかったみたいね」

 弓槻はそう言うと、ドアを開けて校舎の中に入ろうとした。

「でもあなたじゃないって何となく分かったわ。」

 そう言って、ドアから手を離した。ゆっくりと閉まろうとするドアを慌てて掴む。

「何でだよ?」

 弓槻はふっと笑って、

「だって、初めて私の姉の話を真剣に聞いてくれた人だから。」

 弓槻は階段の影に姿を消した。

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