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ENDING  作者: るるの
ENDING
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3 売られた!?

 沙里と珠夏が死んだ。

 昨日、授業が終わって教室から出ていく時は普通に生きていた二人が。

 昼休み、あの都市伝説の話をしている時はあんなに笑ってたのに。

 信じられないけど、説明する担任の額にはいくつもの汗の粒が浮かび上がっているから、どうやら真実のようだ。


「夜中に二人で川に飛び込んだんだって……」

「二人がいっせーのって叫ぶ声を聞いた人が居たみたいで……」

「そういえばあの二人薬やってるって噂あったしね……」


 訃報を知らされてすぐに臨時休校になったけど、クラスメイト達はみんな教室に留まっている。

 二人と割かし仲が良かった子は机に突っ伏して声を漏らしながら泣いていた。が、過半数の子は死んだ二人の噂話や憶測で盛り上がっている。

 あー、誰も帰ってないけど帰ろっかな。ここに居てもあんま気分良くないし。

「しみず、帰ろ?」

 立ち上がってしみずの席に歩いていくと、しみずはこくりと無言で頷いた。


 しばらく廊下を歩いていると、私達に続いて誰かが教室から出てきた。

 振り返ると、弓槻だった。

 つかつかと私たちに向かって歩いてくる。

「な、何だよ」

 ずいっと弓槻の顔が近付いてくる。

「あなた達、昨日から何か変わったことはない?」

 いきなりそんなことを言い出した。

「何だよこんな時に」

 弓槻は表情ひとつ変えないが、どこか焦っているように見えた。

「帰った後も気を付けて。あなた達はあの二人から直接あの話を聞いてしまったから、もしかしたら……」

「何言ってんだよ!脅してんならやめろよ!今あんな作り話にかまってる余裕ないのは分かるだろ!」

 思わず叫んでしまった。しみずがびくりと肩を弾ませた。弓槻は表情を変えずに私をじっと見ている。

「あなた、まだ作り話だと思ってるの?」

「……え?」

 心臓がどくんと大きく脈打った。


「あれは真実よ。あの二人は、あの都市伝説に殺された。」


「……は?」

 どくん、どくんとゆっくりとした心臓の音が頭の中で鳴り響く。

 殺された、って何?二人は薬の幻覚症状で自分達から川に飛び込んだんでしょ……?


「あなた、昨日は事故があった電車に乗ってたらしいじゃない。偶然だと思う?身近でもう三人死んだのよ。そして、派手な事故だったにも関わらず三人ともニュースになってない。」

 弓槻の声がまるで耳から直接流し込められたような感覚になった。

 頭が痛い。目の前がクラクラする。

「昨日も言ったけど、自分の身も守れないからあの子達は死んだの。あなただってもうすぐ死ぬかもしれないのよ――」

「やめてよ!」

 弓槻の言葉を遮ってそう叫んだのは、私ではなくしみずだった。

「やめてよ弓槻さん。りんねが死ぬなんて冗談でも言わないで!」

 目に涙を浮かべながら肩で息をしている。こんなに怒ったしみずを見るのは初めてかもしれない。

「冗談じゃないわ。だって私はこの目で見たんですもの。」

「見たって、何を……?」

 上半分はまつ毛で覆われた瞳が私達を捉えて離さなかった。

「このクラスは、クラスの誰かに魔女に売られた。」

 弓槻の口から出てきた言葉と、昨日沙里達が言っていた言葉が重なった。


『何十人かの魂を差し出せば、魔法の力を与えてくれる『魔女』の都市伝説だよ!』

『うちのクラスも誰かに売られちゃったりして〜!』


「……本当に、うちのクラスが誰かに売られたってことかよ?じゃあ……」

 これからもどんどんクラスメイト達が死んでいくかもしれないってこと?私も、しみずも、弓槻も、だ。

「弓槻さん、見たってことは誰が売ったのか知ってるってこと?」

 しみずが尋ねると、弓槻は目を伏せて首を横に振った。

「顔までは見れなかった。でもその人が着てたのはうちの高校の制服だった。会話は聞き取れたから『私以外の一年B組全員の魂を』と言ってたのは聞こえた。」

「何だよ、それ……」

 絶対うちのクラスの誰かじゃんかよ。

 さっきまで教室で泣いてたり噂話をしてた誰かの中に犯人が居るってこと、か。なかなか怖いな。


「じゃあ、急に学校に来始めたのも、私達を助けてくれるために……?」

 しみずが尋ねると、弓槻はまた首を横に振った。

「助けるなんてそんな大それたことは出来ない。でも死ぬ前に犯人を突き止めたいと思ったの。たった一人の願いが叶うためだけに何十人もの命が犠牲になるなんてバカみたいじゃない。私はそんな下らない理由で死にたくない。誰かのために命を落とすなんて屈辱、絶対嫌」

 弓槻は忌々しそうに顔を歪ませて片方の唇を噛んだ。


「私があのやり取りを目撃したことはすぐに向こうのやつらにバレるだろうから、私ももうじき消されると思うけどね。」

 弓槻は自虐的に笑った。

「どうしてそんなに詳しいの……?」

「……一年前、私の姉も誰かに売られたからよ。」

 弓槻はそう言うと、私達の横をすり抜けて行ってしまった。私としみずは止めることも出来ずに立ち尽くしたままでいた。


 ……ああ、これは本当に現実なのだろうか。

 隣でぶるぶる震えているしみずを見る限りはどうやら現実のようだ。

「魂を捧げたら魔法の力が手に入る」なんて、そんなファンタジーみたいな話を信じるほど馬鹿じゃない。でも現に沙理と珠夏が死んでいる。……そして、あの飛び込み自殺した子とあの動画も、きっと無関係じゃない。

 しみずが不安そうに私の手を握った。

「どうしたらいいのかな……」

「……どうしようもないよ。弓槻に、任せるしか……」

 私達はきっと何も出来ない。でも弓槻ならもしかしたらほんとに助けてくれるかもしれない。何の根拠もないけど、何故かそんな気がした。

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