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ENDING  作者: るるの
ENDING
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2 都市伝説

『〜……♪』

 今日も大好きなバンドの大好きな曲で目が覚めた。

 が、今日は最悪の目覚めだ。

 クラスメイト達と、必死に何かから逃げる夢を見たんだ。


 いつも通り授業が終わって帰ろうとした時、いきなり教室が赤く点滅し出して、サイレンが鳴った。教師も居ないから私達は教室を飛び出して必死に逃げた。まるで何かに追い掛けられているような感覚だった。階段を下りるたびにどんどんクラスメイトが減っていって、一階に着く頃には、私ともう一人しか残っていなかった。

 そのもう一人が誰なのかを確認するところで目が覚めた。


 何なんだよ、もう!

 表しようのない不快感に、わざと大きな音を立てながら階段を下りた。

「うるさい!」

 リビングで朝食を食べていた妹に怒鳴られたけど、私は気分も悪かったし昨日の仕返しだと思ってわざと無視した。

「…………ぶっす」

 洗面所に入って鏡に映った私の顔は、昨日とは相反して物凄いブスだった。

 大量の泡で洗い流しても、真っ青なクマは落ちなかった。

 コンシーラーを塗りたくり、それ以上のメイクはする気になれずに洗面所を後にした。


 電車の中で推しのツイートにいいねとリツイートをする。バンドの曲を聞いていると、ガタンと車体が大きく揺れた。

 と思ったら、キキーという音と共に急停止した。

『えー、お客様にお知らせします、ただいまこの電車におきまして人身事故が発生いたしました。……』

 そんなアナウンスが流れた。


 ざわざわと騒然とする車内。

 こんな平日の朝っぱらから人身事故かぁ。ついてないなぁ、学校遅れるかもなぁ。

 なんて呑気なことを考えながら、何気なくTwitterを開く。

「……え?」

 タイムラインの一番上に表示されたのは、なんとこの人身事故の動画だった。

 しかも、どうやらこれはただの事故じゃないらしい。女子高生が、自ら線路に飛び込んだらしい。その一部始終が、物凄い勢いで拡散されていたのだ。


 動画はタップしなくても勝手に再生される。どうやら反対側のホームから撮っているようだ。

『間もなく二番線に各駅停車……』とアナウンスが流れた後、普通にホームに並んでいたポニーテールの女の子が急に駆け出し、人目もはばからず線路に飛び込んだ。私も毎朝見掛けている制服だった。

 ホームに並んでいた人達がぎょっとしてこちらを見たと同時に、電車で画面が埋め尽くされた。

 そこで動画は終わった。


「…………」

 再び最初から再生される前に私はTwitterを閉じた。

 吐き気がする。今、この私の足元に、ぐちゃぐちゃになった女の子が居ると思うと。もしかしたら、その子とは昨日すれ違っていたかもしれないと思うと。

 最悪。こんな動画見なければよかった。


 …………待って。

 私ははっとして再びTwitterを開いた。

 そしてさっきの動画をもう一度再生する。

 並んでいる人達。

 電車が到着することを知らせるアナウンス。

 そして、駆け出してホームに飛び込む女の子。

 …………え?

 この子、アナウンスが入る直前まで、普通に並んでた。飛び込む素振りなんて見せてなかった。

 これを撮影してるのは、誰?

 どうして、この子が飛び込むって分かったんだろう……。

 この動画が添付されたツイートには、「友達から送られてきた!」と書いてある。主のプロフィールを見ると、高校名が書いてあり、アイコンの画像は飛び込んだ女の子と同じ制服を着た二人組のプリ。

 ……あの子と、同じ学校の人ってこと?


 私は思わずカーディガンで覆われた手で口元を抑えた。心臓がバクバクと踊り狂う。

 何か知ってはいけないことを知ってしまった気がして、吐きそうになった。

 最悪だ。今日は人生最悪の日だ。


 何故か私の頭には、昨日の弓槻の言葉がチラついていた。


「私はこのままただその日を待つなんて出来ないから。」


「その日」って何だろう。

「その日」になったら、何が起きるんだろう。

 嫌な予感が、する。



 結局、電車が動き始めた頃には正午を回っていた。

 私は学校に行く気になれなかったけど、家に帰る気にはもっとなれなかったので、仕方なく学校に行った。


「りんね〜!」

 教室に入るや否や、駆け寄ってきたしみずが抱き着いてきた。

「大丈夫?りんねが使ってる電車で飛び込み自殺があったって聞いてびっくりしたよぅ」

「あー、」

 お願いだから傷を抉らないでほしい。私は抱き返す気にもなれずにされるがままだった。

「えー、まじ?りんねあの電車に乗ってたってこと?」

「やば!だから遅れたんじゃね?」

 近くに座っていた沙理(さり)珠夏(しゅか)がニヤニヤ笑いながらそう言った。


「やばいんでしょ、あの飛び込んだ子。魔女に売られたんだって」

「えー、まじ?あの都市伝説まだ死んでなかったんだ」

 沙里と珠夏の会話に、私に抱き着いたままのしみずが首を傾げる。

「え、何?魔女って?」

 二人は目を真ん丸にして顔を見合わせてから、またにやにや笑い出した。

「しみず知らないの?昔掲示板から流行った都市伝説だよ!」

「何十人かの魂を差し出せば、魔法の力を与えてくれる『魔女』の都市伝説だよ!」

「ええ、何それ〜」

 しみずは「怖いよぅ」と言って私の影に隠れた。

「あの飛び込んだ子のクラス、やばかったんでしょ。友達があそこの高校通ってるけど、どんどんクラスメイトが死んでいってるんだって。なのに休校にもならないし、授業も普通にあるんだって。もうクラスのほぼ全員が死んでるのにニュースにもなってないし。絶対闇あるよね。」

「それ絶対そのクラスの誰かがクラスメイト売ったじゃん!

 魔女は警察とか大統領とか、国の偉い人達とも繋がってるって噂だし。怖くない?うちのクラスも誰かに売られちゃったりして〜!」

 きゃはははと甲高い笑い声が教室中に響いた。

「は、はは……」

 普通に怖いって。笑えないって。私としみずは乾いた笑い声を出すしか出来ず、そそくさと沙里達から離れた。


「何あれ、本当なら怖くない?」

 私が言うと、しみずはうんうんと何度も頷いた。

「でも、ただの都市伝説だよね?今朝のもただの偶然だよね?」

 本当に怖がってるみたいだ。確かこの前流行っているホラー映画を一緒に見に行った時もすごい怖がってたし。なんなら泣いてたし。

「偶然だし嘘に決まってるって。もし本当なら大ニュースでしょ、もっと大々的に報道されてるって」

 そう言って宥めたけど、私だって怖い。


 今もまだ拡散され続けているあの動画の不可解な点と沙里達の会話が、とても無関係だとは思えなかった。

「あくまで都市伝説だし!あんまマジにならないでよ?」

 珠夏が怖がるしみずに気付いてそう叫んだ。

「もー、怖がらすなって!」

 私がそう返すと、沙里と珠夏は謝りながらも笑っていた。

 暗い雰囲気になっていた教室がいつも通り明るくなった。


 そんな私達を、弓槻がずっと凝視していたことに、私は気付かなかった。



 その夜、沙里と珠夏が死んだ。

 それを知らされたのは、翌日のホームルームだった。

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